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激動の一年の振り返り③ 国家安全保障戦略の見直し

(この記事は、「激動の一年の振り返り①」及び「同②」に続く内容です。①から続けてお読みいただくことをお勧めします)

2.国家安全保障戦略の見直し

(1)今年生まれた新たな状況と認識

・ロシアとウクライナ、中国と台湾との類似性
ロシアとウクライナの構図は、中国と台湾との構図とかなり近いということが、よく指摘されています。
つまり、「同じ民族を欧米の傀儡政権による支配と弾圧から解放する」という侵攻のための口実が作られやすいということです。
こうした口実を根拠に侵攻を始めようとする国を、外交努力では思いとどまらせることはできなかったことは今回の教訓になっています。
また、国連安全保障理事会の常任理事国がこのような侵攻を行おうとする場合には、国連と安全保障理事会は全くの無力であることも、今回の大きな教訓でしょう。

・プーチン大統領と習近平主席の年齢などの類似性
また、露プーチン大統領と習近平主席との年齢などの類似性です。
つまり、プーチン大統領は2000年から大統領になり、2014年に62歳でクリミア半島に侵攻し併合、22年に69歳でウクライナ東部に侵攻しました。
これに対して習近平主席は2013年から国家主席、現在69歳で3期目の任期は2028年まで、その時には74歳になります。
国家の権力を掌握してから10年を超え、自分の寿命と歴史的な偉業作りを意識した時に、プーチン大統領がウクライナへの侵攻を急いだのではないかという指摘があります。
同様のことを習近平主席が考えた場合には、あと5年以内(希望的観測でもあと2期・10年以内)に台湾を併合する(そのためには武力行使を伴う)という懸念には十分な根拠があると言えます。

・それでもウクライナは10ヶ月以上持ち堪えた
当初、ロシアは2日で首都キーウを占領し、1週間で戦争を勝利で終結させる計画だったと言われています(日数については諸説あります)。
それだけの戦力と戦闘機を準備し、作戦を立てて侵攻を開始したことは確実だと思われますが、その「最初の一撃」で首都キーウを守り切ったことが、その後の反転攻勢につながりました。
その間には、ゼレンスキー大統領が先頭に立って国家としての「戦う意志」を示して国民的な結束に成功したことが大きな転換点になりました。
その後、ウクライナは積極的に各国に情報を発信し、日本を含む欧米主要国からの最新鋭の装備・武器等の提供を受けて、10ヶ月間、軍事大国ロシアと互角以上の戦いをしてきています。
それも全て、「最初の一撃」でキーウを守り切ったこと、つまり「最初の一撃」を耐えるだけの準備を事前にしていたことが出発点となっています。

・米ペロシ下院議長の台湾訪問とわが国EEZへの中国ミサイルの着弾
8月に米国のペロシ下院議長が台湾を訪問し、それに反発する中国が台湾周辺の6カ所の海域で軍事演習と称するデモンストレーションを行いました。
その過程で発射したミサイル5発が日本のEEZ(排他的経済水域)に着弾し、南西諸島での安全保障上の緊張が一気に高まりました。
これにより、故安倍元首相が再三言及していた「台湾有事は日本の有事」であることが改めて認識されました。

(2)来年以降への考察
上記のような新たな状況と認識のもとで、今後は、以下のような点で国家安全保障戦略の練り直しが必要になってくると考えられます。

・「戦争は侵攻開始前から始まっていた」
ウクライナでは、ロシアが侵攻を開始する約40日も前から、ロシアからとみられるサイバー攻撃が激化していたと言われています。
その目的は、主要なインフラや電力供給を停止させたり、金融や経済を混乱させたり、偽情報を流したりすることで、侵攻開始直後の「最初の一撃」の効果を最大化するためだったという指摘があります。
専門家の間ではよく言われていることに「サイバー空間には平時も有事もない」ということがあります。
侵攻が開始され「有事」と認定された時には、サイバー攻撃によって効果が最大化された「最初の一撃」によって、すでに取り返しがつかない損失と混乱が発生することが現実の課題として突きつけられました。
党・政府では、「サイバーセキュリティ戦略の見直し」が喫緊の課題として共有され、それが日本の弱点の一つであることも認識されて、すでに議論が始まっています。

・「台湾有事」に備える必要
米ペロシ議長の訪台を受けた中国の軍事演習は、改めて「台湾有事」と同時に日本の領空をミサイル・戦闘機が飛び交う戦争になることを浮き彫りにしました。
また、ロシアによるウクライナ侵略のシナリオなどを分析すると、中国が台湾侵攻する場合には、まず「尖閣諸島に中国の漁民が上陸」、「南西諸島に潜伏していた中国人が日本政府による弾圧を主張」し、次いで「中国政府が自国民を弾圧から解放するという口実で兵力を差し向ける」といったシナリオに備えるべきという主張が強まっています。
こうした事態に備えなければ、尖閣だけでなく南西諸島の一部もあっという間に中国に占有されてしまうという懸念が指摘されています。
もちろん、外交努力は最大限に払われるべきです。
ただ、外交だけでは独裁的な国家による侵攻が食い止められなかったことが、今回の大きな教訓となっています。
「外交なき防衛力は国際社会で尊敬されない」。
一方で、「防衛力なき外交では国民を守れない」。
これが最も大きな教訓なのではないでしょうか。

・「最新鋭の装備」の重要性
ウクライナが10ヶ月以上、ロシアの侵攻に耐え、それを押し返している背景に、欧米主要国から供与された最新鋭の装備の重要性が指摘されています。
ロシアからのミサイルの迎撃体制、無人機による反撃、衛星通信によるロシア軍の把握と情報共有など、圧倒的な戦力の差をはね返しているのは、装備の質の差とも言われています。
実際の演習などでも、ひと世代前の戦闘機は最新の戦闘機に何度戦っても勝てないという事実も指摘されています。
「台湾有事」の「最初の一撃」を持ちこたえ、自国の領土と国民の生命・財産を守るためには、自衛隊の装備も最新のものに入れ替えていく必要があります。
そのためには防衛費の拡大が不可欠、というのがこの秋の議論の一つの結論となりました。

・「最初の一撃」に耐えられる防衛力が必須
日米同盟は強固です。これは疑うべくもありません。
ただ、「台湾有事」の「最初の一撃」から米国の主力部隊が日本近海まで移動し、日米同盟による防衛力が機能し始めるまではある程度のタイムラグがあることも事実です。
そのタイムラグの間、日本は自国の防衛力によって持ちこたえなければ、日本の領土の一部分は確実に失われることになります。
そうならないためには、国民に対して平時から「戦う覚悟」を持つこと、そして有事の際にはいち早く「戦う意志」を結集して立ち上がることを求めなければなりません。
そのための手続きとして、防衛力増強のための議論、その財源を何に求めるのかを、国民全体を巻き込んで議論しておくことも必要なのではないでしょうか。
その際に、「国を守ること」が「全ての国民に等しく降りかかる課題」であることを共有した上で、全ての国民が負担する形で財源を担保するという議論も必要かもしれません。

「国民の間で増税の是非を真正面から議論するべき」という岸田総理のスタンスは、そのような「国を守る覚悟」を全ての国民で共有するための対話のあり方なのかもしれないと思っています。

(「激動の1年間の振り返り④ 経済政策の大転換」につづく)

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