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夢走

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2020年3月の記事一覧

⑬再結〜夢走〜

⑬再結〜夢走〜

放課後、ヒロはダイを部室に呼び寄せた。

ヒロとタカと僕はダイを囲むように座った。
何も知らないダイは少し困惑した顔をしていた。この年頃に部室に呼び出されると良からぬ出来事が起こる事もあるからだ。

しかし、僕たちの想いはそれとは別に裏腹な物だと言うことを打ち明けた。

ヒロが口火を切る。

「リレーを組みたい。」

ダイは意外な表情を浮かべた。

「リレー?」

「そう、今度の大会はそれぞれ記録

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⑫成長〜夢走〜

⑫成長〜夢走〜

中学3年生になった。

ヒロは小柄で瞬発力もあるので、専門は100mと200m。彼のスタートダッシュは天性の才能かもしれない。

タカは元柔道部でガッシリした体型だが、ここ何ヶ月かの陸上生活で走力も磨かれつつあった。

僕の肉離れもすっかり完治し、成長期のおかげで身長も伸びて、一回り身体が大きくなっていた。

春になると、小規模だが試合が開かれてくる。記録会から始まり、夏には地区大会、県大会、四国

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⑪回復〜夢走〜

⑪回復〜夢走〜

僕の肉離れは、徐々に治っていった。

ランニングもジョグ程度だが出来るようにもなってきた。

砲丸投げもこれまでの片足投げから徐々に両足に切り替えていった。

しかし、こういう時に必ずぶつかる壁がある。スランプだ。

万全な状態と回復基調にある体のバランス感覚が違う。

砲丸を突き出すタイミングも失いつつある。ひどい時は手からすっぽ抜ける。

あれ…?

うまく投げていた時の感覚は頭では覚えている

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⑩治療〜夢走〜

⑩治療〜夢走〜

気付けば全身が砂場に埋もれていた。

立ち上がろうとすると、左の太腿裏に激痛が走った。ハムストリングスだ。

くっ…

すぐに本多先生が駆け寄って来た。

「おい、どうした?大丈夫か?」

「は、はい…」

肩に担がれてようやく立ち上がれた。

歩こうにも左足に力が入らない。

本多先生が担架を呼んですぐに医務室に運ばれた。

担当の先生が左足を縮ませたり伸ばしたりしてみる。

「立ってみて」

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⑨不時着〜夢走〜

⑨不時着〜夢走〜

ドスン!!

見事な放物線を描いた砲丸はおよそ10mに届きそうなラインに着地した。

「9m59cm!!」

初めての公式記録。

思わず審判席にいる本多先生を見た。

先生はグッと強く拳を握った。

「その調子だ」

僕も強くうなずいた。

「やりました!」

自分の中のアドレナリンが出まくっているのを感じた。

よし!

各選手に与えられたチャンスは3回。皆、順番に回数をこなしていく。

ドス

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⑧緊張〜夢走〜

⑧緊張〜夢走〜

早朝、目が覚める。昨夜からロクに熟睡出来ていない。リュックにユニホームとスパイクとお弁当とウォークマンを入れ、試合会場に向かう。

繰り返し頭でイメトレを重ねる。良いイメージを植え付ける。きっと上手くいく。

会場に着くと、他校の生徒達がテントを張り、横断幕を垂らし、熱気に包まれている。

僕たちもスタンドの芝生エリアに小さなテントを張る。僅か7人しかいないグループは弱小であるということを露呈させ

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⑦400m〜夢走〜

⑦400m〜夢走〜

ストライドを広く、ラスト100mは手を振り腰が落ちないように高くする。

「55秒56秒…」

はぁはぁ、、

55秒の壁が高い。

どうしてもラスト100mからの失速に耐えられない。

「2分休憩してラスト1本!」

校庭には僕とヒロと、本多先生と下級生2人。上級生はグラウンドの端で砲丸投げを練習している。

ほぼ遊びみたいな練習だ。

クソ…

スタミナが底をついてる。

ラスト1本は何として

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⑥跳躍〜夢走〜

⑥跳躍〜夢走〜

 「いち、に、さん!もっと早く!最後の3歩は駆け上がるように!いちにさん!」
走り幅跳びは踏み切り板までの歩数が決まっていて、最後の3歩でタイミングを合わせて、板までの帳尻を合わせる。
 
踏み切る瞬間は板との反射を利用し、身体を浮かせて、空中で漕ぐようにして着地までの距離を稼ぐ。

 砂に着地するのは足先から行くが、お尻が先に着くので、瞬間にサッと腰を抜いてなるべく前に体を持って行って倒れる。

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⑤鉄玉〜夢走〜

⑤鉄玉〜夢走〜

「そこで、押す!押し出せ!」
ゲキが飛ぶ。三種競技の1つ砲丸投げ。僕は本多先生の指導の下、新たな種目にチャレンジしていた。
今まで触ったこともない鉄の玉。重さは4キロ。

僕は来る日も来る日も、この玉と闘っていた。

「もう一回!」

まず、後ろ向きに構えて、上体はやや下に傾け、勢いよく振り返るのと同時に斜め上に砲丸を突き出す。

砲丸投げという名前のついた種目だが、砲丸を押し出す、突き出す、とい

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④三種競技〜夢走〜

④三種競技〜夢走〜

 「よーい、スタート!」
あれから、僕たちの陸上部は本多先生の指導の甲斐あってか、とても良い空気感の中で練習が出来ていた。噂を聞きつけて、ほぼ幽霊部員であった上級生も頻繁に顔を出すようになった。

「よーし、今日はタイム測るよ。400m3本!」
と、本多先生の指揮の下、タイムトライアルが始まった。

 短距離の選手も中長距離の選手もこの400mタイムトライアルは1番キツイ練習だ。

 インターバル

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③胸裂〜夢走〜

③胸裂〜夢走〜

 部活が終わると僕は決まって行く場所があった。自転車置き場だ。僕の学校までの交通手段は徒歩だ。では、なぜ?ダイを自転車置き場まで送るため?…いや、そうじゃない。リエを待つためだ。
 1学年下で、バスケ部に所属しているリエは、先月の文化祭で、友人で同級生のバスケ部員の紹介からなんとなく話すようになった。いや、正直に言おう。僕の一目惚れである。僕の気持ちを知っていたお節介なバスケ部の友達が、文化祭を利

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②出会い〜夢走〜

②出会い〜夢走〜

 ダイとヒロと僕は小学生の頃からの腐れ縁で、小3から始めたクラブ活動の延長で中学も陸上部に入った。

 ダイは細身で中背で淡白な性格。たまにキレる。ヒロはひょうきんで、背の高さは前から数えた方が早い。僕は背がデカく、自分で言うのも何だが性格は控えめ。3人とも実は末っ子なのだが、やたらと気が合う。リーダー気質な兄貴風を吹かすキャラがいないのがお互いに心地良いのだろう。

 僕はついさっき校舎に入って

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①気配〜夢走〜

①気配〜夢走〜

 中学2年生の僕は平々凡々な学生生活を送っていた。小学生の頃に始めたクラブ活動の延長で陸上部に所属していたが、これといって大きな成果を上げる事もなく、四国は香川県の田舎町で過ごす他の学生と何ら変わりのない毎日だった。

 その日も朝8時のチャイムが鳴る前に登校して午後3時まで授業を受け、放課後になると仲間と部室に行き、他愛もない日常話しに華を咲かせ、だらだらと部室にあるマットやスターティングブロッ

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