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プライドか臆病さか #2

前回↓

前回は、大してベース弾けないけど、なんとなく居場所を見つけてそこに安住してしまっていた話だった。

そこで出てきた「理想」の話をする。「理想」というものに近づくにはそこに至る経路を想定するとよい、とよく言う。

例えば、「理想」の位置が、アフリカのなんとかいう国のとある村の場所だとする。成田からイスタンブールあたりまで飛行機で飛んで、そこからエジプトのカイロに行って、あとは中距離便を何本か乗り継ぎ、そのなんとかいう国の首都か大きめの都市から車で向かうなりすれば、おそらくたどり着ける。30時間くらいかかるかもしれないが。金と時間とやる気さえあればできる話だ。

ところが、おれが想定した「理想」の位置は、宇宙だった。今のところ一般人が宇宙に気軽に行く手段は無い。しかも、「たぶん宇宙にある」というくらいぼんやりした想定だった。太陽系内なのか、それとも別の恒星系なのか。それすらわからなかった。

アフリカのどこかなら、まあどんなに寄り道しても2万キロも移動すれば到着する。ところが宇宙は果てしなく広い。その中でどこかにあるのはわかっているが、どこにあるのかよくわからないものを探すのは雲をつかむより大変だ。

対バンする連中の中には、しっかりと明確な理想像を持ち、ともすると姿形まで真似てその人になりきろうとする人さえいる。しかし、おれにはそういう明確な理想「像」がなかった。

おかげで、理想と現実の距離を測ることができず、一方で理想からまるで遠い位置にいる自分を自分で許容できなかった。そこで、おれが編み出した(今から思えば)ウルトラC的な技が「理想に近づかない」という手法だった。理想ははるか遠くに、しかし確かに輝いている。それでいいじゃないか、という具合だ。ある種の諦めなのは間違いないのだが、そもそも戦う方法がわからない、その方法を知らない状況だった。「戦ってないから負けない」理論というかもしれない。

これをやると一瞬の安堵は得られる。しかし、メンタルには非常に良くない。逃げを打ちっぱなしなのはどこかでわかっているのだ。タイトルでプライドとつけているが、実はこれはうぬぼれと言った方がいいかもしれない。心のどこかで自分は特別な存在だと思っているが、楽器を持つたびにそうではないと思い知らされる。今日弾いたことが1の上達につながるかもしれないが、マイナス百億から1を引いたところで何になろう。

ポジティブに上達できる人は、常に今日の自分が0の状態だ。理想は1000とか10000の位置にある。今日練習すると0が1になる。明日学習すると2になる。そうやって積み上げていける。

ところがおれみたいな思考のやつは、理想の状態が0で現在の状態は0から下がったマイナスの状態だ。どんなに頑張ったところで(そもそも頑張ってないが)マイナスが少し減るだけで依然としてマイナスの位置にいることには変わりがない。ずっとずーっとマイナスの状態で、自分が特別な存在でないことを突き付けられ続ける。これはある種の自傷行為とすら言える。

今から考えると、おれの理想って完全なインプロビゼーションだったんだよね。間違ってたんだけどさ(笑)。何もないところから音楽を生み出せることが、音楽の究極だと思ってた。何もないというのは本当に何もなくて、コード進行も理論もないところから音楽が生み出されることが、完全な音楽だとも思ってた。

でも、集客してステージで演奏する形態をとる人の中で、おれの考える「完全なインプロ」をやっている人はまずいない。どんなジャンルでも、セクションの長さ、コード進行くらいは同じステージに立つ人と共有している。エンターテイメントに属する部類の人なら既発の曲を再現し、そこにライブ演奏でしか得られないテイストを入れることが評価される。そこに気づくのにえらく時間がかかった。自分しか知らない音の羅列って、それって音楽か?とすら思うのだが、当時はそれに気づけなかった。

という具合に人類未踏の理想を掲げ、一方で徒歩しか移動手段がない、でも目的地は宇宙、みたいな状態で長いこと迷子になっていた。

とはいえ、「何かをなんとかしないといかん」とは思っていた。1年弱くらいプロミュージシャンについて習ったこともあるし、独学だが数年かけて楽譜らしきものをソフトウェアで書けるようになったりしていた。

ベースを弾きたいからバンドをやっているのではなく、バンドをやりたいからベースを弾いていたので、自分の演奏力はともかくバンドが前に進むためならできることは何でもしたし、インディーズバンドがたいてい思いつくことはだいたい試した。

こうして、演奏力以外は一通りの経験値を積んだ「ベーシスト」または「バンドマン」が出来上がった。演奏力以外は。どんなベースでもどんな弦でも同じ音がした。その程度しか出力できていなかった。袋小路で煮詰まってい居たが、そこ以外の行き場を知らなかった。

って書いてみると自分で思ってた以上にやべーやつだな(笑)。

さて、次回はKORNと出会う話。

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