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Mia Nascimento @red croth〈ヒッピハッピシェイク〉(20231220)

 クリスマスソングも飛び出した、伸びやかな声で魅了した一夜。

 生誕ワンマンライヴまでちょうど1ヵ月となったシンガー・ソングライターのミアナシメント。ソロとしての2023年最後のステージは、東新宿駅に近いライヴハウス「red cloth」(紅布)のイヴェント〈ヒッピハッピシェイク〉となった。そのほかアトロゲドン、ちぇる、ray.(光)と全4組が出演。

 ミアナシメントのステージは自主企画〈FRIDAY NIGHT〉(記事→「Mia Nascimento pre. 〈FRIDAY NIGHT〉@mona records(20231117)」)以来の観賞で、約1ヵ月ぶり。red clothでの観賞は以前にもあって(記事→「〈Like Sugar〉@新宿Red Cloth」「Mia Nascimento @Red Cloth〈Meta Lyric〉(20230522)」)、音響や照明との相性が良い印象があったが、本公演でもそれを再認識。

 両肩上部がツンと出た、藤紫あたりの紫色系の肩パフショートカットドレスと黒のパンツという出で立ちで登場し、前半は「Lonly Night」から「snow white」まで、ミアナシメントの楽曲性のメインテーマの一つでもある“夜”をコンセプトとした楽曲を中心に披露。R&Bでは王道といえるミディアム~ミディアム・スローのテンポかつマイナー調のメロディも多かったりと、ネオソウルやオルタナティヴR&Bあたりにあまり触れないリスナーにとっては一見盛り上がりがしづらいように思えたりするかもしれないが、良質な楽曲とともに特筆すべき弾力性を持ったヴォーカル資質によって、なめらかでしなやかなグルーヴが横溢し、ナチュラルに身体を揺らせてくれる。

 ミッドウィークの夜ということもあって、集客はさほど芳しくなかったが、それがかえってリラックスを生み、伸びやかなパフォーマンスを繰り出せたのも良かったか。(今年は近日までだいぶ暖冬の印象が強いけれど)ウィンターシーズンならではの選曲となる「snow white」は、哀切やノスタルジーを伴った曲風と表情豊かな機微を帯びたヴォーカルアプローチが相まったたおやかなグルーヴが卓抜。雪景色をバックに思いに耽るような心情を吐露するような、アウトロのフェイクが美しい。

 MCを挟んだ後半からは、ミアナシメントのもう一つの魅力でもある、微笑ましく晴れやかな作風の「rhythm」やフロアキラーなパーティ・チューン「Don't stop the party」といった陽の要素の楽曲をセレクト。本来の明るいキャラクターが活きた、跳ねるようなリズムやグルーヴでフロアのヴォルテージを加速させていく。物憂げに歌うアダルトな表情から、笑顔を振りまきながらジョイフルに歌う、その振り幅の広さも魅力だ。

 ラストはクリスマスウィークということで、クリスマスソングのド定番、1994年発表のマライア・キャリー最大のヒット曲「恋人たちのクリスマス」(「All I Want for Christmas Is You」)を。(ポルトガル語と日本語は堪能だが)英語は苦手というブラジリアンゆえ、途中は歌詞を見ながらの歌唱となったが、マライア・キャリーが雪原を真っ赤なサンタ服で戯れる「恋人たちのクリスマス」のミュージック・ヴィデオよろしくジョイフルに、ステージ狭しと動き回りながら愛嬌を振り撒き、観客への歌のクリスマスプレゼントを届けてのエンディングとなった。

 2023年は新曲を出さなかったので、「2024年は新曲を出して精一杯活動します」とのこと。まずは、1月20日の生誕ワンマンライヴへ向けてとなるが(そこで新曲披露もあるか)、良質な楽曲が多くのリスナーに届くことを願うばかりだ。

◇◇◇

 対バンとなったそのほかの3組、アトロゲドン、ちぇる、ray.(光) についても、僅かだが記しておく。

 トップバッターを務めたのは、黒系でまとめたジャケット・パンツ姿で登場したアトロゲドン。パッと見はギター弾き語りシンガー・ソングライターなのだが、作詞を酉果らどん、作曲をアトロが務めるという“ジェノサイドポップユニット”というコンセプトのようで、蜻蛉に寄す(トンボニヨス)という名のバンドでも活動している。“ジェノサイドポップ”(意図的に抹殺する行為)となんだか恐ろしい名を掲げているが、ハードコアやデスメタルのような作風ではなくて、詞世界にさまざまな苛立ちを没入させるというスタンスか。「絶対に許さない」などのタイトルはそれの表われかもしれない。

 北海道・函館から今年上京してきた31歳で、両親と仲違いして疎遠だったが「久しぶりに連絡してわだかまりを解いた」、祖父母が芳しくない状況など、精神的にさまざまなことが重なったとのこと。日常に生まれた鬱憤やもどかしさという感情を詞に認めていくようだが、歌唱自体は重いということはなく、いわゆる王道ギターポップ・シンガーのそれ。声色もどちらかといえば人懐こい感じだ。

 東京は「何より雪かきしなくていいから住みやすい」とのこと。雪や冬といったフレーズが多いのは道産子ゆえか。ラストに披露した「さよなら、ダイナソー・ロマンス」は、函館出身と知って聴いたからか、メロディがなんだかGLAYっぽくも感じたりした(単純だな、おい)。

ちぇる

 ミアナシメントに続いて3番手に登場したのがちぇる。新宿生まれ、東高円寺出身の16歳で、PYON²、Dr.Girlfriendなどのメンバーやサポートなどでのドラマーとしての活動がメインとのこと。2021年の「ミスiD2021」にてドラマーソングライター賞を受賞している(ちなみに「ミスiD」は当初の2013年はファイナリスト20名だったが、現在は200名弱がファイナリストに選出され、さまざまな賞を付随させるなど、玉石混淆濃度が高い。2021年のファイナリストも198名だった)。

 ツインテールにチェック柄をあしらったブラウンのワンピースのロングスカート、オンザ眉毛の前髪にラウンドフェイスとティーンらしい可憐なルックスだが、ステージ転換中に念入りにマイクや楽器の鳴りをチェックするなど、バンドのドラマーとしてキャリアを積んでいることが窺える所作も。弾き語りはサイドワークのようだが、11月にはCD『ザ・ちぇったん』を渋谷タワーレコード限定でリリースし、在庫もあと僅かとのこと。『ザ・ちぇったん』収録曲からは「くるりをきいて」「きみとマリアージュ」「きまぐれペテルギウス」の3曲をセレクト。前者2曲はギターで、ラストの「きまぐれペテルギウス」はドラムとシンバルでの弾き語りとなった。

 ラスト前に披露した「知らない」は、4年前の12歳の時に初めて手掛けた楽曲とのこと。小学6年か中学1年くらいの好奇心をそのまま素直に書いた詞世界で、本人も「今(の自分と)違って、何だか幼いですね」と語っていた。ヴォーカルは甘い声色のハイトーンで、ファンシー。ほんの一瞬だけ、チャットモンチーの橋本絵莉子のファルセット版のような印象を持った(違うか)。
 「きまぐれペテルギウス」の最後で銅鑼が鳴って、にこやかにエンディング。歌唱は甘いが、負けず嫌いな一面もあるのかも、とふと思ったりもした
(根拠はなし)。

ray.(光)

 トリを飾ったのは、ray.(光)(“レイヒカリ”と読む)で、シンガー/ギタリストの藤倉嗣久をサポートに迎えたツインギター編成。ray.(光)はノンバイナリージェンダー(男性・女性の枠組みを当てはめない、当てはめたくない“性”をもつ、“not he, not she, just me”という概念。宇多田ヒカルがカミングアウトして話題になった)で、埼玉で生まれるも、英・ロンドンで育ったゆえ、慣れているのは英語で、歌詞も英語がメイン。日本語詞の楽曲は、英語で作詞をしたのちに日本語にしているという(英語詞、日本語詞それぞれのヴァージョン/アレンジがある模様)。

 2021年の「Breathe -EP-」以来、「Day1」まで8作のデジタル・シングルを経て、2023年4月に1stアルバム『Boomerang』をリリース。序盤は曲名を失念してしまったが(「Day1」あたりだったかな…)、イギリスで育ったと聞いたものの、UKというよりUS(シェリル・クロウあたりのカントリーがチラつくオルタナティヴロック)っぽさを感じたのだが、どうやら学生時代は日本で過ごし、渡米して名門音楽大学へ進んだとのこと。観賞しているうちに、新曲「Another Life」(?)「だるい」といった初めて日本語詞先行で作ったという楽曲などを聴くにつれ、メロディはUKボーイズ・グループも想起させるメロディのミディアムにも感じたりと、ジャンルレスというアプローチが一つの特色のようだ。

 英語と日本語をミックスさせるスタイルと、今回はサポートギターという編成もあって、LOVE PSYCHEDELICO的にも思えたが、楽曲性はそこまで(ビートルズマナーの)ロック・サウンドを重心にしてはいない感じ。ラストに披露した、“ナナナ~”というシンガロングとクラップが響くザッツ・アメリカンロック的な「Boomerang」という楽曲もあるけれど、“もうやめてくれよ”という感情を吐露した「Don't You Dare」はR&Bマナーのメロディをオーガニックなギターで紡ぎ、ギターを置いて、渡米時に受けた差別や苦悩を歌った「Wake Up!」では、ギターを置いて、R&B/ソウル調のトラックに乗せてラップを繰り出すというヒップホップマナーのアプローチも。とてもやわらかな顔立ちだが、フロウを畳み掛ける姿には強く激しい感情や意志も伝わってきた。

 歌詞に込めたメッセージは刺激的で強烈なものも少なくないのかもしれないが、強引なヴォーカルワークもなく、感情を揺さぶるのが良い。ライヴではギター弾き語りを中心としているのかもしれないが、スタンドマイクでのパフォーマンスでも魅力を発揮できそうだ。

◇◇◇
<SET LIST>
《アトロゲドン》
01 いつかのアイスフラワー
02 絶対に許さない
03 スロービート
04 スノーマン
05 おもかげ
06 さよなら、ダイナソー・ロマンス

《Mia Nascimento》
01 Lonly Night
02 Night
03 Forget
04 snow white
05 rhythm
06 Don't stop the party
07 All I Want for Christmas Is You(Original by Mariah Carey)

《ちぇる》
01 アイス
02 マリアージュ
03 くるりをきいて
04 この春の季節
05 知らない
06 きまぐれペテルギウス

《ray.(光)》
・・・
Another Life(?)
だるい
Don't You Dare
Wake Up!
Boomerang

<MEMBERS>
アトロゲドン(vo,g)
ミアナシメント(vo)
ちぇる(vo,g,ds)
ray.(光)(vo,g) / 藤倉嗣久(g)

〈ヒッピハッピシェイク〉

◇◇◇
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もし、仮に、気まぐれにも、サポートをしていただける奇特な方がいらっしゃったあかつきには、積み上げたものぶっ壊して、身に着けたもの取っ払って……全力でお礼させていただきます。