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「陶芸家になるには」ーマーケット編ー 4 < カテゴリ別ルート >

カテゴリ別ルート


現代陶芸には、大きく分けて3種類のマーケットが存在し、それらを3つの要素(柔軟性のピラミッド)により比較してきました。

スタイルを確立している方は、なんとなく自身のポジションが見えてきたかと思います。

陶芸家も他職業と同様、資本主義経済のなかでは、常に価値を高めていくベクトルから逃れることはできません。
価値の高め方も、それぞれのスタイルやカテゴリにより、様々です。

早い段階から、どの様な選択肢があるのか、知識として持っていて損はありません。

この項では、マーケット内で、どの様な陶芸家としてのキャリアプランを立てられるのか。そこを見ていきます。

キャリアルートの比較

この「マーケットを知る編」での前提として、

「自身の作品を買ってくれる可能性のある人に、作品を知ってもらう」

という目標があります。

それは、

まず、自身を認知してもらうこと。
そして、その認知してもらうマーケットを選択すること。

すなわち、ターゲットを定めること。

という、方法を意味しています。

  • スタイルにより、ターゲットが変わり、そのターゲットにより、販売ルートも変わります。

  • そして、この変わり続けるマーケットを航海していくためには、自身も常にアップグレードしていく必要があります。

それぞれのカテゴリーのキャリアルートを可視化するため、以下の要素で比較していきます。


<ターゲット> 誰に認知されるべきか。

<販売ルート> マーケット内に存在する販売方法。

<キャリアアップルート> それぞれのカテゴリが可能な、価値の上げ方。


このルートを知ることにより、最適な環境下で、迷うことなく目的地を見据えることができるかと思います。

クラフトマン・民芸系

まず、このカテゴリの長所は、「手作りの大量生産」です。

イメージ的には、マスプロダクトとアート作品との間に位置しています。
大量生産品よりも細部にこだわることができ、工芸品やアート作品よりも小回りの利く生産体制です。

そのため、初期のマネタイズは「多く作って、多く売る」となります。

<ターゲット> 

一般家庭、単身者、器コレクターなど

まずは、益子陶器市や松本クラフトなど、大規模なイベントへの出品をめざして、クラフトフェアなどへアプローチします。
そのような場所では、購買者の生の声を聞くことができます。
この方々が最終的なターゲットとなるので、ここでのフィードバックを軸に、自身の作品をブラッシュアップしていきます。

また、自身の作品のスタイルに合ったショップやギャラリーなどとの繋がりも同時につくることができます。

後にそれらのギャラリーやショップが販売ルートの軸となっていきます。

<販売ルート>

ライフスタイルショップ・民芸品店・個人ECサイトなど

<キャリアアップルート>

上記にもあるように、クラフト・民芸系のストロングポイントは、素早い制作体制です。
多く作ることが出来れば、多くの人に作品を届けることができる…

まず目指すべきは、既定のファンに加え、新規ターゲットへのアプローチを狙っていく方法。

言い換えれば、自身のスタイルを、広くマーケットに認知してもらうという戦略です。

しかしながら、このカテゴリは、作品一つ一つについての手間を最小限にしていきます。

そのため、作家の主体性を技巧的に入れ込みづらく、ターゲットに伝えにくくなっています。
そして、陶芸史・技法ドリヴンである故の、低い柔軟性。

広いこのマーケットに認知してもらうためには、他との差別化を狙っていくことが重要です。

解決策として、作品制作と同時に進めていきたいのが、作品以外のメディアにより、作家の世界観を主張し、主体性の認知を優先的に補強していくことです。

例えば、SNSを持ちいて、作家の日々の生活などを伝え、作品の裏側にある人間性を見てもらうなどです。

これをすることにより、移ろうマーケットの中で、自身のポジションを軸として、柔軟に対応していくことができます。

そして、作品が十分にマーケットへ浸透してくれば、需要が供給に勝りはじめるので、ここで方向性を定めていきます。

キャリアアップルートとしては、

  1. 技術を高め、一点の価値を高めていく(工芸系派生)

  2. 工房性にシフトし、数でマーケットを広げる(大量生産派生)

作家それぞれのスタイルにより、ルートは変わってきます。
自身のスタイルを知り、自身がしたいこと、方向性に合ったルートを目指していきましょう。

工芸系

このカテゴリは、伝統的な技法•技術を延長させ、作家の主体性を入れ込むため、現代的な雰囲気の作風になることが多くあります。その為、メッセージ性があったり、コンセプチュアルになることも多く、一つの作品に熱量を詰め込む傾向もあります。

一作品への熱量が高いこと=時間がかかる為、作品価格は高くなります。

こうなると、作品の取れ高(成功率)も、制作を続けるうえで重要な要素となってきます。

<ターゲット>

現代陶芸・工芸コレクター、アートコレクターなど

クラフトフェアは、他社の目に触れるためとてもいい機会なのですが、ターゲット層が違う可能性が高いです。
そのため、初期は、人に見てもらう機会が少ない印象です。
しかしながら、マーケットに認識してもらわないと何も始まらないので、積極的に機会を作っていきます。

工芸のように特殊なマーケットや、ある程度の価格帯になると、顧客への直接のアプローチよりも、ワンクッション間に「紹介者」を挟むことが主流です。

というのも、顧客にとっては、(この場合、陶芸業界についての)知識人により認められた作家の作品を購入するほうが、安心感があるためです。

まずは、「知識人」に見てもらう。これを軸にターゲットへのアプローチを考えていきます。

1.公募展

陶芸業界には、様々な公募展がありますが、審査員は必ず知識人です。
入選・入賞関係なく、インパクトのある作品であれば、覚えてもらうことも期待できます。

小規模な公募展は、入選以上が狙いやすく腕試しとしては最適です。
大規模な公募展では、全体的なレベルも上がります。しかし、入選できれば、一定以上のクオリティーがあることの証明となります。

メリットとしては、

  • 入選できなくとも、客観的な改善につながる

  • 入選・入賞できれば、箔が付き、自信をもてる

  • 入選までいけば、マーケットへの宣伝効果も狙える

無料で応募できる公募展も多いため、デメリットは少ないのでどんどん挑戦しましょう。

以下、代表的な現代陶芸・工芸の公募展です。

  • 国際陶磁器フェスティバル美濃

  • 菊池ビエンナーレ

公募展のまとめサイト

  • 登竜門

https://compe.japandesign.ne.jp/category/craft/

2.ギャラリーに持っていく

自分の作風に合ったギャラリーに、直接作品を見てもらうのも、とても有効です。
私も、いくつかのギャラリーさんとお付き合いをさせてもらっていますが、皆さん口をそろえて、ギャラリーに直談判しにくる作家が減っていると言います。

一昔前はこの方法が、作家として仕事を得るための主流だったのですが、今の時代、精神的に難しいですよね…。私もそんな一人です。

しかし、だからこそ積極的にアプローチするだけで、熱意という追加点を得ることができます。
そしてギャラリストも、皆さん陶芸・工芸が好きで、この業界を盛り上げたいと願っています。
作品のクオリティーが足りていないとしても、どこがダメなのか、何が足りないのか、アドバイスをくれるはずです。
(時間を割いてでも、このように真摯に向き合ってくれるのは、もし作品が良くなり、そのギャラリーでの扱いとなれば、貴重な人財・商品となるからです)

教育機関以外で、実際のマーケットに則した辛辣な意見をくれる人は、ほぼ皆無です。

これもリスクなしでできる方法なので、どんどんアポイントメントをとりましょう。

<販売ルート>

工芸ギャラリー、美術画廊など

<キャリアアップルート>

工芸系のキャリアとして注力するべきは、主体性の深さ高いクオリティーです。

このカテゴリは、一作品に対する手数の多さからくる、低い生産量がボトルネックとなりがちです。
また、主体性やスタイルも作家個人の特性により偏るので、潜在的なターゲットは狭くなる傾向にあります。

そのため戦略的には、ターゲットを明確にし、そこにダイレクトに刺さるよう、主体性・スタイルを深くしていく方向に舵を取っていきます。

主体性を深くしていくことにより、技法や素材に寄った工芸スタイルでも、マーケットの動きに対して、柔軟に対応していくことができる軸ができます。

また、低い生産量のボトルネックとして、作品が失敗してしまった時のリスクが必然的に高くなります。
知識を常にアップデートし、失敗への対処を備えておくことも、同時に必要な要素となってきます。

このように、バックグラウンドも含めた、作品に対しての完成度を常に意識した制作を心がけるべきかと思います。

一定以上制作を続けていくと、マーケットや作家自身も飽きがくるので、新しい提案に挑戦し続けることも、主体性の深さに繋がります。
(詳しくはランニング編で述べます)

キャリアアップルートとしては

  1. 技術を高め、一点の価値を高めていく

  2. 工房として、生産量を上げていく

質・量、どちらでせめるか。自身のスタイルにあった方法を模索していきます。

アート系

最近の傾向では、日本の工芸作品を現代美術の文脈で、海外へ発信していく傾向があります。

アート作品は、アイテムとしてのカテゴリーが存在しません。
そのため、コンセプトや、作家の考えに価値がつきます。

例えば、生活の道具(マグカップ・皿など)や、工芸品(茶碗・箱など)というアイテムは、それ自体の相場が、ある程度一般化されています。
対照的にアート作品の、「思想」や「アイデア」の価値に上限はない為、時に作品の価格が爆発的に上がることがあります。

陶芸作品として、現代美術マーケットへの参入は、今のところ

1.現代美術作家として、陶芸の素材・技法を選ぶ
2.陶芸作家として、陶芸のマーケットから、現代美術のマーケットへアプローチする

これらの方法が考えられます。

徐々に2つのマーケットの距離感も近くなってきている印象があるので、現代美術マーケットへの敷居は下がっていると言えます。

しかしながら、国内での現代美術マーケットは小さく、海外では陶芸という素材を現代美術と捉えない傾向も未だにあるので、一筋縄ではいきません。

また、どのカテゴリにも言えることですが、作品を生み出すスピードも大切です。
コンセプトに重きを置く場合、相対的に制作に費やす時間は低くなります。そうなると、技術や技法の熟練度は低くなり、コピーされる危険性が多くなります。

<ターゲット>

現代陶芸・工芸コレクター、アートコレクター

ターゲットや販売、キャリアアップルートは、工芸系のスタイルとほぼ同じです。

なぜなら、上でも述べたように、陶芸をベースとした現代美術作品は、すべて初めに工芸ジャンルを通っています。
そして、私が述べられるルートは、
「2.陶芸作家として、陶芸のマーケットから、現代美術のマーケットへアプローチする」
のみとなるためです。

主体的に現代美術のマーケットに乗り出すというよりも、工芸のフィールドでプレイしていた作家が、移籍もしくは両方で活躍していくような印象です。

身もふたもない話ですが、現代美術作家を目指してキャリアをスタートさせるのだとしたら、陶芸家は目指しません。
現代美術のマーケットに適応できる方法で、キャリアを考えた方が効率的かと思います。

工芸系との唯一の違いとしては、参加する公募展を、現代美術のものにすることです。

<販売ルート>

工芸ギャラリー、美術画廊、現代美術ギャラリーなど

<キャリアアップルート>

アート系のストロングポイントは、主体性をコアにしたスタイルからくる、柔軟性の高さです。
マーケットや時代の移ろいに対応できる、もしくは、利用することにより、航海を続けることができます。

反対に、瞬発力と反比例して、技法や素材に対しての深度が低くなってしまう可能性があります。
こうなると、コピーされてしまう危険性や、差別化への対応を他で補う必要も出てきます。

ここで考えられる舵取りとしては、

  1. 技法・素材の知識も深め、総合力として他者を圧倒する境地に達する

  2. 速いスピードで、常に新たなスタイルを提供し、他者の追従を許さない

の、2つかと思います。

どちらにしろ、常に長所である「思想」を深くするアップデートが、とても重要になります。
そのため、陶芸の歴史だけでなく、美術史や分化の歴史を常に学び、自身のスタイルを文脈からの繋がりとしてポジショニングしていく研究が必要になります。

キャリアアッププランとしては、

  1. 一点の価値を高めていく(総合力)

  2. 工房として、生産量を上げていく(スピード)

または、どちらも高めていく方法も視野に入ってきます。


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