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Mia Nascimento @月見ル君想フ(20230122)

 多彩な表情と才で魅了した、心新たなメイデン・ヴォヤージュ。

 紆余曲折あったものの、ようやく辿り着いたというところだろう。ポルトガル語で“新たな始まり”を意味する〈novo começo〉を冠した初のワンマンライヴ〈Mia Nascimento 1st Oneman Live ~Novo começo~〉は、そのタイトルに相応しく、フレッシュで希望に満ちたメイデン・ヴォヤージュとなった。

 そのメモリアルなライヴに宛がわれたのは、正面に満月が掲げられたステージで知られる青山・月見ル君想フ。作詞・作曲からプロダクツのデザインや制作までを手掛けるブラジリアン“DIY”シンガー・ソングライター、ミアナシメントの新たな一歩を一目見ようと集まったオーディエンスのみならず、当日はステージ背後の「Miamoon」の文字が浮かび上がった満月も、ミアナシメントの檜舞台を後押ししてくれているようだった。

 ステージは、コラボレーション・アートとして、2019年に結成され、高校生花いけバトル全国大会出場経験も豊富で、メディアにも多く取り上げられている、正則学園花いけ男子部による花いけ作品が文字通り華を添えたほか、ミアナシメントの歌唱中に花いけを披露するというパフォーマンスも。また、アイドル・グループのエレクトリックリボンの元メンバー、美伎あおいがゲストとして駆け付け、ミアナシメントも客演している美伎あおいのプロジェクト“ddm”の楽曲もコラボレーションするなど、工夫を凝らした演目が並んだ。

Mia Nascimento

 満月が輝き、青いサーチライトで照らされたミラーボールがフロアを煌めかせるなか、静かで孤独な夜を思わせるゆったりとしたトラックとともにミアナシメントがステージに登場すると、左手に飾られていた草花から明るい黄色の花一輪を手にして、右手奥にある別の花瓶に差していく。大きく丸い月の下で、小さく可憐ながらも存在感を示すその黄色の花は、ミアナシメント自身の象徴か。月に見守られながら、無事に歌い遂げたいという思いを託した、ステージ上での心の拠りどころとしたのかもしれない。

 陽気で明るいブラジリアンというイメージのミアナシメントだが、前半で歌われた楽曲はどこか拭いきれない悲哀や物憂げなアティテュードが宿っているものが中心。月や夜について触れた詞世界で綴られる作風は、いわゆるベタな歌謡曲進行のものではなく、R&Bやネオソウルなど褐色度が濃いメロディやクールな質感を軸とした、言うなれば、真夜中に滑り込んでいくような甘美と艶やかさを帯びたものだ。「Rainy Day」から「Night」「Snow White」とシームレスに紡いだ楽曲はまさにそれで、単純に切なさとは言い切れない、歌唱から滲み出るやるせなさやもどかしさ、哀切といった情感は何なのだろうと思いながらグルーヴに揺れていたのだが、もしかしたらそれらがブラジリアンならではの“サウダージ”という資質なのかもしれない。単なる郷愁、ノスタルジーとは異なる、日本語はじめ、他言語では言い表せないと言われる複雑なニュアンスが、ミアナシメントの歌唱にも乗り移っているとしたら、それも合点がいく。ボサ・ノヴァを歌っている訳ではないが、ボサ・ノヴァの重要なテーマである“サウダージ”の要素が実はしっかりと潜んでいる……アンビエントやチルなR&B/ネオソウル的アプローチのトラックやメロディ、余韻を響かせるアダルトなヴォーカルが折り重なり、儚くも美しい妖艶で独創的な歌唱が生み出されている背景には、そういった資質が隠されているからなのかもしれない。

Mia Nascimento

 しかしながら、それだけに留まらないのがミアナシメントの特色でもある。中盤で美伎あおいを呼び込んでデュエットしたddmの楽曲では、ヒップホップマナーのトラックやミクスチャー・テイストのダンスビートの上でも滑空していくフレキシビリティを発揮。美伎あおいとのコンビネーションや相性も良く、どちらかというと人懐っこさとともに場末感あるやさぐれた声色がチラつく美伎あおいと、対照的に伸びやかなミアナシメントという組み合わせもユニークで、歌唱での振り幅や奥行きの一端を見せてくれた気がする。

 ダンサブルな跳ねるトラックでは、持ち前の歌唱的な身体能力の高さを改めて実感。「Sweet Magic」やアンコールでの「Shake」のほか、本編終盤で披露した2ステップ的な変則リズムが走るナンバーや、クラップの導きで展開するグルーヴィなハウス・チューンといったEP『Novo começo』収録曲で、ミアナシメントの資質である弾力性あるグルーヴを遺憾なく提示してくれた。

 もちろん、ポテンシャルだけで乗り切るのではなくて、本ステージではさまざまな仕掛けもしていた模様。前述の歌唱中の花いけパフォーマンスや、ddmとしてのコラボレーションもそうだが、導入はそれまでのアコースティック・ギター・セクション流れのままに、後半より音源をバックに披露した「forget」や、「これが最後の曲になります。本当にまだ始まったばかりじゃないのってくらい早すぎる……」と告げた直後に“まだまだ始まったばかりじゃない~”と歌い出して、温かなホーンやピアノが先導するジャズ・ファンクやアシッドジャズの薫りを滲ませたアンコールラストとなった新曲への“フリ”とするなど、単なる楽曲の羅列で終わらせない意図も感じられた。

 初のワンマンライヴとしては、見応え聴き応え十分のステージ。ただ、課題がなかった訳ではなくて、たとえば、「Sweet Magic」が終わって一旦衣装チェンジのためにステージアウトしたのだが、寂寞感も漂うゆったりとした新曲のイントロがループされるだけで、ステージ上に変化をもたらすことが出来ず、いささか登場までに時間を擁してしまったのは、もったいなかったか。また、ミッドナイト・グルーヴァーからハウシーなトラック、「kumo」「たられば」あたりのチルやリラクシンなもの、ddmでのアクトと、懐の広さと幅広い対応力を見せているが、さまざまな作風をさらりと吸収しこなしてしまえるがゆえに(新曲を短期間で制作して、完成直後に披露してしまうところも含めて)各々の楽曲との熱量や印象の差が希薄になる器用貧乏的な部分、端的に言うならメリハリがつきづらくなるい印象を与えるリスクがないとはいえない。一つの楽曲の世界観に深く潜り込むような表現力や訴求力の濃度を高めるということだが(当然全ての楽曲においてそれらを求めるということではなくて、深遠・濃厚よりも軽快に重点を置くべき曲もある)、そのあたりは場数や歌い込みを重ねて行けば、問題なくクリアしていけそうだ。

 緊張もあっただろうが、キャッチフレーズと思しき“MIA MIA SMILE”の信念を貫いて、終始笑顔で歌い遂げた80分強。ステージでさまざまな表情を醸し出しながら歌う姿の背後では、大きな満月の光と一輪ながらも存在感を失うことなく花開いていた黄色の花が、しっかりと後押しし見守ってくれていたようだ。黄色に輝くそれらとミアナシメントの一挙手一投足に目を配っていた時、ふと太陽のような明るさのキャラクターを持つ彼女が、自らが創り出す楽曲の世界ではなぜ月への言及が多いのだろうと考えを巡らせていた。そういえば、ブラジルは日本の真裏に位置するから、日本が夜ならブラジルは朝。日本で月が見える時間は、ブラジルでは太陽が出ているなら、ブラジリアンの彼女にとっては、月もまた太陽に想いを馳せるアイテムなのかもしれない……そんな因果をこじつけてはみたが、それもほんの束の間。次の瞬間には、ミアナシメントが創出する心地よいグルーヴに身を委ねていたのだった。

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<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Title TBD:Track-05(from EP "Novo comeco")→ Lonely Night
02 不透明
03 kumo
04 Rainy Day
05 Night
06 Snow White
07 Miss you(sing with a guitar)
08 forget(first half of sing with a guitar)
09 エブリデイ チートデイ(guest with 美伎あおい)(Original by ddm)
10 (unknown)(guest with 美伎あおい)(Original by ddm)
11 愛っていうんだって(guest with 美伎あおい)(Original by ddm)
12 Sweet Magic
~ INTERLUDE~ BGM Track-05(from EP "Novo comeco")→ Lonely Night
13 Title TBD:Track-01(from EP "Novo comeco")(collaboration performance with 正則学園花いけ男子部)→ rhythm
14 Title TBD:Track-02(from EP "Novo comeco")→ Dream
15 Title TBD:Track-03(from EP "Novo comeco")→ Don't stop the party
≪ENCORE≫
16 たられば
17 All Right
18 Shake
19 Title TBD:Track-04(from EP "Novo comeco")→ Good time


<MEMBERS>
ミアナシメント/Mia Nascimento(vo,g)
美伎あおい(vo/ ddm, ex-Electric Ribbon)

正則学園花いけ男子部(Art Collaboration)

Mia Nascimento

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Mia Nascimento @月見ル君想フ(20230122)(本記事)


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