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⑩治療〜夢走〜

気付けば全身が砂場に埋もれていた。

立ち上がろうとすると、左の太腿裏に激痛が走った。ハムストリングスだ。

くっ…

すぐに本多先生が駆け寄って来た。

「おい、どうした?大丈夫か?」

「は、はい…」

肩に担がれてようやく立ち上がれた。

歩こうにも左足に力が入らない。

本多先生が担架を呼んですぐに医務室に運ばれた。

担当の先生が左足を縮ませたり伸ばしたりしてみる。

「立ってみて」

と言われて自力で立つが、力が入らず膝が曲がって、右足だけでしか立つことが出来ない。

「うーん、肉離れだね。腫れてはいないからそこまで重症ではないように見えますけど。」

アイシングしながら左太腿にテーピングを巻く。少し痛みは無くなったが、とても走れる状況ではない。

「このまま棄権も出来るけど。どうする?と言ってもこの状態じゃ…」 

過酷な練習を積み重ねて来たのは先生も一緒だ。2人は言葉に詰まったが、

「すいません、棄権させてください。すいません。」

と、僕は本多先生に言った。

「分かった。じゃあ、伝えてくるね。」

先生が本部に向かう姿を見送って、僕は子供のように泣いた。

それからケガが回復するまでの間もトレーニングを休む事はなかった。医者からは2週間の絶対安静を命じられていたが、上体は元気だったので、筋トレや片足だけで砲丸を投げたりと、出来る限りのことをやり続けた。

その時、陸上部に新しい部員が1人加わった。タカはもともと柔道部だったのだが、部員が1人だけになったので、ついに廃部になり陸上に流れてきた。走るのはそこまで速くないが、柔道部だったのでガタイが良い。

そのガタイを活かして、タカも砲丸投げをやる事になった。

僕とヒロで砲丸投げの基礎をタカに教えてやり、何度か投げさせてみた。

体重のあるタカは元々のポテンシャルで、軽々と砲丸を扱う事が出来た。これは、もしかしたら、もしかするかもしれないと、僕とヒロは感じていた。

3人で走れるようになったのは、僕の肉離れが治った2週間後だった。









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