星の王子様 読書記録 第26節 王子様との別れ
井戸の側には、石でできた古い壁の残骸があった。翌日の晩、僕は修理作業から戻るとき、両足をぶら下げて、高いところに座っている僕の王子様を遠くに見つけた。
そして僕は、彼が話しているのが聞こえた:
<君はそれを覚えていないの?>彼は言った。<全然ここじゃないんだよ!>
彼はすかさず言い返したから、おそらく別の声が彼に返事をした。
<そう!そう!今日だよ。でもこの場所じゃないんだよ・・・>
🌈単語
✅endroit
①場所、所
②(居住している)土地、地方、界隈
③(物、身体などの)箇所、部分
④(作品などの)一節、くだり
⑤(人物や物事の)側面、局面
⑥(布施、紙などの)表側、表面
⑦(物事の)表面、うわべ、外観
✅ruine
♢女性名詞
①(多く複数で)廃墟、残骸、がれき;遺跡;破損のひどい家屋;あばら家
②(建物の)破損、破壊、荒廃、崩壊
✅pendantes
♢形容詞 pendantの女性形 複数形
①垂れ下がった
②未解決の;
♢男性名詞
①(美術品などで)対、対をなすもの;似たもの、匹敵するもの;対福
✅mur
♢男性名詞
①(建造物の)壁、壁体、隔壁;塀
②(複数で)防壁、城壁
③岩壁;急傾斜
④障害物、障壁;境界、限界
⑤(複数で)町;家;会社
⑥冷淡な人、無口な人
僕は続けて壁の方へ足を進めた。相変わらず誰の姿も見えなかったし、誰の声も聞こえなかった。
それでも、王子様はまた言い返した:
<もちろんさ。砂に僕の足跡が始まるところが見えるでしょ。君は僕をそこで待ってくれてさえすればいいんだ。僕は今晩そこにいるから。
僕は壁から20メートルのところにいた。それでも全く何も見えなかった。
王子様は黙った後、また言った。
<君はいい毒をもっているの?確かに、長く苦しまないでいられるんだよね?>
🌈単語
✅trace
♢女性名詞
①足跡、轍
②痕跡、跡
✅n<avoir qu'à + inf
・・・しさえすればよい
✅souffrir
♢自動詞
①苦しむ
②[話]苦労する
③被害をこうむる、損なわれる
✅venin
♢男
①(動植物の)毒、毒液
②[文章]毒気、悪意;中傷
③[薬学]毒物
僕は立ち止まった。心臓がぎゅっと収縮した。でも僕は全くわからなかった。
<今は、あっちに行ってよ。>彼は言った。僕は下りたいんだよ!>
それから僕は視線を壁の足元の方へずらした。そして僕は飛び上がった!そこには、王子様の方へまっすぐに向かっている、あなたたちを30秒で殺すあの黄色い蛇がいた!僕は拳銃を取り出すためにポケットをひっかき回しながら、走り始めたけど、僕が出した足音で、その蛇は、弱まっていく水の噴出口のように、あまり急ぐこともなく、軽い金属音を立てて、石と石の間に巧みに滑り込んで、砂の中にゆっくりと沈んでいった。
🌈単語
✅abaissai
♢abaisserの単純過去
①・・・を下げる、下ろす
②・・・(の量、程度)を減らす、軽減する;低くする;下げる。
✅bond
♢男性名詞
①飛び上がること、跳躍、ジャンプ
②バウンド、跳ね返り
③飛躍、躍進;(物価などの)急騰
✅dressé
♢形容詞
①まっすぐに立った;建った
②用意された
③作成された
④対立した
⑤[動物が]訓練された、調教された
⑮[狩猟]狙われた獲物のところへまっすぐに向かう
♢dresserの過去分詞
①・・・を直立させる、立てかける、聳え立たせる
②・・・を建てる、組み立てる
③[テーブルなど]を支度する、整える
④[文書など]を作成する;[計画]を立案する
⑤[動物]を訓練[調教]する
✅fouillant
♢fouillerの現在分詞
①[地面、土地など]を掘り起こす、掘る
②・・・を探し回る、丹念に調べる
③・・・のポケット[所持品]を調べる、を身体検査する
④・・・を探るように見る
⑤[問題、考えなど]を深く掘り下げる
✅halte
♢女性名詞
①休止、休憩、休息
②(活動、物事の進行の)停止;中断;停滞
③休憩所、休息地;宿泊地
✅redescendre
♢他動詞
①・・・を下げる、下ろす
②・・・(の量、程度)を減らす、軽減する;低くする、下げる
✅revolver
♢男性名詞
①ピストル;弾倉回転式拳銃、リボルバー
✅tirer
他動詞
1⃣
①・・・を引く、引っ張る
2⃣
①
僕は雪のように蒼白くなった小さな王子の坊やをそこで抱きとめるのに、ちょうどいいタイミングで壁に到達した。
<いったい何の話なんだい!君は今蛇と話をしていたね!>
僕は彼がいつも身に着けている金色のマフラーをほどいた。僕は彼のこめかみを濡らして、そして彼に水を飲ませた。今や僕は、彼にこれ以上質問する勇気がなかった。彼は真剣な顔で僕を見て、両腕を僕の首に巻き付けた。人がカービン銃で撃ったときの、死にゆく鳥のように、彼の心臓は鼓動を打っているように感じた。
<僕は、君が機械の悪いところを見つけたのがうれしいよ。君は自分の家に帰れるんだね・・・>
ーーー何で知ってるの!>
🌈単語
✅carabine
♢女性名詞
カービン銃、騎兵銃;小型の小銃で、かつては騎兵が用いた
♢熟語
tirer à la carabine
カービン銃で撃つ
✅cou
♢男性名詞
①(人、動物の)首、頸部
②(容器などの)首
✅defaire
♢他動詞
①・・・をばらばらにする、解体する
②[身に着けたもの]を取る、外す、脱ぐ
③[整えたもの]を乱す
④[契約など]を破棄する
✅entourer
♢他動詞
①・・・を取り囲む、取り巻く、包囲する
②・・・を包む、巻き付く
③・・・の身辺を取り巻く
④・・に(恩恵、好意など)を施す、注ぐ、惜しまず与える
⑤・・・を包み隠す
♢代動名詞
✅éternel
♢形容詞
①永遠の、永久の
②(ときに名詞の前で)終生変わらない;永続的な
③(名詞の前で)果てしない、切りの無い
④(名詞の前で)いつもの、お決まりの;いつもそばにいる
✅parvins
♢parvenirの単純過去 他動詞
①<~à qc//~場所>(努力して)[人が]・・・に達する、到達する
✅pâle
♢形容詞
①[顔色などが]青白い、青ざめた、血の気の無い
②[光が]弱い;[色が]薄い
③[文体などが]さえない、生彩のない;[人が]凡庸な、ぱっとしない
✅nez
♢男性名詞
①鼻
②顔、頭
③嗅覚;勘、直観力;先見の明
✅mouiller
♢他動詞
①・・・をぬらす、湿らす、浸す
✅oiseau
♢男性名詞
①鳥;(複数で)鳥類
②[話]人、やつ
✅cache-nez
①(冬期、防寒用に鼻まで覆える)襟巻、マフラー
✅tempes
♢女性名詞 tempeの複数形
①こめかみ
僕は、意外にも修理がうまくいったということを、彼に丁度伝えに来たところなのだ!
彼は僕の質問には答えなかったが、こうも言った。
<僕もね、今日、自分のところへ帰るんだ。>
それから、もの悲しそうに;
<とっても遠いんだ・・・。とっても危険なんだ・・・。>
僕はとんでもない何かが起きることを感じていた。僕はおさな子のように彼を腕に抱きかかえていた。しかしながら、彼を止めることが全くできずに、彼は奈落の底へまっさかまさに落ちていくように思われた。
🌈単語
✅abîme
♢男性名詞
①[文章]底知れぬ深み、深淵、奈落;計り知れないもの、謎
②越えがたい溝、懸隔
③破滅;最悪の状態、最低の境遇
✅annoncer
♢他動詞
①・・・を知らせる、通知する;発表する、公表する
②・・・を予告する;予言する
③[客]の来訪を告げる、を取り次ぐ
④・・・の兆しとなる、を告げる
✅espérance
♢女性名詞
①希望、期待
②[文章]期待の的、頼みの綱
③(複数で)将来性、将来の見込み
✅retenir
♢他動詞
①・・・を引き留める、留め置く
②・・・を引き付ける、魅了する
③・・・を止める、制止する;こらえる、鎮める
④・・・を支える
⑤・・・をとどめる、固定する
⑥・・・を保つ、逃さない;せき止める
⑦・・・を記憶にとどめる;忘れない
♢熟語
✅contre toute espérance
期待に反して、意外なことに
✅verticalement
♢副詞
垂直に;鉛直に、まっすぐ
その視線は、ずっと遠くに向けられていた:
<僕は君の羊を持っている。そして羊のための箱もね。それから口輪・・・。>
そして彼はもの悲しく笑った。
僕は長い間待った。彼の体が少しずつあったまっていくのを感じた。
<坊や・・・。君は怖かったんだね・・・。>
彼はもちろん、怖かった。でも彼は穏やかに笑った。
<今日の夜は、もっと怖いんだろうな。>
<再び、僕は取り返しのつかない感覚が走り、寒気を感じた。>
それから僕はその笑い声を聞くことが、もう決してないのだという考えを受け入れていないことを悟った。王子様の笑い声は僕にとって、砂漠の中の泉のようなものだった。
🌈単語
✅fontaine
♢女性名詞
①泉
②噴水
③(卓上あるいは壁面に設置された)給水器、水溜;水飲み場、給水所
④源、源泉
✅regard
①視線;注視;一瞥
②目つき、まなざし
✅supporter
♢他動詞
①[重み、圧力など]を支える
②・・・を引き受ける;負担する
③[物が、税、料金など]を課される、受ける
④・・・に耐える、への抵抗力がある、を耐え忍ぶ
⑤・・・を辛抱する、我慢する、甘受する
⑥・・・を認める、許容する、受け入れる
⑦・・・の支えとなる、に土台を提供する;を裏付ける。
✅irréparable
♢形容詞
①取り返しのつかない、償いようのない;修理できない
♢男性名詞
取り返しのつかないこと、償えないこと
<坊や、僕はもっと君の笑い声を聞きたいんだよ。>
しかし彼は僕に言った:
<今晩。1年になる。僕の星が、去年僕が落ちてきた所の、ちょうど真上にくるんだ・・・。
ーー坊や、蛇の話とか、星へ帰るというのは悪い夢なんだよね?
でも彼は僕の質問に答えなかった。彼は言った。
<重要なこと、それは目には見えない・・・>
ーーそのとおりさ・・・。
ーー花の場合と同じさ。もし君がある星で見つけた一本の花を好きになったら、その夜、空を見上げるのが楽しいよね。
全ての星が花飾りなんだ。
ーーその通りさ・・・。
✅comme pour
・・・のためであるように;の場合と同様に
ーー水だって一緒だよね。君が僕にくれた水は、滑車とロープのおかげで、音楽のようだった。
あれはおいしかったことを、君は覚えているね。
ーーもちろんだとも・・・
ーー君は夜、星を見るんだ。僕んちはとっても小さいから、どこにあるのかを見せることはできない。その方がいいね。僕の星、それは君にとってたくさんの星の一つだ。だから、全ての星を、君は見るのが好きになる・・・。
星たちは、みんな君の友達になるだろうな。そして僕は君にプレゼントをするよ。
彼はまた笑った。
<ああ!坊や、坊や、僕はその笑い声を聞くのがすきなんだよ!>
ーーちょうど、これが僕のプレゼントだよ・・・。水と同じようになるよ。
ーーどういう意味なの?
ーー人はみんな全く違う星を持っているんだ。旅をする人たちにとっては、星たちは道案内のガイドだよ。他の人たちにとっては、星たちはキラキラと光るつまらないものでしかない。知識がある他の人にとっては、星は謎めいているね。僕の知り合いの実業家にとっては、星たちは財産だった。でもそこにあるすべての星々は、口を噤んでいる。君は君だけの星を持つんだ。
ーーどういう意味なの?
ーー夜、君が空を見上げるとき、そのうちの一つに僕が住んでいるんだよ。
僕は星の一つにいて、笑っているから。だからそれは、まるで君のために全ての星が笑っているかのようになるだろうね。君は、笑うことのできる星を持つんだよ!
彼はまた笑った。
<そして君の気持ちが和らぐとき(いつだって和らぐものだよ)、君は僕と知り合いになったことがうれしくなるだろうね。君はずっと僕の友達だよ。君は僕と一緒に笑いたいと思うだろう。そして君はこんな風に、気晴らしのために、時折窓を開くよ。そして君の友達は、空を見ながら笑うのを見ていて、びっくりするだろうな。それから君は彼らに言うんだ。”うん。星さんたち。いつも僕を微笑ませるんだね!”それから彼らは君に夢中になるね。
🌈単語
✅vilain, vilaine
♢形容詞
①醜い、見苦しい、醜悪な、不快な
②汚い、不正な;下品な、みだらな
③[子供が]聞き分けの無い、行儀の悪い、騒々しい
④[病気などが]たちの悪い、危険な
⑤[天候などが]嫌な、うっとうしい
♢副詞
Il fait vilain.嫌な天気だ
♢名詞
①いたずらっ子、悪い子、聞き分けの無い子
♢男性名詞
①不愉快なこと;悶着、騒動
彼はまた笑った。そして再び真顔になった:
<今晩・・・わかるね・・・来ないでね>
ーー僕は君と離れないよ。
ーー僕は、病気のようになるんだ・・・ちょっとだけ死んだようになるんだ。このように。それを見に来ないでね。その必要はないんだ・・・。
ーー僕は君と離れないよ。
でも彼は心配そうだった。
<僕は君に言ったね・・・。蛇のせいだと。君にかみつくといけない・・・。蛇、危険なんだ。楽しむためにかみつくことだってあるんだ。
ーー僕は君と離れないよ。
でも何かが彼を安心させた。
<2回目にかみつくための毒はもうないっていうのは本当のことだよ。>
その夜、僕は彼が出発したのを見なかった。彼は音もなくそこから立ち去ったのだ。
僕が彼に追いつくことができた時、彼は、堅い決意で、足早に歩いていた。
(彼は来るなと言っていたので何か言われるかなと思っていたけど)、ただ一言僕に言った。
<ああ!来ちゃったんだね・・・>
そして彼は僕の手を取った。でも彼はまた悩んだ。
<君は間違ったよ。君は苦労するよ。僕は死んだようになるし、それは本当じゃないんだよ・・>
僕は黙っていた。
<分かるね。とっても遠いんだ。僕はこの体をそこへ運ぶことはできないんだ。とっても重いんだ。>
僕は黙っていた。
<でもこれは打ち捨てられた古びた抜け殻のようになるだろう。古い抜け殻なんて悲しくはないよ・・・>
僕は黙っていた。
彼は少しがっかりした。でも、また気を持ち直した:
知っての通り、それは優しいことなんだよ。僕も、星を見る。
全ての星は、さび付いた滑車のある井戸になる。全ての星は、僕に飲み水を注ぐ・・・>
僕は黙っていた。
<とても楽しくなるだろうな!君は5000の鈴を持つ、僕は5000の泉をもつ。>
彼は口を噤んだ。なぜなら泣いていたから・・・。
🌈単語
✅verser
♢他動詞
①[液体など]をつぐ;注ぐ;[飲物]を配る
②・・・をこぼす、振りまく、まき散らす
③[さらさらしたもの]を容器から移す;あける
④・・・を支払う;払い込む
⑤・・・を配属する;転属させる
✅rouiller
♢他動詞
①[金属]をさび付かせる
②[活動、知力、精神など]を衰えさせる、鈍らせる
✅gentil
♢形容詞
①親切な、感じの良い、善良な、優しい、思いやりのある
②かわいい、きれいな;優美な、心地よい
③[子供が]お利巧な、おとなしい
④まずまずの;大したことの無い
<そこだ。一人で踏み出させてね。>
そう言ったのに、彼は腰を落としてしまった。怖かったからだ。彼はなおも言った:
<知っての通り・・・僕の花・・・僕はあの花に責任があるんだ!そしてあの子はとってもか弱いんだ!あの子はとっても純真なんだ。彼女はこの世界から自分の身を守るのに、たった4本の棘しか持っていないんだ・・・>
僕は立っていられなくなった。だから、腰を落とした。
彼は言った:
<というわけでね・・・それだけさ・・・>
彼はちょっとためらった、それから立ち上がった。僕は・・・僕は動くことが出来なかった。
彼の踝のあたりが黄色く光った。それ以外は何も起きなかった。彼はただの一瞬さえ、身動き一つしなかった。
彼は大声もあげなかった。彼は木が倒れるように静かに倒れた。地面は砂だったから、音を立てることもなかった。
🌈文学
長かった・・・。今回は特に。そして、サンテグジュペリと王子様の詩的な会話。二人の心を思うと、それを文体にしみ込ませるのに時間がかかったし、それはまだ全然十分ではない。
でも2日もたってしまった。いいわけはこれくらいにして、文学を解説したいと思う。でも、ここは深すぎて語り切れない予感がする。
サンテグジュペリが飛行機の修理を終え、それを王子様に報告しにいくところだった。王子様が誰かと話をしていた。それは、王子様が地球に降り立った時に出会ったあの黄色い蛇だった。
王子様は壁の上に登っていた。王子様は、蛇に自分を噛ませる約束をしていたのだ。彼がちょうど星に帰る日の、その夜に。だが、蛇はその約束に反して、それより早い時間に王子様のところに来た。王子様はきっと驚いて、壁によじ登ったのだろう。そして、蛇に対して、約束とは違うことを一生懸命に伝えていたのだ。
そこにサンテグジュペリがやって来た。王子様はサンテグジュペリを一目見て、修理がうまくいったことを見抜いた。彼は真実を見抜く目を持っている。サンテグジュペリという人間の殻の、その中にあるものまで見通せる。箱の中の羊を見て取ったように。
王子様は自分が星に帰る手段として、猛毒を持つ蛇を利用したのだった。
彼の踝で光ったのは、黄色い蛇の光だった。
王子様は、毒によって死んでしまったのだ。
しかし彼は言う。僕は死んだようになるんだ。だけど、それは本当じゃないんだと。
一体どういうことだろうか。これは仏教と通じている考えのようにも思うが、私たちの肉体は仮の容器である。本当に重要なことは目に見えないんだ。だから、私たちの体の中にも、目には見えない「本質」が潜んでいる。その「本質」があるからこそ、肉体というものも形作られているのだ。
過去の記事になぞらえると、「大人」たちは、「本質」を見ずに、「肉体」ばかりを見ているような存在だった。物事には全て「本質」と、それに対する「肉体」がある。「肉体」の対義語であるとすれば、それは「精神」なのかもしれない。
「死」とは、私たちの肉体の「死」だ。しかし、「本質」はなおも残っている。その肉体は、「抜け殻」とか、直訳すれば「樹皮」と表現される。だが、「肉体」を失うのは誰だって怖い。なぜならば、「肉体」とは「虚」だからだ。私たちは「虚」を求める存在だし、「虚」があるから安心できるのである。
それゆえに、富や名声、永遠の命、時間、目的なき手段などに溺れていく。死から逃げたいからだ。「虚」に自分をまとえるようにすればするほど、「死」から遠ざかるように感じる。逆に言えば、「生」を手に入れられる。この心の「生」。これが「性欲」である。
死から逃げようとする人間ほど、「生」を感じられる場所へ行く。
王子様は、本質を見抜く存在だ。悲しいことではある。それは悲しいことではあるのだけど、「肉体」は「肉体」にしか過ぎない。死んだようになるかもしれないけど、「本質」はあるままなんだ。ただ、目に見えないというだけで。
人は「死」を恐れ、「死」から逃れようとする。それは、「虚」が無くなることだし、見た目からしてもいい物には見えない。多くの人間たちが生きる理由は、「生きたいから」ではなく、「死にたくないから」という理由が根強いのだ。実際、この世界ですごいと言われている人たちは、生きる力が強いのではなく、死から逃れたいと思う力が強いからこそ、上に行くことができるのかもしれない。
しかし、この本を読んだ人たちはあれ?と思うだろう。じゃあ、そもそも王子様は、生きていたのか、それとも死んでいたのか?
だって、地球に降り立った時、彼は別に生まれてきたわけじゃなく、どこか別の星からやって来たって話だったはず。
彼は別の星にいて、薔薇と不仲になって旅をして、地球にやってきたはず。
彼はいつ自分の肉体を手に入れて、そして「死」というものまで受け入れるようになったの?(そもそも肉体は無かったの?)
彼は自分の力で再び上空へ舞い上がり、宇宙空間でも生きていける存在なんじゃないの?
星の上にいた王子様の姿は、あくまでも地球で出会った王子様の姿を見て、まるで王子様がその星に住んでいるかのように描写しただけのもの。だから、私たちの頭に強く印象付けられている、小さな星に佇んでいる王子様の姿は、結局サンテグジュペリの想像にしかすぎない。
彼は元々、姿形をもっていないものなのである。
サンテグジュペリが見た王子様の姿は、彼の心がとらえた存在。そして、それを具現化させたもの。王子様は、私たちの常識からすれば、死んじゃったけど、彼は、今でも私たちの胸に生きている。冒頭の物語の方で書いたけど、私たちが「存在」というものを掴む条件。大人の場合、それは数字だった。でも、子供の場合は?
「星の王子様」 直訳すると 「小さな王子様」には、Leという定冠詞が付けられている。定冠詞は、「特定した名称」につけられるものだ。un petit princeというタイトルであれば、無数にいる中の、ただの一人の王子様にしかすぎない。(とはいっても王子様はそんなにはいないかもだが)しかし、Leが付けば、その王子様は唯一無二の存在になる。
ではどうしてあえて、「王子様」なのだろう。なぜ、「Le petit garçon」
「Le petit enfant」というタイトルにならなかったのだろうか。
王子様は、成長すると王になる。これは、「寛大な人」とかいう意味もある。王様っていうのはお飾りが多いのだけれども、でも元々は、何よりも王様に求められるものがある。それは「文」の力である。「文」とは、過去記事でも紹介したように、私たちの人生の抽象を抜き出したものだ。一つの抽象を抜き出せば、それは多くの人間にとって共通する物事となる。だから、王様は人を治める事が出来ると考えられるし、人のことをよく理解できる。
そのために、人を良く育てることもできる。そうして、国が豊かになっていく。だから、国には文官という存在も必要となる。華々しいのは戦の一騎打ちかもしれないが、文は見えないところで、国を支えている。文武両道とは、勉強もできて運動もできるとか言ったふざけた意味ではない。武は、文のためにこそ使われるべき、という意味なのだ。文と武の道は同じ道をたどり、決して自己満足、ひけらかし、他者を傷つける、そういった目的で武を振り回すのではない、ということだ。そのためには、うわべだけの、表面だけのものだけが見えるような人間になってはならない。ただ、自分が「生」を感じることだけに夢中な、腑抜けになってしまった人間にだけは・・・。そこから国が腐っていく。
だから、「本質」を掴む存在にならなくては・・・。
薔薇のような見栄っ張りや、権力によった王様、自惚れ男に酒飲み、そして私腹を肥やすことに夢中な実業家、指示から逃れられない点灯夫、頭でっかちの学者、いろいろな人たちがこの世界に住んでいて、皆が自分のことを煩わせてくるだろう。
だけど、それは彼らの見た目にしか過ぎない。きっと彼らの中には、そうなってしまうだけの理由があり、その中には、私たちの目に見えない「本質」が隠されている。彼らはちょっと、心が病んでしまったのだろう。
一年たてば、自分の星が真上にくる。とすれば、王子様は1年前、自分の星から真っ直ぐ地球の方へ降り立つように進んできたのかもしれない。
その途中で、いろいろな人たちと出会った。学者の勧めに従って、地球に行ったとかかれていたから、ひょっとしたら違うかも・・・。でも、確かなことは、自分の星からそのまま真下へ進めば地球があるというのも間違いのなかったこと。だからきっとそうなんだろう。その途中で別の星はあったけど、全部素通りしたのかもしれないね。
では、どうして自分の星が真上に来るときを、王子様は自分の星に帰るときに選んだのだろうか。これはとても大きななぞだ。単純に、方向が定まりやすいからだろうか。真っ直ぐ飛んでいけば、道に迷わないからだろうか。
彼はその日を記念日だと言った。ちょうど一周年。彼は自分が来た日と、自分が帰る日を1年と決めていたのだろうか。
よくよく考えてみよう。地球は360度の球形だ。とすれば、アメリカから真っ直ぐ宇宙へ飛んでいった場合もあれば、サハラ砂漠からまっすぐに宇宙へ飛んでいった場合だってある。でも、宇宙空間では、全くと言っていいほど別々の場所にあるかのように見えるだろう。1度違うだけで、果てしない距離だ。角度をちょっと間違えれば大変なことになる!
1年たてば王子様の星が丁度降り立ったところの真上に来る。地球は公転している。宇宙は広い。だから、1年後が最も帰るのにいい時期だ。(だけどこうも考えられる。地球へ降り立ったその時が、地球へ行くのにあまり適切な時ではなかった場合だってある。それを考えれば、王子様はあちこち右へ左へ移動したのではなく、ただ地球の方へ降り立つようにすすんできたのだろう。宇宙空間では、方角というのは曖昧なのだ。上も下も、右も左もないくらいに。自分達が重力のある大地にいるからこそ、そうしたものは意味を持つのかもしれない。)
自分達の肉体の中にある「本質」は、一つの「星」だとサンテグジュペリは表現する。自分達だって、「そういう星の下に生まれた」という表現をするときだってある。
きっと王子様が出会った大人たちは、かつてこの地球に住んでいた誰かだったのかもしれない。王子様は、人の心を渡り歩いていたのだ。人は地球に住んでいるもの。だから、学者の勧めがあるにしろ、ないにしろ、私は、王子様はやがて地球にやってくるはずだったと考えている。そして最後に出会ったのがサンテグジュペリだった。
私たちは肉体だけで生きているわけではない。心があるから生きている。しかし、その心は何らかの「虚」に取り付かれてしまうことがある。「生」への執着心だ。
「生きることを考える」よりも、「肉体を失うこと」を恐れ始める。「肉体」とは、私たちの「生の肉体」だけじゃない。物事全てに存在している「肉体」だ。本質ではなく、見せかけだけのものだ。
死んだ肉体から離れた本質は、浮かび上がり、星になる。自分達は星を見上げて、その人に思いを寄せる。その人の肉体は傍には無いかもしれない。だけど・・・この宇宙のどこかに、その人の「本質」は確かにあるはずなんだ!
「死」は悲しい別れだけど、でもそれは、ただの見せかけ。その人の本質は、「人」という姿を借りているだけのもの。「本質」はきっと、生であろうと死であろうと、相変わらずそこにある。千変万化。死ぬこと自体からは逃れられなかったとしても、「生」が変化するものであれば、「死」もまた変化するもの。私たちが死に、この肉体から離れたとしても、私たちの「本質」はやがて、新しい「肉体」を作り始めるはずだ。
この考えを、輪廻転生というのだろうか。
その中で、私たちは地球という星に、今生きているのだろう。「本質」と「本質」は、お互いにつながり合うのか。それもまた、一つの「絆」なのかもしれない。
本質を磨き切った存在。それを「釈迦」というのかもしれませんね。彼は、「死」さえも、乗り越えることができたのかも。「死」は、「生」あればこそ。「死」が訪れても、「本質」さえしっかりしていれば、何も恐れることはないと。その本質は、やがて新しい生となる。釈迦の到達した極楽浄土というのは、まさにその極地ではないのだろうか。
永遠の命は、別に宗教に入っていても入らなくってもあるものだ。死はいずれ変化するのだから。でも、その「本質」は、常に試練を受け続けなくてはならないのかもしれない。だから、「肉体」ばかりに拘って生きる人間は、私たちからすれば、豊かで、うらやましく、立派に、荘厳に見えていたとしても、「本質」の乏しい人間なのかもしれない。
「死」への恐れや苦痛を和らげるために、死ぬまで「死」と向かいあった釈迦。彼はいう。体とは、蝶がさなぎから抜け出すときの、さなぎのようなものだと。
これは、今の王子様の言っていることと共通する。
私たちは、みんな一人だと思っている。私という個人。その肉体。精神。
しかし、私が誰かと絆を結べば、そこには見えない肉体が出来上がっていく。本質と本質はつながり合う。でも多くの人は、肉体との接触が大事だと考える。傍にいることが大事だと考える。
友達が多ければいいと思っている人間は多い。でも、数なんてそんなに大した問題じゃない。友達マウントを取ってくる人間も多い。私が、「友達って何ですか?」と聞いた時も、「そんなこともしらんのか!」という大人たちは多かったものだった。
王子様は友達をさがしていた。そしてキツネと出会った。でもキツネは「なじんでいない」ことを理由に王子様と遊ぶことを断った。「友達」とは、数じゃない。絆がどれほど作られているかだ。だから、例え自分の親とだって。兄弟とだって、「友達」になることはできるのだ。数字が大好きな大人は、友達の数を重要視することがある。でも、一体どれほどの人と、絆を結んでいるのだろうか。友達ではなく、ただの利用関係や取引関係に毛が生えた程度なんじゃないだろうか。それじゃ、広い意味での「性的関係」じゃないか。肉体にしか目が言ってない、「肉体関係」じゃないか。
一人じゃ楽しくないから、一緒にいて楽しくなることができるようにするための、ただの持ちつ持たれつの関係なんじゃないだろうか。それは、それほど重要なことじゃないのに・・・。
「本質」と「本質」がつながり合うこと。そうすれば、距離は関係なくなる。その人が生きていても死んでいても関係がない。自分達はいつも心でその人を思い、その人とつながり合うのだ。
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