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母の記憶を訪ねて① 〜Pentax 6×7と、父と神戸〜

2022年9月15日。母が他界した。
長年、「他系統筋萎縮症」という病を患っていた母は、晩年、身体の自由もきかずに施設で寝たきりの人生であった。
訪ねていっても、筋肉の衰えた母は声を発することもできず、話すこともままならなかった。意識もぼんやりしていて、僕を見ても自分の息子と分かってくれているのかどうか、こちらが不安になるような様子だった。

イラストレーターである兄は、横たわる母の隣で絵を描き、その絵を母のベッドの隣に飾った。

自分にできることはないだろうか。
そう思って、母の故郷である神戸の写真を撮ってこようと決めた。
「じゃあ俺が案内してやろう」
思いがけず父がそう言って、男二人での旅が始まった。

母の亡くなる4ヶ月前。2022年4月のことである。

東京から新幹線で新神戸へ
カメラはPentax 6×7を選んだ
父とは新神戸駅で待ち合わせた

これは終わってしまった旅の記録だ。
故郷の写真を見せたら母が何か反応を示してくれるかも、ひとときでも、元気になってくれるかも。そう願って旅に出たが、叶わぬままに母は亡くなった。
ただ、父と二人で神戸を歩いたあの時間が、自分には大切なものだったように思う。

だからここに記す。


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