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治療家・河合隼雄と、思想家・河合隼雄。

今日、岩波書店のブックカフェに行くと、
河合隼雄さんの文庫の新刊を見つけた。

「夢・神話・物語と日本人
~エラノス会議講演録~」
岩波現代文庫

目次で中身を調べると、
夢を記録した明恵上人や
日本神話や昔話、
とりかへばや物語に対する
分析、研究の成果などです。

心理療法家としての河合隼雄の
側面ではないようで、
買うのはちょっと躊躇ったけど、
よくよく本文を読んだら、
河合先生の人間観察が光っていて、
買うことにしました。

河合さんには
思想家・河合隼雄と、
治療者・河合隼雄の
ふたつの面がありますね。

実際、岩波現代文庫からは、
『思想家・河合隼雄』と
『臨床家・河合隼雄』という2冊が
同時に出されました。

わたくし事ですが、
今から約10年前、
うつにかかってメンタルをやられ、
藁にもすがる思いで、
河合隼雄の心理学の本に
しがみついていった私には、
心理療法家、つまり、
病いと臨み続ける河合隼雄が
圧倒的に好きであり、
生きる拠り所であり、
先生のカウンセリングを受けるような
気持ちで読んできました。

でも、一方では、
自分自身は健康な方で、
メンタルの患者ではないけど
河合隼雄をユングの専門家として、
また、夢や昔話を読み解く専門家として
河合先生の本を読んでいる人々が
たくさんいることも、
知ってはいます、理解しています。

何より、
ユングを日本に広め、
カウンセリングを
科学的なものとして広めたのは、
河合隼雄さんです。

ただ、思想家・河合隼雄と
治療家・河合隼雄は、
簡単に別々のものとして
切り離せるのでしょうか??

ユングのことを書いた文章も、
うつや統合失調症の患者のことを
より理解していなくては、
ユングの真意、河合隼雄の真意は
どれくらい胸に届くのでしょう?

う~ん、どうしても
この河合隼雄論になると、
ちょっと私は冷静さを失います、汗。

以前、河合隼雄の本を
自己啓発本だと書いていた
エッセイに出会って、
びっくり、呆然としました。
目を引くため、だったんでしょうが、
河合隼雄は、そこらの自己啓発とは
段違いです。寛容さ、懐の深さが
はるかに違います。

河合隼雄さんの向こう側には
彼に直接・間接、治療されている
メンタル疾患者がたくさんいて、
そのことだけは忘れないでいてほしい。
彼は治療者なのだから!
そんな不満と願いを
感じたことがありました。

臨床家か?思想家か?
仮に世間では5:5だとして、
というか、それくらい
客観的な視野で見た方が
いいのでしょうけれど、
私の中では、
臨床家8:思想家2、いや
9:1に思っています、汗。
それは偏り過ぎかしら(笑)。

心について、こんなに
多くを教わった人はいませんし、
精神疾患について
こんなに愛情をもって拠り所を示し、
また必要な時は
厳しく突き放すよう
読者を導いた心理学の著者は
河合隼雄がダントツです。

そもそも、
治療家と思想家、
2つの側面に分けることが
よくなかったかもしれませんね。

いずれにせよ、河合隼雄ほど、
血の通った著作を書き続けた人は
めったにいませんね。
心理学、深層心理学の分野では。

私は、そのことだけは、
「思想家・河合隼雄」派の人々にも
忘れてほしくないと心から願います。

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