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ミアナシメントはEspeciaの異端なのか

 2020年代に入り、シティポップやヴェイパーウェイヴあたりの話題に触れる際に時折“早すぎた存在”としてその名を挙げる人がいたり、米の権威ある音楽メディア「ピッチフォーク」に『Carta』のアルバム評が掲載され(おそらく同メディアで日本のアイドル・グループに言及したのは初)、“Japanese vaporwave idols”と評されたりと、海外でも根強いファンを持っている、古臭い言い方で言えば、国内外でカルト的な人気を博しているガールズ・グループのEspecia。2012年6月から2017年3月末までの約5年弱という時をもって活動は潰えたが、再燃したシティポップ・ブームに先んじて、アーバンやリゾート・ミュージック然としたアートワークやヴィジュアルを駆使しながら、80年代ポップ・サウンドをアクセントにした魅惑的な音楽を放ったり、いまや物珍しくもなくなったが、懐古的なファッションやデザイン、曲風、一般的には“ダサい”と思われる要素をあえて採り入れて、レトロモダンな新たなカルチャーとしてのアプローチを試み、一部の好事家からの耳目を集めていた。

 しかしながら、かつて“Especia”というガールズ・グループがいたという話題になる時は、総じて2013年の永井博的なアートワークのEP 2作『AMARGA -Tarde-』『AMARGA -Noche-』前後から2016年の2ndアルバム『CARTA』あたりまでの6名ないし5名体制の時期で、一頓挫あった後に3名体制で始動した“第2章”に関しては、ほぼ触れられず仕舞いだ。

 第2章については、拙記事「Especia“the Second”は失敗だったのか」に譲るが、従来のファンの多くがスタイル・チェンジした第2章へ目を向けなくなった。Especiaは当初から一貫してアイドル・グループではなく、ガールズ・グループと称してきたが、活動現場をはじめ、2010年代前半からちょうどEspeciaの経歴と重なるようにファンや界隈から定義づけられ始めた“楽曲派”の先駆の一つに組み込まれるなど、事実上アイドル・グループとして認知されていたから、ファンもアイドルとして接していた。つまり、楽曲よりもキャラクターを重視する嗜好者が大部分で、そのアイドル性やファンの心を繋ぎとめる“ツール”でもあるライヴ活動やSNSなどのコミュニケーションを廃した第2章は、(アイドル資質の)ファンがファンたらしめる要素を失ったがため、不遇の一途を辿った要因の一つを生んでしまった。それまでと180度異なるアーティスティックでミステリアスなヴィジュアルとコール&レスポンスなどの“沸き”を排除した黒さに重心をどっぷりと移した音楽性は、Especiaという看板を掲げていても実体は別物とファンに判断させるには容易だった。

 その第2章より謎のニューカマーとして登場したのが、ミアナシメントだ。第2章前に卒業した脇田もなり、2017年の解散までリーダーを務めた冨永悠香(現・HALLCA)は、多くのファンたちが認知している第1章の“Especia”として活動していたから、少なからずEspeciaの遺伝子なるものを継承していると見られるだろう。脇田、冨永ともにEspeciaのメインヴォーカルを張ってきた存在で、特に冨永はソロのHALLCA名義でもPellyColoやSchtein&Longer(a.k.a. 東新レゾナント)、Rillsoul(Blackstone Village主宰)といったEspecia作家陣を引き続いて起用しており、その影響力は作品性にも多分に窺われる。

 一方、ミアナシメントは、Especia解散後は矢舟テツロー率いる“座って聴ける、オトナのアイドルポップス”をコンセプトにしたジャズ・ポップ・バンド“MILLI MILLI BAR”の大野真緒に続く2代目ヴォーカルに抜擢。その後、矢舟とのMia Nascimento Trioとしても活動。ただ、それも長くは続かず。2018年11月にMia名義で〈ユニバーサル〉から「明日から」をデジタル・リリースしたかと思えば、アイドル・グループ“かんたんふ”へ加入したり、ラップ・グループの絶対忘れるな「引力」に客演するなど、それほど長くない間にソロ、グループとさまざまな活動を行なってきた。加入、脱退、活動休止などを経て、2021年にソロ再始動。ようやく腰を据えた形でソロ活動を展開するに至った。

 Especia出身者では、ミアのほか、Especia制作陣を起用しながら独自のポップセンスを活かしているHALLCAと、新井俊也(冗談伯爵)によるディスコ・ブギー「IN THE CITY」を皮切りに、近年はDorianを軸にアーバン・ポップスやハウスといった作風へと拡張している脇田という3名が現役で活動しているが、HALLCA、脇田はフィジカル・プロダクツを精力的にリリースしているのに対し、ミアは流通盤プロダクツはなし。自主制作CDとイヴェントが主となっている。

 第2章はほぼ冨永がメインヴォーカルを務めるスタイルだったゆえ、Especiaのフェアウェル・アルバム『Wizard』でソロ曲「Call Me Back」を歌っていたりもするが、第1章、第2章どちらの作風にかすりもしないアコースティック・ミディアム・チューンで、ソロとしての楽曲性が見えない部分がかなりあった。解散後の動向や明確な音楽的特色が見出されていないことが、ミアナシメントの存在を訴求出来ていない要因でもある。

 そういった経緯もあり、Especiaに属しながらも他メンバーとの共通性が希薄と捉えられるとしたら、ミアナシメントをEspeciaの異端派と定義づけるのも一理あるのかもしれない。だが、紆余曲折を経て辿り着いた現在地では、そういった概念を覆すだけの音楽性とポテンシャルを有していることに気づくはずだ。

 音楽制作ソフト「GarageBand」で制作しているという楽曲群は、Especia第2章で邂逅したブラックネスのみならず、Rillsoulが好んで創りそうなネオソウルやヒップホップソウル的な感性を持ち合わせ、ブラジリアンならではのグルーヴを横溢させるという、R&Bやネオソウル好きの耳を惹くアティテュードが全開。楽曲のカラーは、自ら「夜の曲が多い」と語っているように、突き抜けるような大サビが待っているようなJ-POPマナーではなく、物憂げで儚いセンチメンタリズムやメランコリック、ノスタルジーというようなムードで覆われた官能的なメロディやトラックを中心に、ミアの明るいキャラクターと弾力性ある資質が活きたリズミカルなポップ、アンニュイなポエトリーリーディング風なトラック、ブラコン・マナーのファンキー・ダンサーなど、ヴァラエティに富んだ感受性の高さが窺える楽曲が揃っている。

 シンガー・ソングライターの関美彦や、豪・シドニー在住のアーティストのHooful、作・編曲家の.gom(現・UNARI)、絶対忘れるなの志賀ラミーといった面々も制作に関与しているが、多くがミア自身が手掛けており、その音楽的なイマジネーションと、ライヴやイヴェントの直前に完成した楽曲を曲名なしで直ぐに披露するというフットワークの軽さにおいても、Especia時代のファンたちにはおそらく垣間見ることが出来なかっただろう才と表現性が溢れている。ジャンルの概念を超えた多彩な作風を咀嚼しながら、ブラジリアンならではなリズムと弾力性あるグルーヴを生み出す力は、ミアナシメントの独自性でもあるし、Especiaの楽曲群が有したある意味ダイバーシティな音色を受け継いできたからこそともいえるだろう。

 Especiaの"末っ子”として、“先輩”のHALLCAや脇田もなりには遅れたが、2023年1月22日(日)にようやく1stワンマンライヴ〈Mia Nascimento 1st ワンマンライブ~Novo começo ~〉へ漕ぎつけることとなった。アルバムなどの流通盤プロダクツはこれからになるが、瞬発力の高いミアナシメントゆえ、ライヴ当日に新曲や自主制作盤の発表も期待出来るかもしれない。会場は東京・青山にある月見ル君想フ。その記念すべき1stワンマンは、ミアナシメントの独創性とEspeciaの遺伝子、その融合を体感するまたとないチャンスであることには違いない。ソロ・アーティストとしていかなるグルーヴやサウンドスケープを見せてくれるのか。期待を胸に秘めながら、当日を待ちたい。

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■ミアナシメント〈Mia Nascimento 1st ワンマンライブ~Novo começo~〉
日時:2023年1月22日(日) 開場12:00 / 開演12:30
会場:東京・青山 月見ル君想フ
出演:ミアナシメント
コラボレーション:正則学園高等学校 花いけ男子部 【美術】
チケット:前売3,500円 / 当日4,000円(+1Drink代)
https://t.livepocket.jp/e/moonromantic-0122d

2023年1月22日(日)〈Mia Nascimento 1st ワンマンライブ~Novo começo~〉

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2018/01/25 MILLI MILLI BAR@北参道STROBE CAFE
2018/05/30 MILLI MILLI BAR@六本木VARIT.
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2022/06/17 Mia Nascimento @mona records
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2022/08/20 〈Softly Blue #3 〉 @ROCK CAFE LOFT
ミアナシメントはEspeciaの異端なのか(本記事)

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