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「聴くこと」の重要性

 ボイストレーニングというと、どうしても声帯を鍛えるだとか歌声を磨くだとかいう話になりがちですが、聴く力を鍛えていくことも同じくらい大切なことである、と私は思っています。自分の声がどう鳴っているのか、周りの音がどう鳴っているのか、上手に響き合っているのか、などを感じながら音楽をやることが大事なのは言うまでもありません。今回は、声帯の動かし方や唄い方の話とは少し違った切り口で、声や歌や音をどのように感じながら聴いていくか、という話をしていこうと思います。

 まずお話ししたいのが、自分の声をしっかり聴けていない人が意外と多い、ということについてです。発声練習をするにしても歌うにしても、声をしっかり出すことに変わりはないわけですが、自分の声がしっかり出ているかどうか、正しく声帯を鳴らせているかどうかを確認しながら練習できている方は意外と少ないのではないか、と思っています。声帯が正しく鳴らせているかどうかはトレーナーの判断を仰ぐのが最も確実で早いですし、レッスンやトレーニングを積み重ねることで的確な判断を自分で下せるようにはなりますが、より客観的に判断できるようにきちんと録音してプレイバックしてみることをお勧めします。ICレコーダーでも携帯のアプリなんかでも良いと思います。客観的に自分の声を分析する癖をつけることで、トレーナーからの指摘や説明も、より一層理解が深まるはずです。出来る限り同じ環境(レコーダー、スピーカーやイヤホンなど)で確認しながら練習してみましょう。

 また、少し違う観点からですが、自分の声をしっかり聴くという意味でやっていただきたいのが、耳の後ろに手のひらを添えて行う発声練習です。よく子供向け番組などで、司会者が視聴者(子供達)に向かって元気よく挨拶をした後、フムフムと頷きながら両耳に両手を添えて返答を受け取ろうとしますよね?あの感じで自分の発声練習の時の声や歌っている時の声を試しに聴いてみてください。自分の声がとてもよく響いて、音量も大きく感じられるのではないかと思います。耳の後ろに手のひらを添えることによって、自分の身体の外側にある音をより集めやすくなります。そうすることで自分の意識が自分の身体の内側ではなく外側に向かうようになり、声が外側に出ていく感覚が掴みやすくなります。これは言い換えると「声が前に出ている」という、ポップスの発声において理想的な声の出し方の感覚を掴みやすくなる、ということになるわけです。すると当然、声帯の使い方も良くなり、疲れにくくもなり、音程もとりやすくなっていくはずです。外側の意識を持って発声する感覚がわかれば、自然と良い発声になるということです。どうしても内側の意識(主観、自意識)が強くなってしまう場合や、レッスン時にトレーナーから「声を前に出そう」と言われてピンとこない場合などに、是非試していただきたいと思います。

次に、周りの音がしっかり聴けていないパターンについてのお話です。このお話は、バンドを組んでいる方やパソコンなどで音楽を作っておられる方などには「釈迦に説法」のような話でもありますが、初心者の方には意外とあまり馴染みの無い話だったりするので、ここでお話させていただければと思います。

 私は、音楽を真剣に聴いたり演奏し始めたのが小学校高学年の頃で、ラジオにハマり出したり、習っていたピアノで連弾や合奏など本格的なアンサンブルを経験し始めたのがこの頃だったと記憶しています。それ以前は楽曲を聴くにしても、ほとんどボーカルの声しか聴いていませんでした。歌がないところでギターやサックスなどのソロがあって、ドラムがドカドカ鳴ってて、ベースって何?くらいの感じでした。このような状態だと、当然その楽曲を深く理解することなんてできませんし、ボーカルと周りの音との関係性をしっかりと理解しながら歌うことができません。響き合う感覚、グルーヴ感やスピード感、一体感が形成されて初めて、音を楽しむことができるわけです。自分のメロディーがちゃんと奏でられているかどうかしか考えていないような独りよがりの音楽は、聴いていて苦痛すら伴います。これは音楽をやる上で最も気を付けなくてはならないことの一つですので、そこのところをしっかり意識して練習していくようにしましょう。

 では、具体的にどうすれば良いのか。まずは、ドラムの人がどんなテンポを感じているのかを理解する必要があります。3拍子なのか4拍子なのか、それとも変拍子なのか。手数の多い少ないに関係なく、その楽曲のテンポやスピードを感じながら歌っていくことが大切です。また、ベースの弾いているメロディー(ベースライン)とボーカルのメロディーラインの絡み合う心地良さを感じる必要があります。最も低い音で支えてくれているベースの音を感じながら、ハーモニーを楽しめるようになると良いと思います。さらに、ギターやピアノの伴奏のコード進行とメロディーの関係性を理解しながら歌うことを心がけましょう。Am7(エーマイナーセブンス)だとか、詳しいことまでわからなくても構いません。伴奏全体の音の高低の流れとボーカルのメロディーラインの流れがどうなっているのか、できる範囲で分析していきましょう。

 こういった作業を、カッコイイ言葉、プロっぽい言葉で「楽曲の解釈」なんて言ったりします。楽曲の解釈というのは人によって微妙に変わってくるもので、答えが一つに限定されるものではありません。例えば、サビ「だから」盛り上がるのではなく、サビの直前くらいからストリングス(弦楽器)やパーカッション(打楽器)が入ってきて、サビに入ると音の数が増えて豪華になって、音程も高くなって気分が盛り上がってきたからボーカルも盛り上っちゃおうかな、となったりするわけです。その盛り上がるサビが終わって、最後のサビまでの間に音数が減ってドラムだけとかピアノだけとかになったりして、これは静かになったからボーカルも静かに歌おう!となるのか、周りが静かになったんだからボーカルが目立つチャーンス!となるのか。どちらにするかの選択は、そのボーカリストの楽曲の解釈に依る、となるわけです。

 いかがでしょうか。周りの音をしっかり聴きながら歌う練習の大切さがわかっていただけたでしょうか?何故自分がこのメロディを歌っているのか、そもそもこの楽曲のどんなところが素敵なのか、自分なりの答えを見つけようとしながら歌っていきましょう。最初はなかなか難しいですし、うまくいかないこともあるかもしれませんが、できることや気付いたことから少しずつ積み重ねて、自分なりの解釈を見つけていきましょう。

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