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デビュー35周年➕1年を迎えた森川美穂氏との、あれこれそれ。その2。

ある日、知らない番号からの電話が鳴った。

誰・・・?

恐々、電話を取ると、めちゃくちゃ明るい声がした。

「こんにちはー‼️」

はい、こんにちは。・・・誰?

「森川美穂ですー‼️」

えーっ⁉️うそ、マジすか⁉️

「マジでーす‼️詞、書いてくださいっ‼️」

きゃあ、嬉しい❗️書きますー‼️

以上。

これが、歌手森川美穂との20年ぶりの会話だった。

ディレクターN氏に「美穂に連絡したほうがいい」と、半ば強制的に連絡先を教えられ、メールをしたのが前日だった。

これか!と思った。

のちにN氏から聞いた話では、美穂氏が詞を書けないで困っているという事実をN氏は知らなかったらしい。
知らなかったけど、連絡すれば、何かが始まると予感したそうだ。

やっぱ、エスパーやん、N氏。

こうして出来上がったのが「Eternal Castle」という曲。作曲はAKB48の「フライング ゲット」を書かれた、すみだしんやさん。
リリースは2012年夏でした。

レコーディングに立ち合ったのは、確か6月。コンサートは7月だったから、N氏とコンサートに伺う前に「感動の再会」を果たしていた。

ごめんよ、エスパー。

20年ぶりの再会は、とても不思議な気持ちだった。ヤマハ時代、5年程関わらせていただいたとは言え、歌い手である美穂氏は高校生。打ち合わせは、エスパーN氏やスタッフとだけ。本人と会話らしい会話は、したことがなかった。

のちに、彼女は、こう言っている。

「若い頃、唄っていた歌詞、全く分からないものばかりだった。今になって、ああ、この歌って、こんな意味だったのかー!と、やっと良さが分かっている」

一瞬、点になった。

ごめんよ、美穂ちゃん。
竹を割ったような性格の美穂ちゃんに、餅をついたような歌詞を書いてしまったことがあったのかもしれない。

でも、こうも言っている。

「例え、自分の中にない性格やシチュエーションの歌だとしても、演じることは楽しい」

ありがとう。救われます。

どの曲が全く理解できてなかったのかは、怖いから聞いていない。

この再会以降、コンサートによく呼んでいただくようになった。大阪芸術大学で毎日、教授として働く傍ら、自身のコンサートを行う。

情熱と体力と知性がなければ、恐らくやっていけない。美穂氏は、目の前にある現実を、どう受け止め、どう行動すれば「森川美穂」になるのか瞬時に判断し、決断できる「プロの大人」になっていた。

2015年、春。
この年は、森川美穂氏にとってデビュー30周年を迎えていた。それを記念して、新曲をリリースしたいという電話を美穂氏からいただいた。
伝えたいメッセージがあるらしい。が、「自分ではテーマが大きすぎて、なかなか書けない。手紙を書くので、読んで、詞を書いて欲しい」

3日後に届いた音源には、それはそれは美しく丁寧に書かれたお手紙が添えられていた。

「30年、ずっと歌い続けてこられた感謝の気持ちを歌いたい。そして、その感謝を形にするならやはり、ずっと歌い続けていくということ。それしかない。それを誓うような曲にしたい」

しびれた。

曲は、土井淳さん。ピアノによるバラード。

私は、沢田研二さんの「いくつかの場面」という曲を思い出していた。ジュリーが、1975年にリリースしたアルバムに収録されている。デビューしてから、これまでのことをひとつひとつ思い出して、しみじみ唄うバラード。作詞作曲は、酒と涙と男と女の河島英五さんである。

美穂氏がジュリーになって欲しいわけではなかった。美穂氏には、ますます森川美穂になって欲しいと思った。
「いくつかの場面」にあるように「長い映画を早回しで見るような一曲」を作りたかった。

言葉を話す その前に 
歌いだしたと母は言う
喧嘩をしても ひとりでも
唄っていれば 良かった

書き上げた詞は、こんなフレーズから始まる。美穂氏にインタビューしたわけではなかった。彼女は「おしゃべりを始める前に歌い出した赤ちゃん」のように思えた。事実、そうであるに違いないと思っている。

30周年記念コンサートで歌われたこの曲は、
「Life is beautiful」というタイトルにした。
2015年7月、渋谷PLEASURE PLEASURE、会場は、この曲が歌われた5分間だけ、波を打ったような静けさに包まれた。

こ、これは、正解なのか?不正解なのか?

二階席で聴いていた私は、どちらか分からないまま、ただ、涙を流していた。

しかし、なんと、この時点では、森川さんは、エスパーN氏とは仕事をしていなかった。
N氏は自身の事務所を持ち、違う仕事をしていたし、「 Life is beautiful」も、全くリリース予定のない楽曲だったのだ。

が、この年の秋、またしても美穂氏には劇的な再会が用意されていた。

つづくー。


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