【インタビュー集】村上春樹『アンダーグラウンド』の不思議さ。
「三月二十日の朝に
東京の地下で
何が起こっていたのか?」
という小見出しで始まるのは、
村上春樹『アンダーグラウンド』の
最終章です。
3月になると、毎年、
オウム真理教や
地下鉄サリン事件が
思い出される。
でも、1995年から、
27年が過ぎているんですね。
もはや歴史的な過去でしょうか。
とはいえ、
まだ過去にはなっていない
という感覚があります。
もっといえば、
過去にしてはいけない、
という感覚です。
村上春樹はこう書いている。
「事件発生以来二年の歳月を経て、
私たちは、大きな乗合馬車に
揺られていったいどのような
場所にたどり着いたのだろう?
私たちはあの衝撃的な事件から
どのようなことを学びとり、
どのような教訓を得たのだろう?」
春樹がこの最終章を書いてから
さらに25年が過ぎました。
さあ、27年経って、
私たちは地下鉄サリン事件から
学べるものを全て、
学び尽くしたでしょうか?
最近、オウムサリン事件に、
話を向けると、
もう関心がないか、
アレフとか上祐史浩とか
オウム残党グループの動きに
関心を示す方に出会います。
でも、私が話したいのは
ちょっと違うんです。
オウムの残党には
もう興味はない。
現代社会を戦慄させる
チカラはもはやないでしょうから。
あの1995年に私たちを
前例のない衝撃で絶句させるような、
新しい種族の恐怖生産者が、
今もこの時間も粛々と
計画が進めてるかもしれない?
それが、今度はオウムや
それに似た新興宗教ではなく、
ぜんぜん予想もできない、
新しい分野から出てくる
かもしれない、ということです。
今の社会システムに不満を持ち、
新しい価値観を待っている人は
このグローバル時代には
たくさんいるはずだから、です。
それにしても、
村上春樹の『アンダーグラウンド』は
不思議な本ですねえ。
地下鉄サリン事件の二年後に、
被害者62人のインタビュー集として、
1997年、発行されました。
その後で、
『約束された場所で』では
オウム真理教の信者たち側の
インタビュー集として、
1998年に発行されています。
普通、何か事件が起きた場合、
マスメディアなら、
まず加害者にアプローチし、
事件を起こした動機や顛末を
インタビューしたくなる。
被害者へのインタビューは
その次段階だ。
でも、村上春樹は
そうした、手垢のついた
やり方を選ばなかった。
先に、被害者を、
それも62人もの被害者の言葉を
集めることに尽力しました。
あの事件を迎えた、
普通?に暮らしていた日本人たちは
いったいどんなことを考え、
どんな風に感じていたのか?
「当たり前」に生きていた人は
なぜ、あんな事件に
巻き込まれたのか?
そのことで、
『アンダーグラウンド』は
永遠に読まれるインタビュー集の
傑作になりました。
それにしても、
新しいテロ集団が
今も、どこかで、どこかから
誕生してはいまいか?
私は心配し過ぎでしょうか。
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