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【読書】肉親の蔵書は、小恥ずかしいものです??

身内の蔵書は、
なぜだか小恥ずかしいものです。

母の車に乗ると、
ダッシュボードに、
『嵐が丘』がすぐ目に入る。
母の愛読書らしい。
20年近くずっとある。

出かけ先にいて
時間ができたら読むのでしょう。

それにしても。
嵐が丘だなんて、
ロマンチックな恋愛活劇の
正統派文学が、愛読書かあ。
(汗)
母がこの小説を読む時、
どんなことが心に去来するのだろう?
どんな体験の記憶が去来するだろう?

でも、母はそんなにたくさんの
本は持っていなかった。
実家の9割は父親のものだった。

父の蔵書は
いかにも20世紀の教員らしく、
ごくごく普通の純文学が
並んでいました。

せいぜい、
星新一が並んでいるのが
新しい空気をまとっていました。

夏目漱石、
山本周五郎、
池波正太郎、
藤沢周平、
松本清張、、、、。

そんな中に、
ある時、突然、村上春樹の
デビュー作『風の歌を聴け』の
文庫が本棚に加わった。
その時は、ちょっと、
父を見る目がびっくりでした。
カタブツの父に村上春樹を受け入れる
余裕やセンスがあるとは
思えなかったからです。

和歌山の田舎の中学の教師に
そんなハイカラ(笑)なセンスが
あろうとは、、、、。
 
父は、田舎のカタブツな公務員ながら、
読書人としては、
生身の一人の人間だったのですね。

話はまた、母親に戻ります。
数少ない母の蔵書に
宮本輝『錦繍』がありました。
かつて夫婦だった二人が、
全くの偶然から、スキー場のゴンドラで
ばったり出会う。
もう会うはずのなかった二人が
手紙を交わしていく、
そんな書簡往復スタイルの小説です。

私が中学生時代、
こんなことがありました。

母を地域の読書会に勧誘しようと、
ご婦人が我が家に来ていました。
でも、母はどうもその勧誘に
乗り気ではなかった。
会話の行方はあまり建設的とは
言いづらいものだった。

ご婦人は、読書会の素晴らしさを
アピールしていました。
そのご夫人が当時、
直近で課題図書にしたのが、
宮本輝の『錦繍』だったようで。
最高の恋愛小説だと力説してました。

すると母は、
自分の人生には、
『錦繍』よりもっと辛く切ない
思い出があったこと、
本や読書より大切なことが、
生きている現実には
あったことが誇りであり、
だから、読書会には入るつもりはない、
そう母は訪問客の勧誘を
辞退していました。

私は自分の部屋にいながら、 
ドキっとして、物音もさせず、
衝撃で縮こまってました。

母親の人生に、
『錦繍』以上のドラマチックな
ことがあったなんて?
信じられない。
信じたくもなかった。
思春期の当時の私は
身勝手な言い分ですが、
親は親としていて欲しかった、
一人の生身の人間として母を
捉えるウツワがなかったのです。
母にどんな大恋愛があったか、
なんて知りたくもなかった。

あれは子供過ぎましたね、つくづく。
人間だもの、
親ではあるけど、
まずは、一人の人間なのだから、
好きな本を読みたくて
当たり前ですよね。
自分のウツワの小ささに
今日は悲しくなりました。

親であれ、教員であれ、
どんな本をも読む権利があるのですから。

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