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⑧緊張〜夢走〜
早朝、目が覚める。昨夜からロクに熟睡出来ていない。リュックにユニホームとスパイクとお弁当とウォークマンを入れ、試合会場に向かう。
繰り返し頭でイメトレを重ねる。良いイメージを植え付ける。きっと上手くいく。
会場に着くと、他校の生徒達がテントを張り、横断幕を垂らし、熱気に包まれている。
僕たちもスタンドの芝生エリアに小さなテントを張る。僅か7人しかいないグループは弱小であるということを露呈させているようなものだ。
三種競技は、種目が多いため朝から競技が始まる。まず午前中に砲丸投げ。昼に走り幅跳び。午後に400m。
なので着いて早々に、アップを始めなければならない。
サブグラウンドに向かうと他校の生徒達がすでにアップを各々に始めていた。
強豪校なんかは30人近く列をなして、ランニングをしている。どの選手も強そうだ。うちのメンバーとは顔つきも身体つきも全然違う。
ヒロが付き合ってくれて2人でアップを始める。
終始2人は言葉少なく他校の生徒の迫力に圧倒されながらランニングしていた。
空いてるスペースを見つけて準備体操しているところに、本多先生が来てくれた。
「おはよう。調子はどうだ?」
「まぁまぁ、です。」
あまりの緊張で自分の調子が良いのか悪いのか分からなかった。
「ま、初めての三種の試合だから練習の延長みたいな気分でいいからな。とりあえず公式記録を作るという事が大切なんだ。リラックスしてやれば良いからな。」
「はい。」
「先生は審判の仕事があるから審判席で見てるからな、大丈夫だよ。ははっ、緊張するなって。」
と、足早に会場に去っていった。
少し緊張が解れた気がした。
僕はヒロにサポートをお願いして砲丸サークルに行き、練習を始めた。
4キロの鉄の玉を完成されたフォームで次々と投げる人達を横目に、僕は自分なりに練習でやってきた事をひたすら反復した。
投げた玉をヒロはこちらに戻してくれる。その時彼なりに気付いた事をアドバイスしてくれた。
脇をもっとしめよう、とか、身体をもっと伸ばした方が良いとか、たまには僕をリラックスさせるために冗談も交えながら…
程なくして、アナウンスが流れた。
〝三種競技、砲丸投げの選手のみなさんは間もなく試合開始になりますので指定場所に集合してください〟
僕の緊張はさらに高まった。
いよいよだ。
「じゃあ、行ってくる」
「うん。がんばれよ。」
ヒロは笑顔で見送ってくれた。
僕は震える体をおさえつつ試合会場に向かった。
三種競技は競技人口が少ないとはいえ、この日は20人近くの選手がいた。
タフな競技なので、それに見合った選手ばかりだ。どの選手も強そうに見えた。
「お願いします!」と、各々気合いの入った声を出して、砲丸投げのサークルに入る。
ドスン!
10mラインを越える選手もいた。
すごい…
5、6人の投てきの後、ついに僕の番になった。
砲丸を持ちサークルに入る。
自分の心臓の音が聞こえる。もう一度、練習してきたことを頭の中で思い返す。
後ろ向きに構えて、上体をやや下に…
ふーっと息を吐き、ゆっくりと構えた。
一瞬顔を上げる。その時、向こうで審判席に座る本多先生と目が合った。
小さく何かを伝えようとしている。
こちらに向かって腕を伸ばすしぐさをしていた。
「…押せ、押すんだ。」
と、突き出す仕草をしてみせる。
僕はコクッとうなずき、再び視線をゆっくり下にする。
もう一度。ふーっと息を吐き集中した。
行ける。よし。
グッと足に力を入れ、勢いよく振り返るのと同時に指先まで神経を集中し、空高く砲丸を突き出した!!
いっけぇぇぇー!!
見事に空中に放たれた鉄球は、これまで見た事のない放物線を描いて飛んだ!!
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