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こちらVR機構日本支部 1.VR機構 その1

解説

 文学界新人賞 第126回 応募した作品です。2020年7月4日に応募しました。
 一次選考にすら漏れましたが、選考に漏れた作品がどれだけ世間に通用するか? そんな想いでnoteに投稿することにしました。
 
再度内容を見直し(推敲)ています。誤字脱字それに言い回しを変えて、順次公開いたします。

 作品の内容を少しだけ載せます。ご覧になって、おもしろそうだと思えわれたそこのあなた! 是非読んでみてください。

概要(ちょっとだけ)

 VR機構は、秘密裏に作られた組織である。人類は、絶滅の危機に瀕していた。そこでこのミライという名の、未来都市を世界各地に建設した。地下にシェルターを構築して、選ばれたものだけが生き残る道を選んだ。ミライは、バーチャルリアリティーの世界だった。

こちらVR機構日本支部(四百字詰め原稿用紙149枚)

目 次

1.VR機構 その1 (このページ) 
1.VR機構 その2 次の章     
1.VR機構 その3         
2.ユートピア/3.ディストピア   
4.ルーチン /5.ご褒美      
6.ハッカー     
7.侵入者      
8.隠蔽  /9.騙し続けるしかない 
10.レベル・ファイブ(Level5)

1.VR機構 その1

 花岡悠太は、ゆったりとしたヘッドレスト付きの椅子の背もたれに背中を預けながら両手を首の後ろで組んでいた。悠太は、バーチャルリアリティー機構日本支部の職員の一人だ。
「いい気なもんだな」
 彼は、鼻を鳴らした。マザーには、顔は向けずに視線だけ向けていた。小馬鹿にしているようでもある。
 右隣のモニターの前に座っている部下でサブチーフの久保信二は、またか…というような顔を少しだけ悠太に向けた。いつものことである。悠太の態度はリラックスしているようにも取れるが、AIに対しての違和感や不信感の表れの態度のようにも受け取られたからだ。AIよりも人間の方が、優位だと無言のうちに誇示しているかのようでもある。あくまで人間が主でAIは従であると、主従関係をはっきりさせたいのかも知れない。本人がそこまで考えているかは定かではないが、無意識に態度に出ているのか?
「どういう意味でしょうか?」
 人類が誇るAIのマザー(通称おふくろさん)は、悠太の言っている意味が理解できないようだ。
 その大きな空間は、コントロールルームと呼ばれ小学校の体育館ほどの広さと高さがあった。正面には、大きなメインモニターが設置されていた。通常は、ミライの風景を映している。何かあった場合は、問題個所を即座に映し出す。
 AIのマザー(おふくろさん)は、四十代の東洋系女性の平均的な顔立ちを採用しメインモニターの右隣の縦長のモニターにバストショットで常に現れている。AIというより、少し上品な女性を感じさせる柔和な顔で職員を見守るように職員たちと対峙している。昔のようなAIのぎこちなさなどはなく、モニターの向こうに普通の人間が存在するように見える。
 言葉も丁寧で、AIというより女性そのものに近い。画面の向こうに、本物の人間が存在すると思えるほど現実的だ。悠太たちも、たまに本物の女性と錯覚するほどだ。
 人と同じ様に、喜怒哀楽もプログラミングされていた。が、あくまで控えめだ。それでも危険が迫ったり問題が発生すれば、語気を荒げることもあるため女王様と揶揄することもある。
 日本のマザー(おふくろさん)は、日本のシェルターと収容されている住民すべてのコンピュータや防犯カメラそれにICチップなどを管理下においており、知らないうちにマザーに生活のすべてを知られていた。他にも盗聴器が、そこかしこに備え付けられていた。
 メインモニターから五メートルほど離れた中央に、悠太と久保の席がある。左右には、二列で十席ずつ職員の席が配置されている。

 悠太は、バーチャルリアリティー機構日本支部のチーフで現場責任者になる。久保は、三人いるサブチーフの一人だ。あとの二人は、夜間や休日に対応している。引継ぎや問題が発生したとき以外は、悠太や久保と顔を合わせることもない。他の職員も二十四時間対応で、ミライの隅々まで目を光らせている。
 バーチャルリアリティー機構は英語で、Virtual reality organizationと呼ばれている。略称は、VRO又はVR機構と呼ばれているが一般人には知られていない影の組織である。
「また、テロ事件を起こしたことだよ」
 悠太は、そのままの姿勢で吐き捨てるように言った。
「世界がそのままだった場合は、テロが続発する筈です。テロリストや犠牲者たちは、全てバーチャルの人たちです。シェルターだけでなく、地上世界も含めだれ一人犠牲者は出ないのです」
「よく言うよ。被害者はいないとしても、みんなが不安になるじゃないか。バーチャルなんだから、もっと夢のある世界にしたらどうだ?」
 悠太は、おふくろさんの言葉が終わるまで待てないのか、言葉を被せるようにして異議を唱えた。
「そんなこと、出来ません。現実は、バーチャルの世界より深刻なのです」
 マザーも負けてはいない。現実は、もっと危機的だと言いたげだ。

 そもそもの発端は、半世紀ほど前の二千二十五年頃に遡る。
「花岡。おまえ、ミライに応募してないんだって」
 花岡博の同期で同じ大学の准教授でもある真田は、大学のカフェテリアでコーヒーを片手に花岡の前の席に座りながら尋ねた。ミライとは、世界十一ヶ所に造られた新しい都市計画に基づいた都市だ。住民募集が、全世界で始まっていた。正式名称は、未来型実験都市。
 英語では、Futuristic experiment cityとなった。愛称は、日本語の響きが良いため半数以上の未来型実験都市でミライと称した。中国は、今までの歴史問題などが尾を引いたのか中華思想の影響か定かではないが、中国語のWeilai(ウエイライ)とした。アフリカの二ヶ所の未来型実験都市は、中国に配慮してか英語のFutureになった。
 十一箇所の未来型実験都市は、国民の人数により十数ヶ国から二十ヶ国程度を収容することになっていた。各未来都市は、建設費の節約などの理由からすべて同じ造りであった。ミライ内は、収容される国の面積や人口規模により区切られた。国境の壁などはなく、道路に黄色い線が引かれているだけである。国民の少ない国や近隣の国など一箇所に集約する場合もあった。その場合は、文化や宗教それに友好的な国の関係なども考慮された。結果ミライ(Mirai)の人口は、国別に五万人から二十万人まで様々になった。
「ああ」
 花岡は、気のない返事をした。そもそも、今の研究に手一杯のためもあって興味がなかったのだ。
「あそこ(ミライ)は設備も充実しているし、おまえにとってはいいチャンスじゃないか。うち(明和大学)の新しいキャンパスも作られるようだ」
 真田は、花岡のことが気になっていた。
「ここに愛着があるし、今のプロジェクトも途中だしな…」
 花岡は、どこか歯切れが悪い。
「そうか…。ミライは、凄い人気のようだから。まあ、応募したからといっても当選するとは限らないからな」
 真田は、それ以上訊かない。花岡には、何か考えがあっての事だろうと考えたからだ。
 花岡は、ミライという新しい都市に疑念も抱いていたのだ。自分の体内に埋められているICチップを、複雑な顔で眺めていた。自分も関わったプロジェクトでもある。が、利便性だけが強調されている反面、四六時中監視されかねない危険性を感じていた。両刃の刃にならなければいいが…。と常々考えていた。
 花岡は、結局ミライに移住することになった。ミライに新しいキャンパスが作られることになり、花岡のプロジェクトごとミライに移転することになったからだ。真田は応募したものの、当選しなかった。

 ミライへの移住は、日本の年度に合わせて三月から順次行われることになった。花岡は、三月十日にミライに移住する事になった。
 花岡は、ドライブを兼ねて一泊二日で四国の高知まで来た。高知市のうなぎ屋で昼食を済ませ、食後にそのままミライに向かった。高知の街はずれから、片道三車線の道路がミライまでほぼ直線で伸びていた。花岡は、四国の山間の広い道路をミライに向けて愛車を走らせた。
 ミライ建設用に造られた、真新しい道路だ。反対車線には、ミライに居住者を送り届けた観光バスが折り返し戻ってくる光景が見える。花岡たちの車線には、多くの観光バスや自家用車がミライを目指して疾走している。車の台数は思ったほど多くはない。
 道路の両側には、時折小さな集落と田畑が見える。風光明媚な長閑な風景だが、百万人近い規模を誇るミライに続く道路にしては、どこか寂しい。ミライに近づくにつれ、民家や田畑はなくなり雄大な山並みしか姿を現さなくなった。ミライの入り口に到着すると、民間のガードマンが花岡たちを出迎えた。高速道路の料金所のようなゲートが十か所ほどあり、花岡たちの前後には多くの車やバスが鈴なりになって順番を待っていた。十数分後に花岡たちの順番になると、全員がガードマンが差し出すスキャナーに手をかざした。

「花岡様とご家族様の確認ができました。矢印に従って、お進みください」
 ガードマンは、丁寧な言葉づかいで言った後に会釈した。
「ご苦労様です」
 花岡も頭を下げてから、車をゆっくりと発進させる。矢印の先は、トンネルになっていた。
 長いトンネルを抜けると、視界が開けいきなり真新しい未来都市が出現した。
「これが未来都市…?」
 長男の卓巳は、呆れ顔だ。アニメで見るような高層ビル群や格好の良い未来の乗り物を勝手に想像していたようだ。出迎えに来ていた、カートを見ても呆れた顔をしている。ミライに幻滅したようだ。
 未来都市にしては、何処にでもある地方都市にしか見えないのだろう。ミライの中心部でさえ高層ビルなどはなく、高いビルでも十階ほどか。サテライトオフィスが各家庭に設置されているため、テレワークが原則だ。新型コロナウイルスをはじめとする、感染症対策のためだ。結果的にミライのオフィスは、最小のスペースにすることができた。高層ビルなど、不要ともいえる。工場などは、造られていない。何故なら、感染症の拡大を危惧していたからだ。
 日本だけではなく、アジアの様々な国から日本に集められた人たちは、エリートばかりだからだ。エリートたちを、感染症の危険にさらすことはできない。そのための措置でもあった。新型コロナウイルスは、終息などしていなかった。発生から五年もたっているのに、抑え込みと流行を何度も繰り返していた。
 感染症の予防と拡大防止のため、ミライはゆったりと造られていた。何もないところから、都市計画ができたからだ。ビルとビルの間隔は、他の都市よりも広い。車道と歩道は完全に独立している。歩道も広く感染症が蔓延しそうなときは、歩道を一方通行にすることになっていた。歩行者が道路を横断する箇所は、車道が高架になり歩道橋などは不要になっていた。ミライ全体で自動車乗入れを禁止したために、車庫や駐車場のスペースが不要になった。すべては、感染症対策の帰結と言えた。

 サテライトオフィスや自動車乗入れ禁止のため、空いたスペースを活かし家やマンションは広い間取りを確保できたようだ。繁華街に造られているレストランや居酒屋などの飲食店も、広く感染症が再発したときには座席の間を遮蔽できるようになっていた。すべてのオフィス・店舗・住宅は、広く作られていた。単身向け以外の住宅は、寝室にユニットバスが備え付けられていた。
 感染者が出た時に、感染が拡大しないためだ。感染者の症状が悪化した時は、AIが自動的に医療機関に連絡する体制が整っていた。ICUも十万人当たり六十床という充実ぶりだ。人工呼吸器や病床数も、2020年当時の世界最高水準の国の倍以上の病床を確保していた。医師看護師などの職員も多くミライに招かれ、大学などの教育機関も充実することになっていた。
 自家用車やバイクなどは、ミライ中央の四ヶ所にある立体駐車場に収容された。
 車の乗入れは禁止されていたため、花岡たち一家は指定された駐車場に車を停めた。普通ならスマホでミライ内移動のためのカートを呼ぶのだが、今日は初日のためカートが出迎える手はずになっていた。

 車を降りると、迎えのカートが待っていた。花岡の愛車は、自動で駐車場の大きなビルに吸い込まれていった。花岡は、これで二度と愛車に乗ることはないような気がした。
 カートは、天井も高くゆったりとした九人乗りだ。乗用車よりワンボックスに近い。作りは華奢だが、最高スピードが五十キロに想定していることとトラックなども通行しないため頑丈に作る必要もないようだ。
 トラックで運ぶ物流は、すべて地下から供給されるため、不要になった。
「花岡博さまと、ご家族さまですね」
 カートは、丁寧な言葉で尋ねた。が、やはり機械で合成した音声は、違和感を覚える。
「すげえ!」
 卓巳は、初めて未来都市に満足したようだ。見る目が変わった。
「はい」
 花岡が答えると、「チップをリーダーにかざしてください」と、カートが告げた。顔認証済なのに、何か別の思惑があるのか…。と思いながらも、手に埋め込まれたチップをリーダーに近づけた。

「他のご家族さまも、お願い致します」
 花岡の妻と息子と娘も、続けてリーダーにチップをかざした。
「花岡さまとご家族さまを認証しました。未来都市ミライにようこそ。これから新居にご案内致します。どうぞ、お乗りください」
 カートのドアが開いた。
「家まで、どれくらい?」
 卓巳は、気になり尋ねた。と言うより、AIと話したいからだ。
「所要時間は、十五分を予定しております」
 カートは、答えた。
「卓巳。他の人に迷惑よ。早く乗りなさい」
 花岡の妻は、卓巳を促す。卓巳は、妹が乗り込んだ後部座席に乗りながら、「さすがミライだ。すごい!」と、興奮していた。
「早くおうちが見たい」
 下の娘が駄々をこね始めた。
「おやつあるよ」
 卓巳は、ナイスホロー。妹の性格を見抜いている。もう少し待ってと言ったら逆効果になることを知っていたからだ。
「食べる」
 妹は、卓巳の差し出したお菓子を受け取ると早速封を開けて食べ始めた。

「出発します」
 カートのAIは、妹が落ち着いた頃を見計らうように告げるとゆっくりと発進した。
「あなた。家具だけではなくパソコンまで支給されるのは有難いけど、服以外持ち込み禁止って何かおかしい気がしませんか」
 花岡の妻は、夫に尋ねた。腑に落ちないようだ。
「そんなに、気にするんじゃない。パソコンだって、前より性能がいいじゃないか。百万人もの人が、一度に引越ししてくるのだ。そんな余裕はないのだろう。仕方がないじゃないか」
 花岡は、意に介していないような口ぶりだ。それでも、何か別の理由があるのではないか。と、薄々と感じてもいた。

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