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夢走

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⑱突然の別れ〜夢走〜

⑱突然の別れ〜夢走〜

記録会が終わった。

僕たちは個人種目での健闘を讃えつつ、夏にある地方予選大会へと調整をしていた。

まずは、県大会に出場し結果を残すこと。その次は四国大会、全国大会へとコマを進めることが目標だ。

といっても、県大会以上を望むのは夢に近い。

県大会へのエントリー種目は、ヒロとダイが100mと200m、タカと僕が三種競技。

事実上、僕たちにとってこれが「中学陸上生活最後」の試合になるだろう。

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⑰絆〜夢走〜

⑰絆〜夢走〜

リレーの練習というのは、特にバトンを渡す練習に重きをおく必要がある。

本多先生の指導の下、走者が決まった。

第一走者ヒロ、第二走者ダイ、第三走者タカ、第四走者は僕だった。

練習方法は、各走者のスタート地点から適当に足幅で距離を測り、そこに前走者が到達すると自分もダッシュする。

前走者の「はい!」という合図で次走者は後ろに手を出しバトンを受け取り、次の走者へと運ぶ。

これをお互いのスピード

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⑯過熱〜夢走〜

⑯過熱〜夢走〜

400mは一般的には陸上競技の中でも1番キツイ種目だと言われている。

花形の100mに比べると一見地味に見えるのだが、ただぶっきらぼうに全速力で駆け抜けるだけではダメで、本当に微妙な力の配分を計算しながら走らなければならない。

先人たちの例えで、「400mは全力で走っても、力を抜いて走っても疲れ具合は同じだ」という格言にも似た迷言がある。

つまり、それくらい微妙な力の配分を考えなければ成功出

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⑮入賞〜夢走〜

⑮入賞〜夢走〜

ヒロの100m準決勝。
得意のスタートダッシュからその後どこまで逃げられるかがレースの運命を分ける。

僕たちはバックストレート側に設営した控えのテントからその様子を見守っていた。

ホームストレートまでは距離があるので、こちらの声は届かないかもしれないが、後輩たちはメガホンを用意してスターターの合図を待つ。

スターターがピストルを構える。

「いちについてー」

「よーい…」

一瞬の静寂。

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⑭通過〜夢走〜

⑭通過〜夢走〜

春の記録会。
僕たちにとっては中学陸上生活、最後の年の始まり。

何度か大会にも顔を出して来たので、他校の知り合いも増えてきた。

大会独特の緊張感も自分たちにとって心地よくなっていて、もはや誰もこの空気にのまれるヤツはいなくなった。

ヒロとダイは100mと200mでエントリーし、タカは砲丸投げ、僕は400mと走り幅跳び、そして最後に全員で4×100mリレーにエントリーした。

午前のサブグラン

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⑬再結〜夢走〜

⑬再結〜夢走〜

放課後、ヒロはダイを部室に呼び寄せた。

ヒロとタカと僕はダイを囲むように座った。
何も知らないダイは少し困惑した顔をしていた。この年頃に部室に呼び出されると良からぬ出来事が起こる事もあるからだ。

しかし、僕たちの想いはそれとは別に裏腹な物だと言うことを打ち明けた。

ヒロが口火を切る。

「リレーを組みたい。」

ダイは意外な表情を浮かべた。

「リレー?」

「そう、今度の大会はそれぞれ記録

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⑫成長〜夢走〜

⑫成長〜夢走〜

中学3年生になった。

ヒロは小柄で瞬発力もあるので、専門は100mと200m。彼のスタートダッシュは天性の才能かもしれない。

タカは元柔道部でガッシリした体型だが、ここ何ヶ月かの陸上生活で走力も磨かれつつあった。

僕の肉離れもすっかり完治し、成長期のおかげで身長も伸びて、一回り身体が大きくなっていた。

春になると、小規模だが試合が開かれてくる。記録会から始まり、夏には地区大会、県大会、四国

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⑪回復〜夢走〜

⑪回復〜夢走〜

僕の肉離れは、徐々に治っていった。

ランニングもジョグ程度だが出来るようにもなってきた。

砲丸投げもこれまでの片足投げから徐々に両足に切り替えていった。

しかし、こういう時に必ずぶつかる壁がある。スランプだ。

万全な状態と回復基調にある体のバランス感覚が違う。

砲丸を突き出すタイミングも失いつつある。ひどい時は手からすっぽ抜ける。

あれ…?

うまく投げていた時の感覚は頭では覚えている

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⑩治療〜夢走〜

⑩治療〜夢走〜

気付けば全身が砂場に埋もれていた。

立ち上がろうとすると、左の太腿裏に激痛が走った。ハムストリングスだ。

くっ…

すぐに本多先生が駆け寄って来た。

「おい、どうした?大丈夫か?」

「は、はい…」

肩に担がれてようやく立ち上がれた。

歩こうにも左足に力が入らない。

本多先生が担架を呼んですぐに医務室に運ばれた。

担当の先生が左足を縮ませたり伸ばしたりしてみる。

「立ってみて」

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⑨不時着〜夢走〜

⑨不時着〜夢走〜

ドスン!!

見事な放物線を描いた砲丸はおよそ10mに届きそうなラインに着地した。

「9m59cm!!」

初めての公式記録。

思わず審判席にいる本多先生を見た。

先生はグッと強く拳を握った。

「その調子だ」

僕も強くうなずいた。

「やりました!」

自分の中のアドレナリンが出まくっているのを感じた。

よし!

各選手に与えられたチャンスは3回。皆、順番に回数をこなしていく。

ドス

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⑧緊張〜夢走〜

⑧緊張〜夢走〜

早朝、目が覚める。昨夜からロクに熟睡出来ていない。リュックにユニホームとスパイクとお弁当とウォークマンを入れ、試合会場に向かう。

繰り返し頭でイメトレを重ねる。良いイメージを植え付ける。きっと上手くいく。

会場に着くと、他校の生徒達がテントを張り、横断幕を垂らし、熱気に包まれている。

僕たちもスタンドの芝生エリアに小さなテントを張る。僅か7人しかいないグループは弱小であるということを露呈させ

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⑦400m〜夢走〜

⑦400m〜夢走〜

ストライドを広く、ラスト100mは手を振り腰が落ちないように高くする。

「55秒56秒…」

はぁはぁ、、

55秒の壁が高い。

どうしてもラスト100mからの失速に耐えられない。

「2分休憩してラスト1本!」

校庭には僕とヒロと、本多先生と下級生2人。上級生はグラウンドの端で砲丸投げを練習している。

ほぼ遊びみたいな練習だ。

クソ…

スタミナが底をついてる。

ラスト1本は何として

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⑥跳躍〜夢走〜

⑥跳躍〜夢走〜

 「いち、に、さん!もっと早く!最後の3歩は駆け上がるように!いちにさん!」
走り幅跳びは踏み切り板までの歩数が決まっていて、最後の3歩でタイミングを合わせて、板までの帳尻を合わせる。
 
踏み切る瞬間は板との反射を利用し、身体を浮かせて、空中で漕ぐようにして着地までの距離を稼ぐ。

 砂に着地するのは足先から行くが、お尻が先に着くので、瞬間にサッと腰を抜いてなるべく前に体を持って行って倒れる。

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⑤鉄玉〜夢走〜

⑤鉄玉〜夢走〜

「そこで、押す!押し出せ!」
ゲキが飛ぶ。三種競技の1つ砲丸投げ。僕は本多先生の指導の下、新たな種目にチャレンジしていた。
今まで触ったこともない鉄の玉。重さは4キロ。

僕は来る日も来る日も、この玉と闘っていた。

「もう一回!」

まず、後ろ向きに構えて、上体はやや下に傾け、勢いよく振り返るのと同時に斜め上に砲丸を突き出す。

砲丸投げという名前のついた種目だが、砲丸を押し出す、突き出す、とい

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