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【ブックセレクト】創作の原点とは何か?考えさせてくれる本?

またやります、妄想ブックセレクト。
今回のテーマは、
クリエイト、創作について
考えさせてくれる本を読みたい、
そんな依頼を、芸大生から
受けたと仮定します。

創作の原点といわれて真っ先に
思い浮かべるのは、
坂口安吾のエッセイ
『文学のふるさと』です。
作家になりたい人はみんな
これだけは読んでみて、
それからこのエッセイが問う
創作とは何かについて、
自分なりの解答を探して欲しい位です。
『堕落論』新潮文庫収録、572円。

芥川龍之介にある貧しい
農民作家が原稿を持ってきた。
原稿の内容は、貧しい余りに、
生まれたばかりの赤ちゃんを
夫婦で生き埋めにする実話でした。
芥川は余りの事に返答できなかった。
言葉には困らないはずの、
才気煥発を誇った芥川なのに…。
しかし、安吾はそこが正に
文学のふるさと、
始まるところだというのです。

農民が大地に足のついた生活を
しているから尊いという訳ではなく、
自分が地に足ついてないことに
気づいて当惑した芥川の姿です。
言葉の魔術師として
早くから文壇の寵児として
頂を登ってきた芥川は
初めて自分の流暢な文学の無力さを
感じたというのです。
芥川はしかし、この後に心身を壊して
自殺してしまいました。
農民作家が与えた新境地から
芥川の新しい文学が始まっていたら?
と思うと残念でならないですね。

もう一つ、創作の原点を
考えさせるエッセイがあります。
小林秀雄『考えるヒント3』の
「信じることと知ること」です。
文春文庫、759円。

民俗学者・柳田国男はある時
作家・田山花袋に、
貧しさの余り子供と無理心中した
父親の話をしました。
ただし、その心中は子供の方が
親に懇願してやったものでした。
柳田国男は、その若い頃、
今の法務省の役人であり、
様々な残虐事件に触れていました。
田山に小説用にネタを求められ、
友人として、話してあげたのです。

すると、田山は、そんなに極端で
奇抜で深刻過ぎては、文学にならない
と言ったんだそうです。
なんて薄っぺらい文学観でしょう。
当時は文壇の最高位にいた作家にして
その創作観や人間観はそんな
見え透いたものだったのです。
今や田山花袋は文学史の年表で
見かける自然主義作家に過ぎない。
日本の自然主義文学は、戦前戦後は
流行の頂点を極めておきながら、
身近な人間の猥雑な話しか相手に
しなかった…だから自然消滅した…。
一方、柳田国男は、日本に
民俗学を切り開こうとして
数々の著書を世に送り出し、
死ぬ間際まで民俗学のために奮迅しました。

ちなみに、無理心中した山の親子の話は
『山の人生』という本の序文として
柳田国男の活動の原点として
刻まれています。

創作とは何かを考えさせてくれる
話は、なかなかないのかもしれない。
そう思い、この2つを選びました。

この2つ以外にも、
創作秘話なら、いっぱいありますね。
代表的なものとしては、
『筒井康隆、自作を語る』
ハヤカワ文庫、1012円や
『職業としての小説家』
村上春樹、新潮文庫、737円。

でも、こうした創作裏話は
「創作とは何か?」については
当然のものとして語られている。
なぜ書くか?書かれるに値するもの
とは何か?その肝心の話はあまり
追求されていないですね。

あ、肝心の話が追求されては
いないけれど、その作家が
どうやって作家であり続けるのか
覗き見られるのが『3652』。
伊坂幸太郎エッセイ集です。
新潮文庫、781円。
伊坂さんが落ち込んだり
励みになったりする人間的な側面が
ありのままに書かれてます。

『堕落論』坂口安吾
『考えるヒント3』小林秀雄
『3652』伊坂幸太郎

今日のセレクトは
こんなところでいかがでしょう。


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