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ジャガーでハワイを走ってみたら

ワイキキのとあるホテルのロビーに1台のジャガーが滑り込んできた。

美しいシャンパンゴールドに輝くジャガーの運転席からは初老の女性が降りてきた。

その風景を遠目から見ていたわたしは、いつか自分もあんな風にジャガーに乗りたいと思った。定年を迎えた頃、あの婦人のように優雅にジャガーを運転してみたいと。

洗練された優美なデザイン、ボンネットの先端には今にも飛びかかろうとするジャガーの立体エンブレムが銀色に光る。

そう、その日から、ジャガーはわたしのドリームカーになった。


十年後の2010年、古くなったカローラをそろそろ買い換えようと思い、新聞のオート欄を探した。

数少ないジャガーの欄にディーラーが5年落ちのSタイプを載せていた。当時のジャガー相場は、たったの5年落ちでも殆どが半額まで落ちていた。かわいそうなイギリス車。

早速、ディーラーまでドリームカーを見に行った。販売員に案内されて新聞記事のジャガーを目にした時は、その美しさに感嘆した。

Certified pre-owned car (認定中古車)のサインが車体に貼ってあったそのジャガーは水色とエメラルドグリーンが混じったハワイの海の色をしていた。

"Sea Frost って色だよ" と販売員のおじさんは言った。車体も思ったより大きすぎず運転しやすかった。走行距離も短い。故障が心配だったが2005年以降は改良されたらしく認定もついていたので購入を決めた。


十年前、ホテルで見たあの婦人よりもまだまだ若かったけど、わたしは憧れのジャガーのオーナーになった。

クリーム色のレザーシートに座りフリーウェイに乗った。車体がとても重く感じてパワーもすごかった。加速を感じながら今まで乗っていた車がゴーカートに思えたほどだった。

アメリカの人たちはジャガーを親しみを込めてキャットと呼ぶ。ネコ科のジャガーからか。

そして、販売員のおじさんが言ってた通りジャガーのオーナーは女性が多かった。ハワイですれ違うジャガーのドライバーを見るとほとんどが女性だった。

わたしはジャガーに乗って色々なところに行った。アクセルを踏むとボンネットの銀色のジャガーも一緒に走ってるみたいだった。

もっと若い時に乗っていたらスピードに挑戦したりするんだろう。右半分のスピードメーターを使えずもったいない気もしたが、年齢とともに更に安全運転になった。

そんなドリームカーも年月がたつと故障も増えてきた。修理代もラグジュアリーだ。ディーラーのシャトルバスを運転するハワイアンのおじさんがわたしに言った。

「僕たち庶民が乗るにはお金のかかる車だよ」

悲しいけど確かにそうだった。

そして、7年乗ったところで手放すことにした。

最近のジャガーは昔の高貴なデザインから比べるとかなりスポーティになった。ドライバーも男性が増えた。映画の007でも見られるがアクションシーンにピッタリだ。

さびしいのはボンネットのジャガーのマスコットが安全面から、もう作られなくなったこと。

ハワイの海を見ながら海色に輝くドリームカーを運転した日々は本当に夢のようだった。

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