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【41.水曜映画れびゅ~】『ドライブ・マイ・カー』~言葉が違っても、繋がり合える~

『ドライブ・マイ・カー』は、今年のカンヌ国際映画祭で脚本賞に輝いた日本映画。

今年の8月に公開されて現在はかなり公開規模が縮小されてますが、所々でまだ劇場公開中です。

あらすじ

舞台俳優で演出家の家福悠介は、脚本家の妻・音と幸せに暮らしていた。しかし、妻はある秘密を残したまま他界してしまう。2年後、喪失感を抱えながら生きていた彼は、演劇祭で演出を担当することになり、愛車のサーブで広島へ向かう。そこで出会った寡黙な専属ドライバーのみさきと過ごす中で、家福はそれまで目を背けていたあることに気づかされていく。

(映画.comより一部抜粋)

祝・カンヌ国際映画祭脚本賞受賞!

本作の原作は、村上春樹の短編集『女のいない男たち』(2014)に収められている同名小説。

それを脚本・監督し、映画化したのが濱口竜介監督。

昨年のヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した『スパイの妻』(2020)で共同脚本を務め、また今年のベルリン国際映画祭においては監督作品『偶然と想像』(今年の12月公開予定)で銀熊賞を受賞。
今世界が注目している監督です。

そして本作は冒頭でも触れたようにカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、濱口監督は共同脚本を務めた大江崇允さんとともに脚本賞を受賞しました。

現地で取材をしていた記者の話によると、『ドライブ・マイ・カー』の脚本賞受賞がアナウンスされた時には歓喜の声とともに、ため息が聞こえてきたらしいです。
それは、この作品がもっと上の賞を獲ることがにわかに期待されていたからだと言われます。

ちなみに、今年パルムドールを受賞したのはフランス映画の"Titane"
2018年と2019年のパルムドールが、『万引き家族』、『パラサイト 半地下の家族』とアジア映画が続いたことが影響しているともいわれています…

丁寧に描かれた、至高の3時間

さて、そのように前評判抜群の本作。
もちろん肝心の内容も素晴らしいです。

先ほど記した通り原作は短編小説にもかかわらず、それを3時間近い長編映画へと変貌させた濱口監督。

その3時間という時間のなかで、ゆったりとしてペースではありながら少しずつ展開していく物語、そして少しずつ変化してい登場人物の心情とそれぞれの関係性。それらが見事に描かれ、映画に釘付けのあっという間の3時間でした。

この映画の魅力を具体的に挙げていけば、枚挙に暇がありません。

日本映画では珍しいロード・ムービーである点、東京・広島・北海道のそれぞれ異なった風景、車と煙草という古臭いけど普遍的なコミュニケーション・ツール…

そんななかでも私が注目したいのは「言葉」です。

言葉が違っても、繋がり合える
ー『バベル』と比べて

本作の大きなキーワードの一つは「言葉」だと私は思います。

西島秀俊演じる本作の主人公家福悠介は、舞台演出家。
彼の手掛ける舞台は一風変わっており、多国籍の演者を起用してそれぞれの母国語でセリフを回します。

そして本作では、そんな家福が演出するアントン・チェーホフの戯曲『ワーニャ伯父さん』が物語の核となっています。

日本語はもちろん、北京語、韓国手話まで交えた舞台の稽古を中心として物語は次第に濃密になっていきます。

本作のそういった側面を見て、私はある作品を想起しました。

アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督作品『バベル』(2006)。

アカデミー作品賞にノミネート、また菊地凛子がアカデミー助演女優賞にノミネートされたことで日本でも話題になったこの作品。

モロッコ、アメリカ、メキシコ、日本を舞台にし、それぞれの地域で言葉が異なることにより大きな困難が生じることに焦点が置かれています。

またタイトルの『バベル』は、旧約聖書に描かれる「バベルの塔」をこの作品のモチーフにしていることからきているといわれています。

『ドライブ・マイ・カー』も『バベル』も多言語が劇中に用いられており、また手話も使われていることも共通しています。

しかし、言葉の違いにより生まれる「分断」を描いた『バベル』とは違ったメッセージを『ドライブ・マイ・カー』を届けてくれていると私は思います。

そのメッセージが犇々ひしひしと伝わるラストシーンこそ、この映画のベストシーンではないでしょうか。

まだご覧になられておられない方は、ぜひ劇場に足を運んでいただければと思います。

劇場公開残りわずかです!


前回記事と、次回予告

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来週は、今週木曜日公開のジョニー・デップ主演・製作"MINAMATA" MINAMATA―ミナマターの記事を予定しています。お楽しみに!