見出し画像

数百年分のノウハウがつまった筍

3月、京都では「筍」が芽をだし始めました。
まだ小さく料亭や市場に出すことはできませんが、一雨ごとに大きくなり家庭でも楽しんでいただける日はもうそろそろ。ただ残念ながら、えぐみがなくて甘い本当に美味しい筍は、我々庶民には手が出せないかもしれません。


筍とは、こういうものという思い込み

おそらく多くの人が、筍は「固い」「多少えぐみがあるもの」「糠で灰汁抜きするもの」「処理が面倒」と思っているでしょう。確かにそれは間違いではありません。日本全国「筍は、だいたいこんなもの」というイメージが定着しています。

ですが本当は他の野菜と同じく、もともとの土壌、肥料、育てかた、掘るタイミングと掘りかたで、色も固さも甘さも、そして香りも違う。何より筍の特徴ともされる、えぐみ、灰汁の強さが違います。


筍には多少なりともえぐみがある

そんなふうに思っている人は多いと思います。
ですが京都大原野の筍は、ほとんどえぐみがない。もちろん農家さんにもよりますが、あったとしても気にならないほど微かなもの。喉の奥がなんとなくイガイガするような違和感を感じたことがありません。朝堀った筍を、遅くても夕方ごろには灰汁抜きできる環境にいるからというのはあるにせよ、やはりそれだけではないようです。

ある日近所の農家さんからいただいた朝堀の筍が、いつもと違って少しえぐかった。いつもより灰汁も強くて、茹で汁にブワブワとした泡が立つ。それでも以前スーパーで買っていた他のエリアのものより少なく、美味しい。

翌日その農家さんから電話があり、こう言われました。
「昨日の筍、いつもと違う畑(竹林)のやつやねん。
 土と陽当たりが違うから、いつものよりだいぶ味が落ちるやろ。
 ちょっと、えぐいねん。言うの忘れとった。ごめんごめん。」

つまり、そういうことなのです。


筍は固いもの

これも確かにその通り。
ですがよくネットで目にするように、筍は茎なので根菜類のような固さとは少し違うと思いませんか。

小さな芽をだしぐんぐん伸びる過程で、空気と陽に触れ固くなっていくのだそうです。だからと言って、土の中にいる時はフニャフニャ柔らかいわけではありません。繊維質なのでそれなりに固い。でも空気と陽に直接触れたものほど繊維が太くはないので、噛んだ時に柔らかい感じがします。

ぐんぐん伸びて固くなる前に、小さな芽をだしたばかりのタイミングで掘る。噛んだ時にゴリゴリしないソフトな食感の筍は、掘るタイミングが大事なのだそうです。


筍に香りはあるの?

口に入れた瞬間、淡く甘い独特の香りが広がります。
焼き筍が最も強くその香りを感じさえてくれると思いますが、家庭ではなかなかできません。

筍農家さんが時折、市場などに出せない傷ものや小ぶりのものを納屋の側で焼いてくれるのですが、その時の香りの良さと美味しさたるや言葉が見つからないほど。同じように、大釜で茹でたばかりの筍をスライスしていただく「筍のお刺身(京都ではこう呼びます)」も、筍の淡い香りがよくわかります。わさび醤油が定番とも言われますが、個人的には山の幸には山の塩(岩塩)でシンプルにいただくのが好きです。


実はすごい筍の栽培技術

この数年筍農家さんだけでなく、日本が誇る様々なノウハウを後世につなぐための諸々を続けているのですが、その大事さに共感する日本人の少なさに悲しくなることがあります。

筍は特に、テクノロジーの進化だけに頼ることが難しい日本の貴重な栽培技術。だから絶やすわけにはいかないと思って関わっているのですが、なかなか理解されにくいのが現実です。

江戸時代からと言われる筍栽培ですが、いろいろ調べてみると実はもっと古い記録もあるようです。いつからであったにせよ、何百年かの時を経て受け継がれてきた知恵が生みだす美味しさであることに変わりはありません。

ですが、手をかければかけるほど美味しさに比例して価格もあがる。
そのため、えぐみの少ない甘い筍の多くが料亭やホテルなどで海外からのお客様に提供されることになるのは、なんとも寂しい話です。

後継者もなく高齢化していく一方の筍農家さんたち。
いつか筍栽培技術も外資に買われるか、このまま消えていってしまうのかもしれません。そうならないようにしたいものです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?