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刊行物スピンオフまとめ

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#短編小説

身に覚えのない交通系IC - 『雨月先生は催眠術を使いたくない』スピンオフSS

(ネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください)

 有楽町線・桜田門駅というのは、名前の華やかさとはうらはらに、あまり存在感のない駅である。
 日本の中枢、官公庁舎が集められたこの場所には、千代田線・丸ノ内線・日比谷線が乗り入れる絶対王者の霞が関駅があり、わざわざ乗り換えがだるい有楽町線に乗る理由があまりない。
 それは、桜田門と呼ばれる警視庁本部に出勤する者も例外ではなく、捜査二課の刑事で

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旧繰川高等学校(名著奇変-はるまひ廃墟探訪2)

旧繰川高等学校(名著奇変-はるまひ廃墟探訪2)

 我が校伝統の写真部が実質廃墟部になってしまったのは、幼馴染みの圧倒的スポンサー力のせいであった。
 大手菓子メーカー・秋野製菓の御曹司であるこのピアスバチバチ野郎は、遠出の撮影のたびに、息子の活動に寛容すぎる偉大な父から『部費の足しにしなさい』と言って十万円を支給されていた。
 真尋はピュアなので、にっこにこの笑顔で『部長、この金好きに使ってください!』と言って大金を渡し、恐縮した部員たちは秋野

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Day3.5「ミミズ探し」 八日後、君も消えるんだね 陽平誕生日SS

 天の端っこ、天端村。
 その名にふさわしく、緑豊かな美しい山の頂上が天に向かって切り開かれたような、小さな限界集落。
 僕はこの村が好きだ。僕だけじゃなく、村人みんなこの小さな限界集落を愛している。
 生きものもヒトも植物も、等しく太陽の光を浴びて、いつもキラキラしているから。

 そんな僕らの村が突然、大噴火のような爆発音とともに、一変してしまった。

 いま天端村は、周りの地面がなくなり、雲

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「火焔太鼓」江戸落語奇譚スピンオフ

 きょうもナチュラルに夕飯が振る舞われるのを待っていて申し訳ない。
 なので、せめて焼き鮭分くらいの働きはしようと、申し訳程度にツイッターのDMを開いて、めぼしい情報を探していた。
「あ。なんか、すごい落語っぽいのが来てるんですけど」
「……と言いますと?」
 短さんが、焼き鮭と小鉢を載せたお盆を座卓に置き、俺の横に座る。
 首だけ伸ばして、俺の手のなかにあるスマホの画面を覗き込み、さらさらっと読

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青野短モテ伝説、バレンタインデーの場合(江戸落語奇譚小噺)

 世はバレンタインデーである。
 俺こと桜木月彦――極度の人見知りだ――にとっては、二十年の人生において全く無縁のイベントであり、友チョコはおろか、母からもらうということすらなかったので、まあ、普通に忘れていた。
 本日が2/14なことに気づいたのは、昼過ぎ。
 きょうも青野家にバイトに行くことになっているが……家がチョコだらけになっているのではないかと想像した。
 学生時代、数々の『青野短モテ伝

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SS『すみません……もぐもぐ』江戸落語奇譚②発売御礼企画その1

 俺こと桜木月彦は、悩んでいた。
 雇い主にこんなに食事を作らせてしまって、大丈夫なのだろうか……と。

 麗しの雇い主・青野短さんは、たいそう料理がうまい。
 東京根津の名店『小料理屋あをの』の一人息子だからである。
 ……かと思いきや、いままでは見よう見まねで作っていたらしく、俺に振る舞うために料理の研究を始めたそうだ(1巻3章冒頭に書いてあった)。
 他方俺と言えば、2巻2章では、青野家に着

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