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-モデルのポージングと人の所作-

皆さんこんにちは。「山と写真とカポエイラ」をテーマに書き始めたこのノートも3回目となりました。前回の終わりに次回はある写真について話していくと書いたのですが、予定を変更して「モデルのポージングと人の所作」についてお話ししたいと思います。

さて、僕はカポエイラというブラジルの伝統芸能を現在23年やっていて都内各所で教えています。カポエイラには様々な流派やスタイルがあり、様々な動き方があります。カポエイラについてはまた改めて詳しくお話しする機会を作りたいと思いますので、気になる方は下記HPをご覧ください。

で、そのカポエイラですが、派手な動きもあることで様々なメディアやエンターテインメント業界からお仕事を頂きます。そして今までに色々な方々と共演、また時には振り付けや演技指導などもさせて頂きました。嵐, EXILE,吉井和哉, 倖田來未, AKB48, BoA, SMAP, きゃりーぱみゅぱみゅ, DA PUMPなど、また爽健美茶やSONYのCM、NIKEやadidasファッションショーなどにも出演し、他にも数多くのタレントさんやモデルさんにもプライベートレッスンを行なってきました。その方々は何かしらに秀でており、運動神経はもとより、感の鋭さ、センスの良さをお持ちでした。(敬称略、順不同)

そして去年のことですが、大塚製薬さんのSOYJOYの広告のお仕事をさせて頂いた時の話なのですが、僕はカポエイラ監修、振り付け兼モデルとして依頼を受けていたので、制作サイドから真ん中の外国人モデルさんのポージングも頼まれていました。会うのは現場が初めてだったので撮影しながらの振り付けです。

Empty Mori Art Museum 

カポエイラは約400年ぐらいの歴史あると言われており、その動きはいくつもの型があります。巷で流行るダンスのように新しいステップや動きが世に出てくるようなことはあまりなく、昔からある動きや型を何年も練習するというある種、職人のようなものです。僕は昔から飽きっぽいんですよね。大概ある程度やれるようになると新しい刺激を求めて次のステップへ!みたいに他のものを探し始めちゃうんですよ。たまにやりたいことが見つからないという人がいますが、僕はやりたいことが多過ぎてお金と時間が足りないと思うくらい興味のあることがたくさんあります。 まあカポエイラだけはなぜか23年続いてるのですが、なぜでしょうね。そんな僕を引き止め続ける奥深い魅力があります。

SOYJOYさんの広告撮影の日に話を戻しましょう。外国人モデルさんにカポエイラの動きのポージングを振り付けたのですが、やはり難しいんですよね。まあそれはモデルさんが悪いとかではなくて当たり前なんです。足を上げるとか、膝を抱えるとかのポーズは片足になるわけでバランスが取れなくなるんですよ。よっぽど体感やバランス感覚、柔軟性がないといきなりパッと出来るものでもないし、出来ても足があまり上がらずカッコよくは写らない。じゃあ、足を上げるのが難しければ、手と腕を使った上半身のカポエイラの構えとかもやってみるんですが、これもなかなかしっくりこない。で、色々やってみた挙句、結局はこのように腕を組んで立つということに収まりました。周りは僕の生徒なのでさくっと出来ています。

普段撮影してても思うのですが、圧倒的に写ることに慣れていて自分の良さが分かっている表現力が豊かな人、撮られることに慣れてはいるけど動きや表情があまり変わらず表現の引き出しが少ない人、指示や明確なコンセプトがないと自分から動けない人など様々な人がいます。もちろん撮る側としては最初の人が一番撮りやすいのですが、全員がそうとは限らない。時にはこちらがポージングや表現の指示出しすることもあります。でも大概そんな時っていい絵は撮れないんですよね。

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ポージングや動きって人の日々の動きの流れから生まれてきたり、何回もやっているから体に染みついてくるわけでその場でパッと出来る人なんてほとんどいないし、出来る人はよっぽど何かしらに秀でた人達だけだと思うんです。まあ簡単な言葉で言ってしまえばセンス、そういった人達は感覚を掴むのが早いんですよね。僕のカポエイラの動き一つとっても、それは23年かけて作ってきた動きであり、今まで培ってきた経験や感情が体の中で流れているからこそ、指先や足先一つに意識がいきます。歌舞伎役者やバレエダンサー、俳優の表情ひとつとっても同じことが言えると思うんです。表現することを生業としている人は長く積み重ねをしてきている。だからこそ、その所作が美しい。

人は歩くことに慣れてはいるけど、歩くことを見せるのは慣れてはいません。だからこそ服を見せながらランウェイを歩くプロのモデルさんがいる。人は毎日誰かしらと話していますが、それを沢山の人に聞かせることに慣れていません。だからこそMCや落語家、噺家さんがいる。

動画と違って止まった状態の自分を魅せることって本当に難しいと思います。ただそこには必ず内なる感情の表現が必要なのではないかと思います。自分がどう表現したいのか、自分がそこにどう写りたいのか。所作は外見の美しさや行動から出てくるだけのものではなく、その人が何を考え、どんな言葉を遣い、何を美徳としているかなど、そこに自分の確固たる考えと感情があることによりそれがエネルギーとなって内から外へ、その人の雰囲気や美しい所作を作り出していくのではないでしょうか。

これって撮る側にも同じことが言えるのかもしれませんね。自分が何を撮りたいのか、カメラを通して自分がどう表現したいのか。何百回も何千回も何万回もシャッターを切るからこそ、スッとカメラを構えることができるし、大事な一瞬を逃さず切り取ることができる。それもカメラマンの美しい一連の所作ですね。

モデルさんも写真家もどれだけ細部に拘れるのかが大事なのではないでしょうか。指先や目に宿す感情、はたまた髪の毛1本1本までどのように神経を尖らせ、それを日々所作という一連の動きまで持っていくのか。それとも単にポージングで終わるのか。自然な動きを自然な動きのように魅せる。これある意味、何事においても真理なのではないでしょうか。僕自身カポエイラではこれを力みなく何も考えずに出来ていますが、写真においてはまだまだ出来ていません。写真を撮る上での所作がどんなものなのか。撮り手としてこれからもそれを追求していければと思います。

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フリーランスフォトグラファー 石橋 純

東京を拠点に世界中を飛び回り、海外に行く度に様々な国や地域の自然に触れ、その美しさをカメラに収めていくことに喜びを感じ、写真家を志す。
海外の自然から改めて日本の自然の美しさに気付かされ、登山家としても活動。Canon Image Gateway写真展 [極楽・風景時間]では数ある風景写真の中から10人のトリを飾る。現在、写真とカメラのWEBマガジン ヒーコにて「登山と写真」について執筆中。被写体は自然などの風景はもとより、 ポートレートやストリートスナップ、 アート写真など幅広いジャンルを独自の感性で撮影するフォトグラファーである。
また、ユネスコの無形文化遺産であるブラジルの伝統芸能「カポエイラ」を23年学び、Contra Mestre (副師範)の位を持つ。15年以上を子供から大人まで教え、TVやCM、アーティストのMVや広告などでカポエイラの監修や指導、そして自身もパフォーマー兼モデルとして活動する。

After taking up hiking and realizing how magnificent nature is in Japan, Tokyo-based photographer, Jun, enjoys capturing its beauty through photographs in his home country and abroad. Besides nature, his work covers a wide range of genres such as landscape, portrait, artwork, and street photography.

In addition, for more than two decades, he has been a practitioner of Capoeira, an Afro-Brazilian martial art recognized as a UNESCO Intangible Cultural Heritage of Humanity, and has risen to the rank of Contra Mestre.



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