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Mia Nascimento pre. 〈FRIDAY NIGHT〉@mona records(20231117)

 4色の彩りが交差した、フレキシブルなガールズ・ナイト。 

 引き締まった褐色のボディとルックスでモデルも務める、ブラジリアン・シンガー・ソングライターのミアナシメントが主催する金曜夜のイヴェント〈Mia Nascimento presents FRIDAY NIGHT〉が、下北沢のモナレコードで開催。しあ、matsudamiki、はる陽。というフィメール・アーティストを揃え、4者4様の個性を発揮させた“ガールズナイト”を展開した。

しあ / SHEER

 トップバッターは、長崎生まれ、福岡育ちのラッパー/シンガー・ソングライターのしあ。アーティスト写真を見るに、NHKのバラエティ『有吉のお金発見 突撃!カネオくん』に出演している田牧そらや、出始めの頃の吉田凜音みたいなルックスなのかと思っていたら、ファッション誌の読者モデルにいそうなゆるふわ甘噛み系(?)だったので、ラッパーをするイメージはなかった。2022年のゴールデンウィークには全国のスシロー全店舗で書き下ろしの「スシロー行きたい」という曲が流れていたそうだ(スシローに行ったことがないので聞かず)。この日はお祖父さんの誕生日だったそう。

 MCで本を出版したことについて話していたのだが、自著というのではなく、日本語ラップの好事家の言語学者・川原繁人による言語学エッセイ『言語学的ラップの世界』のなかで、Mummy-D、晋平太、TKda黒ぶちとともにインタビューされているようだ。表紙には“feat.”として名前が書かれているので、アーティスト的にはコラボレーションしたという意味で本を出したことにもなるか(終演後に話を聞いてみようかと物販へ寄るも、タイミング悪く離席していたので、詳細は聞けず)。RHYMESTERのMummy-Dや晋平太はいわずもがな、TKda黒ぶちも『フリースタイルダンジョン』の“モンスター”と名の知れたラッパーたちのなかに、一人ポツンと加わっている形で、ほかにもフィメールラッパーはさまざまいると思うが、敢えてしあをインタビュー相手にセレクトしたのは、著者なりの意図があるのだろう。

 たしかに、しあはラッパーとはいえ、ゴリゴリのヒップホップの王道というのではなく、日常にありふれたものを背伸びするのではなく等身大にラップスタイルが特色。かといって、フィメールラップによく見る“ゆるラップ”系とも異なり、自身が発信したいことをラップするように歌うという表現が近いかもしれない。「好きな気持ち」などの女子ならではの楽曲は、ラップ口調のヴァースもあるが、どちらかといえばガーリーなダンスポップに寄っているといえるし、「おふとんさいこー」はキュートな歌い口や詞世界だが、ヒップホップマナーのトラックやビートを敷いていたりもする。途中で観客からテーマを募って(“ドライフラワー”と“かぼちゃのスープ”だったか)、そのフレーズを用いて歌を披露するフリースタイル的なノリもあって、なかなか手を伸ばす範囲は広い。ラストは観客にコールを催促しての「Petrichor」でエンディング。ラッパー特有の“ノリ”が苦手だったり、単なるガーリーなポップでは物足りない人たちには、ちょうどいい塩梅に響きそうだ。

matsudamiki

 続いて登場したのが、アートワークなども手掛けるというシンガー・ソングライター/トラックメイカーのmatsudamiki。2019年9月より松田美妃名義で活動していたが、2022年より現名義で始動。当初はやさぐれ感も漂うロックやブルースに相性の良さそうな声色が顕著だったが、そのテイストは捨て去ることなく、さらに音楽性に拡がりを見せている感じだ。

 クールな目つきが小生意気そうに見えるもアンニュイさも持ち合わせ、歌い踊る最中には可愛らしい表情も垣間見せるなど、ミステリアスな雰囲気もチラつくルックスが印象的だが、それ以上に陶酔を感じさせるパフォーマンスで歌い踊るスタイルが目についた。1曲ごとにMCをしてという形でなくて、曲と曲の間も踊りながら曲紹介したりと、自身の音楽の世界に陶酔、遊泳している感じが個性的で、ステージにも裸足で登壇していた。こちらもラップ・スタイルを見せたりもするのだけれど、トラックは前述のロック調のものからローファイ・ヒップホップからエレクトロニックなどさまざま。ワブルベース風のダブステップをアクセントに、寿限無のフレーズを組み込んだ「カムパネルラ」あたりは、初期の水曜日のカンパネラっぽさもある一方、チチチチというビートとスナップ音をバックにエフェクトを駆使したエレクトロニック・ヒップホップなトラックを走らせた「sleepless night」や「Gok」といった、R&Bやネオソウルの要素も秘めたドープかつコンテンポラリーなアプローチの楽曲もあって、なかなか鮮やかだ。

 普段はオールスタンディングのライヴハウスなどのステージに立っているようで、今回の「椅子のあるフロアではあまりやったことがない」と話していたが、確かにDJを配したクラブ系の箱の方が適する音楽性ではありそう。ただ、そういったフロアにしか適応しない、それ一辺倒ではなくて、中華風のメロディラインを用いて、野暮ったさを巧みに味として落とし込んだ「wo ai ni」などのレトロモダンな作風もあったりするから、さまざまな音楽リスナーの耳目に“引っ掛かり”そうな気もする。ラストの「百鬼夜行」はアッパーなクラブ・ダンサー仕様のフロアキラーだが、一瞬「マイ・フェイバリット・シングス」(ミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』劇中歌で、JR東海「そうだ 京都、行こう」キャンペーンCMで流れている曲)を想起させるブリッジがあったり、前述の「カムパネルラ」の寿限無もそうだが、“百鬼夜行”といった説話に出てくるワードチョイスなど、どこかレトロで昔ながらの(歌謡曲的と言ってもいいか)フレーズを用いたりするのも面白かった。

はる陽。

 3組目のはる陽。は、​ZOCなどが所属するTOKYO PINKから大森靖子がプロデュースする2002年生まれのシンガー・ソングライターとして、2022年にミニ・アルバム『Dear my star.』でデビュー。ドールハウスから飛び出してきたようなメルヘンチックな淡いオレンジのドレス姿で、黒っぽいギターを抱えて歌う。ピンクのヘアは大森リスペクトか。

 当初の予定より10分近く早く演奏を終えて一旦ステージアウトするも、「時間配分間違えた!」と戻ってきて、フロアに下りて観客に囲まれながら再び演奏するというハプニングも。持ち時間内に少しでも楽曲を多く歌いたいという意図があったのか、それとも元来そのようなスタイルなのかは分からないが、曲が途切れることなくシームレスに歌い繋いでいく。

 繊細なハイトーンファルセットが印象的で、自らが創り上げた詞世界に入り込んでいくように一心不乱にギターを掻き鳴らす感じは、“超歌手”こと大森靖子の影響も窺えそう。丸顔で可憐な顔立ちなのだが、吐露しているのは刺々しい痛みやもどかしさといった生々しい感情で、切なさと同時に愛らしさが伝わるところに、彼女らしさが宿っているのかなと感じた。

 はる陽。の“陽”が本名からくるのかは不明だが、天真爛漫な“陽”というよりも、本質的には陰な部分を多く持ち合わせながらもポジティヴに感情を焚きつけたいという意味での陽にも思えた歌いぶり。息つく暇なくファルセットで弾き語り続けるゆえ(ややブレスの音が大きくて気になったりもしたが)、はち切れんばかりの情感で駆け抜けていきながら、刹那的だが本質も映し出した幸福や儚さなどのメッセージを詰め込んでいるのかもしれない。フロアに下りて演奏し始め、再びステージに上がって弾き語り終えた瞬間、ステージに置いていたスマホを掲げて「時間通りに終わったよ!」とはにかむ笑顔が可愛らしかった。

はる陽。
ミアナシメント

 トリはミアナシメント。この日はオープニングアクトにも登場。ギター弾き語りで愛しさと切なさを紡いだ「miss you」と、悲痛な訴えや哀切な心をスパニッシュ風のラテン調で描出した「Don't deceive me」の2曲で、ナイーヴな心持ちを歌った。ブラジリアンらしい弾力性のあるグルーヴやリズムがミアナシメントの一つの武器でもあるが、そのなかで見せるささやかな愛しさのような機微を綴った弾き語りも、有効なアクセントになっている。「Don't deceive me」の切実が迫ってくるファルセットなどは、非常に艶やかで、シンプルな弾き語りであっても感情を揺らすに充分なものを持ち合わせていた。

 オープニングアクトのショートジャケットとデニム地のミニスカートという白を基調としたスタイリングからガラッと変わり、本編では山吹色のクロックトップに黒のキャミソールとパンツを合わせた、カジュアルな大人っぽさを感じさせる配色の衣装に。音源をバックに「Lonely Night」から「Snow White」まで7曲を披露。「Lonely Night」はしっとりと、「Night」ではさらに深い夜のホットなパッションを、熱度の異なる色香で紡いでいく。

 MC明けにはミアナシメントの華やかさが咲く軽快なポップ「rhythm」から、募る切なさをミラーボールの下で踊って消し去ろうとする「forget」、推進力あるビートに乗せてラップ調の歌唱を紡ぐセンチメンタルなグルーヴ・ダンサー「Dream」と、毛色の違うさまざまな表情を持つ楽曲を“ミアナシメント的幕の内弁当”のごとく散りばめていった。

ミアナシメント

 「Dream」からシームレスにイーヴンキックのハウス・ダンサー「Don't stop the party」へを投下して、本イヴェント〈Friday Night〉のコンセプトの一つでもある“すべて忘れて踊り明かすの!”というフレーズよろしく、さらにダンサブルにフロアのヴォルテージを上昇させると、クラップにも押されてより楽しげに踊り歌い、魅了していく。最近は11月に入っても驚くほど温かった日が続いたが、ようやく冬を実感し始める季節になったということから、スノーシーズンの幕開けに相応しい「Snow White」をイヴェントのクロージング・トラックにセレクト。先程までの心拍数高めのホットなステージをゆっくりと冷ましていくように、哀愁も漂う美しいメロディと情感溢れるヴォーカルワークで、金曜の夜の喧騒をアダルトなムードへと移ろわせていった。

 個人的には5月の新宿レッドクロスでのイヴェント(Mia Nascimento @Red Cloth〈Meta Lyric〉(20230522))以来のミアナシメントのステージ。1月の青山・月見ル君想フでのワンマンライヴ(Mia Nascimento @月見ル君想フ(20230122))以降の新曲などの目立ったトピックはなかったが、当時ニューEPとして発表した『Novo comeco』収録の「Lonely Night」「rhythm」「Dream」「Don't stop the party」といった楽曲は、歌の場数を重ねたこともあって、安定性と力みのない機微豊かな表現力を湛えていた。

 そのミアナシメントは、来年1月20日に生誕ワンマンライヴを今回同様、下北沢・モナレコードで開催。今年1月の青山・月見ル君想フでのワンマンライヴよりも規模は小さくなるが、よりアットホームに息が感じられる近さでのスペシャルなステージになりそう。当日は新曲発表のサプライズもあるか。あと2ヵ月後にさらなる変化と成長が窺えるか、期待したい。

◇◇◇
<SET LIST>
≪OPENING ACT≫
01 Miss you(sing with a guitar)
02 Don't deceive me(sing with a guitar)
≪しあ≫

≪matsudamiki≫

≪はる陽。≫

≪Mia Nascimento MAIN STAGE≫
01 Lonely Night
02 Night
03 rhythm
04 forget
05 Dream
06 Don't stop the party
07 Snow White

<MEMBER>
Mia Nascimento / ミアナシメント(vo,g)

しあ(vo)
matsudamiki(vo)
はる陽。(vo,g)

◇◇◇
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Mia Nascimento pre. 〈FRIDAY NIGHT〉@mona records(20231117)(本記事)

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