見出し画像

「陶芸家になるには」ーランニング編ー 1 < はじめに >

黒(苦労)歴史

金沢の工房への入所時、ある大御所の工芸作家にお会いしました。
印象的だったのは、その方の指が、道具を持つ形に曲がり、動かなくなっていることでした。

それから5年後、私はド・ケルバン病という腱鞘炎を発症。過度な制作が原因でした。

独立前から、「若手作家は寝ずに作れ」「好きなことをしているのだから文句を言うな」という、かなり体育会系な刷り込みがあり、作業効率よりも、どれだけ長く・多く制作したかで、自分の作家としての価値を計っていました。
展示への追い込みのあとは、必ず体調を崩していましたし、メンタル的にも鬱状態が続いていました。

そんな状態でつくる作品が良くなる訳もなく、なかなか売上が上がらなくなりました。そうなると、買われやすさを考えた、「置きに行った作品」しかつくれなくなり、さらに魅力が下がりました。

燃え尽き症候群(バーンアウト)からくる、負のループです。

そのタイミングで腱鞘炎の発症。
半年間、手を動かすことができず、収入は止まり、貯金は無くなる…

これらはすべて、制作にかかる様々な要素を、コストとして認識していなかった為です。

コストについて

このような黒歴史があり、一度自身が陶芸を続ける目的や、方法を明確にする必要性を感じました。
下記のように、いろいろと考えた結果(時間は沢山ありましたので…)、一つの結論に至りました。

良い作品を作りたい

そのためには、楽しく制作をする。

そのためには、余裕が必要。

そのためには、制作を持続可能にする。

そのためには、自身や制作をコントロールする。

そのためには、コントロールできる要因を知りたい。

それを、コストとして洗い出す。

そもそも、作品を制作するための負荷は、取り除くことができません。

それは、素材という物理的に存在するモノに、人が手を加え、作品とするからです。

素材も、手を動かすことも、それを行う時間も、すべてコストとしてとらえることができます。

そして、そのコストの要因を知り、そのバランスをコントロールすることで制作を持続させることができます。


簡単な例として、資産が100万円あったとします。
良い作品には、良い素材が必要ということで、100万円分の土を買いました。
こうなると、作品の焼成代も、道具も、制作を継続するための自身への食費もまかなえません。

こんなの当たり前…と思いがちですが、私が陥った状況は、自身の「フィジカルコスト」を意識せず、使い切ってしまったために起こりました。上の例と同じです。

信じられないかもしれませんが、こんな状況がこの業界だと本当によくあるのです。

まずは、コスト要因を知っておきましょう。

知っておけば、意識して制作をコントロールすることができ、新たなことへの挑戦も怖くなくなります。

陶芸の制作は最高に楽しい体験です。負のループに陥らないよう、しっかり制作・自己マネージメントを意識していきましょう。

ランニング編の構成

第3章「ランニング編」において、コストとは

制作するために必要な、有限なモノやコト

と、定義しています。

そして、この章の目的は以下の2点です。

  • 経済的・身体的・精神的なバーンアウトを予防する

  • 制作を継続させる

これを可能にするために、

  1. 「コストのカテゴライズ」を行い

  2. 「各コストの改善方法」を探り

  3. 「制作を継続するための、燃料補給方法」

を見ていきます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?