芥川龍之介『猿蟹合戦』を読む。考察、感想

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 こんにちは、夜半侍士です。今回は芥川龍之介『猿蟹合戦』です。
出典は、芥川龍之介 猿蟹合戦 (aozora.gr.jp) さん。

蟹の握り飯を奪った猿はとうとう蟹に仇を取られた。蟹は臼、蜂、卵と共に、怨敵の猿を殺したのである。――その話はいまさらしないでも好い。ただ猿を仕止めた後のち、蟹を始め同志のものはどう云う運命に逢着したか、それを話すことは必要である。なぜと云えばお伽噺は全然このことは話していない。

 
 文豪の二次創作だ。それもおとぎ話の。いいですよね、おとぎ話モチーフ。おとぎ話がモチーフの能力バトルとかファンタジーとか大好き。

いや、話していないどころか、あたかも蟹は穴の中に、臼は台所の土間の隅に、蜂は軒先の蜂の巣に、卵は籾殻の箱の中に、太平無事な生涯でも送ったかのように装っている。

 原作は「めでたし めでたし」で終わっている。が、はたしてそうなのか?というお話。芥川、badendで続ける派だな?

 というか卵なんですね。私が知っているやつだと牛の糞だった。演劇とかやるときも、牛の糞はかわいそうだろうとずっと思っていた。

しかしそれは偽である。彼等は仇を取った後、警官の捕縛するところとなり、ことごとく監獄に投ぜられた。しかも裁判を重ねた結果、主犯蟹は死刑になり、臼、蜂、卵等の共犯は無期徒刑の宣告を受けたのである。
お伽噺のみしか知らない読者はこう云う彼等の運命に、怪訝の念を持つかも知れない。が、これは事実である。寸毫も疑いのない事実である。

 な、な、な、なんだって~~~~~。

 でも言われてみれば人?殺しなんだから、死刑になってもおかしくはないか。共犯者は無期懲役。うんまあ…でも情状酌量の余地があってもいいじゃない、確か親蟹殺されてるでしょ。

 蟹は蟹自身の言によれば、握り飯と柿と交換した。が、猿は熟柿を与えず、青柿ばかり与えたのみか、蟹に傷害を加えるように、さんざんその柿を投げつけたと云う。しかし蟹は猿との間あいだに、一通の証書も取り換わしていない。よしまたそれは不問に附しても、握り飯と柿と交換したと云い、熟柿とは特に断ことわっていない。

 …クソリプ?というより理屈屋?…というより、現実の厳しさ?証書主義ってやつ?

 なんにせよ、書面交わしてないよね?熟した柿って言ってないよね?ってことらしい。


最後に青柿を投げつけられたと云うのも、猿に悪意があったかどうか、その辺へんの証拠は不十分である。

 え~。絵本の中じゃ明らかに悪意あったけどな~悪い顔してたし。でもそうか、私刑を行ってしまっていて、猿も死んでしまっているから、猿の悪意はもう公的に証明できないんだな。

だから蟹の弁護に立った、雄弁の名の高い某弁護士も、裁判官の同情を乞うよりほかに、策の出づるところを知らなかったらしい。その弁護士は気の毒そうに、蟹の泡を拭ってやりながら、「あきらめ給え」と云ったそうである。もっともこの「あきらめ給え」は、死刑の宣告を下されたことをあきらめ給えと云ったのだか、弁護士に大金をとられたことをあきらめ給えと云ったのだか、それは誰にも決定出来ない。

 弁護士も匙を投げちゃった。しかしシンプル。しかも金だけはもらっていくという。悲しいね。悲しいよ。衝動的な行動に、世の中はかくも冷たい。


 その上新聞雑誌の輿論も、蟹に同情を寄せたものはほとんど一つもなかったようである。蟹の猿を殺したのは私憤の結果にほかならない。しかもその私憤たるや、己の無知と軽卒とから猿に利益を占められたのを忌々しがっただけではないか? 優勝劣敗の世の中にこう云う私憤を洩らすとすれば、愚者にあらずんば狂者である。――と云う非難が多かったらしい。

 …Twitter?芥川、大正時代にTwitterやってた?まさにTwitterでの意見って感じ。逆に言えば何年経とうとも、世論とはこういうものなのかもしれない。

 
 優勝劣敗。優れたものが勝ち、劣ったものは敗れる。哀しきかな現実はいつもこうで。でもじゃあ劣っているものはどうしたらいいんでしょうね。そこしか道がなかったかもしれないのに、その道を歩いたら愚者か、狂者か。

 
 じゃあ、優れたものの人生を見せるのをやめてくれよ。配られた手札がそもそも違って、劣ってしまった人生が、それでもなんとか肯定しようとしても、真横で優れたものの人生を見せつけられていたら、自身の人生さえ肯定できないじゃないか。

 
 …すいません、感情出ちゃった。なんにせよ、配られたカードが違って、結果の最大値が異なるのに、結果だけ見られるのは悲しいことですね。

現に商業会議所会頭某男爵のごときは大体上のような意見と共に、蟹の猿を殺したのも多少は流行の危険思想にかぶれたのであろうと論断した。そのせいか蟹の仇打以来、某男爵は壮士のほかにも、ブルドッグを十頭飼ったそうである。

 金持ちは金を持っているので、不測の事態にも保険が張れる。強者は失うことの予防もできる。

かつまた蟹の仇打ちはいわゆる識者の間あいだにも、一向好評を博さなかった。大学教授某博士は倫理学上の見地から、蟹の猿を殺したのは復讐の意志に出でたものである、復讐は善と称し難いと云った。それから社会主義の某首領は蟹は柿とか握り飯とか云う私有財産を難有ありがたがっていたから、臼や蜂や卵なども反動的思想を持っていたのであろう、事によると尻押をしたのは国粋会かも知れないと云った。それから某宗の管長某師は蟹は仏慈悲を知らなかったらしい、たとい青柿を投げつけられたとしても、仏慈悲を知っていさえすれば、猿の所業を憎む代りに、反ってそれを憐んだであろう。ああ、思えば一度でも好いいから、わたしの説教を聴かせたかったと云った。

 やっぱTwitterだなこれ。実業家という、経済的な面の対比として、識者からの意見も描写されていく。識者だから、みんな、自分のテリトリーを引用して好きかっていう。原因を、自分のテリトリー内に持っていく。

 
 で、原因を推測したとして、それが何になるんでしょうね。対策をとれて、結果が出ないとなんの意味もない。

それから――また各方面にいろいろ批評する名士はあったが、いずれも蟹の仇打ちには不賛成の声ばかりだった。そう云う中にたった一人、蟹のために気を吐いたのは酒豪兼詩人の某代議士である。代議士は蟹の仇打ちは武士道の精神と一致すると云った。しかしこんな時代遅れの議論は誰の耳にも止とまるはずはない。のみならず新聞のゴシップによると、その代議士は数年以前、動物園を見物中、猿に尿をかけられたことを遺恨に思っていたそうである。

 
 なんかちょっと味方が出てくるのもTwitter…やはり世論はTwitterなんじゃないか?

 
 味方としてだされてくるけど、「酒豪兼詩人」でだいぶ格を落とされてますね、そのうえで、補強理論も時代遅れだとばっさり切られ、最後には猿に対する私怨まで暴露。とにかく世論的には蟹のやったことは許されることではない。

お伽噺しか知らない読者は、悲しい蟹の運命に同情の涙を落すかも知れない。しかし蟹の死は当然である。それを気の毒に思いなどするのは、婦女童幼のセンティメンタリズムに過ぎない。天下は蟹の死を是なりとした。現に死刑の行われた夜よ、判事、検事、弁護士、看守、死刑執行人、教誨師等は四十八時間熟睡したそうである。その上皆夢の中に、天国の門を見たそうである。天国は彼等の話によると、封建時代の城に似たデパアトメント・ストアらしい。

 
 蟹の死を悔やむものは、蟹の死にかかわったものに誰もいない。熟睡するし、天国の夢まで見るし、その詳細を覚えている余裕まである。悲しむのは婦女童幼のセンティメンタリズムに過ぎないんだってさ。ちょっと差別的ですねここ。


ついでに蟹の死んだ後のち、蟹の家庭はどうしたか、それも少し書いて置きたい。蟹の妻は売笑婦になった。なった動機は貧困のためか、彼女自身の性情のためか、どちらか未いまだに判然しない。

 
…蟹の犯罪者死別未亡人売笑婦…!?!?!?!?!?!?しかも貧困のためだけとは限らず性欲のための可能性がある!?!?!?!?!?!?!一気にレベル高くなったな。なんかこう…そういう特殊性癖の人が一気に寄ってきそう。蟹の犯罪者死別未亡人欲求不満売笑婦にどこまで刺さるのかわからないけど。

蟹の長男は父の没後、新聞雑誌の用語を使うと、「飜然ほんぜんと心を改めた。」今は何でもある株屋の番頭か何かしていると云う。この蟹はある時自分の穴へ、同類の肉を食うために、怪我をした仲間を引きずりこんだ。クロポトキンが相互扶助論の中に、蟹も同類を劬(いたわ)ると云う実例を引いたのはこの蟹である。

 長男は心を改めました、と。『同類の肉を食うために』って、なかなかえぐい気がするんだけど、文脈的にマイナスの意味じゃなさそうだし、なんか違う解釈があるんだろうな。

 次男の蟹は小説家になった。勿論もちろん小説家のことだから、女に惚れるほかは何もしない。ただ父蟹の一生を例に、善は悪の異名であるなどと、好加減な皮肉を並べている。

 芥川自身も小説家だから、自虐が入ってますね。女に惚れるほかはなにもしないし、いい加減な皮肉しか言わない。


三男の蟹は愚物だったから、蟹よりほかのものになれなかった。それが横這いに歩いていると、握り飯が一つ落ちていた。握り飯は彼の好物だった。彼は大きい鋏の先にこの獲物を拾い上げた。すると高い柿の木の梢に虱を取っていた猿が一匹、――その先は話す必要はあるまい。

 哀しきかな、歴史は繰り返す…なんどでも。そういうオチですね。


とにかく猿と戦ったが最後、蟹は必ず天下のために殺されることだけは事実である。語を天下の読者に寄す。君たちもたいてい蟹なんですよ。

 違った。最後の最後に読者を突いてくるオチだった。メタ発言やめてください!!!!やっぱり最後までTwitterくさい話だったなあ。

 以上です、ご閲覧ありがとうございました!次は何をよもうかな。


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