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試し読み 【ミニカーだって一生推してろ】斜線堂有紀


ホワイトデーということで恋愛小説を斜線堂有紀さんに書いてもらいました。担当は、今作が斜線堂さんの作品の中で一番好きです。まさに今、令和の時代に書かれた恋愛小説。次々叩きこまれる言葉のブローに情緒がおかしくなる。ちなみに、斜線堂さんの恋愛小説を含むアンソロジー『STORY MARKET』が集英社文庫から刊行されます、3月19日です。


作者プロフィール

斜線堂有紀(しゃせんどうゆうき)

第23回電撃小説大賞《メディアワークス文庫賞》を『キネマ探偵カレイドミステリー』にて受賞、同作でデビュー。『恋に至る病』『ゴールデンタイムの消費期限』『楽園とは探偵の不在なり』など、ミステリ作品を中心に著作多数。ウルトラジャンプで連載中の『魔法少女には向かない職業(作画:片山陽介)』の原作を担当。


【ミニカーだって一生推してろ】



 人気アイドルが、一般人へのストーカー行為で逮捕されたら、どんな結末が待っているだろう。
 悠長に考えている場合でもないのに、赤羽瑠璃は夢想する。まかり間違っても、他人の家のベランダに座り込みながら考えるようなことじゃない。だが、そのことを考えずにはいられなかった。
 間違いなく、来月に決まっているバレンタインライブは中止だろう。今まで発売したCDは回収になるだろうか。アイドルを続けることも出来なくなる? それとも、反省していると記者会見を行い、然るべき裁きを受けたら復帰出来るのだろうか。
 いや、そんなことにはならない。アイドルはそういうものじゃない。男の部屋に忍び込んで捕まるなんてあってはいけない。少なくとも、今まで瑠璃が作ってきた『赤羽瑠璃』像はそうだ。
 赤羽瑠璃が引退することになったら、一番傷ついてくれるのはこの部屋の主だ。彼は自分の部屋に忍び込んだ咎で推しが引退することになったと知ったらどう思うだろうか。嬉しく思う? 光栄に思う? それともやっぱり、
 傍らに置いてあった室外機が不吉な唸りを上げる。部屋の中にいる人物が、エアコンを付けたのだろう。ふとしたきっかけでベランダの瑠璃に気づいてもおかしくない。最早一刻の猶予も無かった。
 瑠璃は意を決して、二階のベランダから跳んだ。固く無慈悲な地面が迫ってくる。死にはしないだろう。だが、どのくらいのダメージが来るかはわからない。
 どんな落下にも、それに至るまでの軌跡がある。長くて大きすぎる放物線の始まりは、今から四年前。瑠璃が二十四歳の頃まで遡る。
 二十四歳の赤羽瑠璃は、アイドルを辞めようとしていた。
 夢を追い続けて不毛な戦いを挑み続け、どれだけの時間が経っただろう? と、彼女は思ってしまっていた。自分がまだこれから何にでもなれるという可能性に潰されそうになる。照明すら薄らぼんやりとした当たらない舞台に立ちながら、刻一刻と死んでいく自分の未来を思う。
 この冴えない舞台ですら、瑠璃が必死で掴み取ったものだった。オーディションで選ばれた十六人しか『東京グレーテル』として劇場に立てないのだから。決して大きなグループじゃない。言ってしまえば、ただの地下アイドルである。けれど、ここまで来るのにも大分かかった。自分と同い年の人間は既に劇場を脱して、もっと広い舞台に立っている歳だった。それか、見切りを付けている歳だった。
 なのに、瑠璃はここでも埋もれていた。デビューから半年。業界の中で埋もれている『東京グレーテル』の中で埋もれているのだから、その日の目の見えなさといったら! ステージ最後列、ワンコーラスだけのソロが唯一の晴れ舞台だ。その数秒ですら、瑠璃はスターになれない。
 今の赤羽瑠璃を知っている人間なら、そんな時代を信じないかもしれない。だが、確かにそういう時代はあったのだし、瑠璃は静かに絶望していた。報われない努力は、冷たい壁に爪を立てることに似ていた。そこに傷が残るところなんて想像出来ないのに、自分の生爪は割れていく。
 劇場から何の変装もせずに電車に乗っても、誰にも声を掛けられない。プライベートでファンに声を掛けられたり、後をついて来られるのは迷惑だと言っていた先輩がいた。そのことは分かっているのに、自分がその迷惑な行為の対象にすらなれないということが悲しかった。被害を語る同期を羨むなんて、どれだけ浅ましいのだろうと自分でも思う。
 ただ、この浅ましさを嗤わせてたまるか、とも思う。自分はきっとおかしくなっている。こんな飢えを後生大事に抱えて、得られるものなんて何も無いのに。
 早く辞めなければいけない。それが現実と自分を繋ぐよすがであるかのような気持ちで吊り革を握る。どうか、自分をまともでいさせてください。どうか。
めるすけ『赤羽瑠璃は赤じゃなくて黒の方が似合うな』
 そんな時に、エゴサで引っかかったのがその呟きで、これが全ての始まりだった。
 一個人のツイートなんて、縋る対象としては最悪だったかもしれない。ただ、重みが違った。何故なら、それは瑠璃に関する初めての呟きだったからだ。
 エゴサが成功した試しはなかった。ステージに立つ度に自分の名前やグループの名前でツイッターを検索しても、瑠璃への言葉は見当たらなかった。それでも、帰りの電車の中で、瑠璃はせっせと検索を続けた。
 運命かもしれない、と思った。こんなもので計れる運命があるはずもないのに。
 思わず、呟いているアカウントの名前を確認する。「めるすけ」という間の抜けた名前と、ちょっとだけブレた猫の写真のアイコン。どこにでもいそうな、没個性的なアカウントだ。
「……普通のオタクじゃん。一丁前に衣装に文句言うなよな」
 そう呟きながらも、口の端が緩むのを止められなかった。
 衣装に文句を付けられはしたけれど、めるすけは自分のことを認めてくれている。今日のライブの客入りは一〇〇人に届くか届かないかくらいだ。あの中に、瑠璃を見てくれている誰かがいたのだ。
 そのことを理解した瞬間、スマートフォンを握る手が小さく震えた。
 この時、赤羽瑠璃の身体は宙に投げ出されたのだろう。ベランダから落ちるまでの長い長い落下だ。
 けれど、投擲の多くがそうであるように、瑠璃はここから上昇する。地下で埋もれていたことすら忘れられるほどに、鮮烈に。
「あの、自費で購入したいものがあるんですけど」
 めるすけの呟きを見た直後、瑠璃はマネージャーにそう話した。話しかけられることすら予想外だったのか、彼は戸惑ったように言う。
「自費で? 何を?」
「……衣装を替えたいんです」
 自費で、という部分を最初に言ったのは、衣装を替えることに、絶対に、絶対に反対されたくなかったからだ。ここで押し通せなければ、自分は一生変わらない。
 東京グレーテルの衣装は、色味のはっきり分かれたワンピースだった。特別なものじゃない。小劇場のカタログで取り寄せられるものに、リボンのアレンジを加えただけの量産品だ。
 十六人いるから十六色。瑠璃は朱色に近い赤を着ていた。名前に合わせたお気軽な担当。本当はもっと深紅に近い赤がよかったのだが、その色は先に加入した先輩が着ていたので、妥協をして着た赤だった。──ある意味で、めるすけの目は正しかったのかもしれない。蔑ろにされている自分を表したようなこの色が、瑠璃は少しも好きじゃなかった。
「衣装って、色? だって赤羽さんは赤担当でしょ。名前にも合ってるし」
「でも、似合ってないんじゃないかと思って。そもそも赤だと野中先輩と被ってますよね。だから、ずっと嫌でした」
 赤担当、と一口に言われるのも嫌いだった。色被りを懸念する瑠璃に対して「これは朱色だから」と言ったのは目の前のマネージャーなのに。適当に流すにしても、もう少し上手くやってほしかった。
「じゃあ何色にしたいの」
 いかにも面倒臭そうな顔をしながら、マネージャーが言う。自費で買うと言っている以上、無下にもしづらいのだろう。ましてや、替えようとしているのは誰も注目していない赤羽瑠璃だ。ややあって、瑠璃は答えた。
「黒です。誰とも被りません」
「黒? 裏方じゃないんだからさ」
「今の方がよっぽど裏方ですよ」
 こうして、赤羽瑠璃のカラーとして黒が決まった。今となってはお馴染みの、ペンライトで振るには大変すぎるその色は、赤羽瑠璃にとっての最初の分岐点だった。
 そうして、八万円で買い直した黒い衣装は、赤羽瑠璃に対する一つの『答え』であるように見えた。
 狭い楽屋の姿見に映った自分の姿を見た時、瑠璃はわざわざ自嘲してみせた。あんな一言に踊らされて、まんまと衣装を買い直すなんて馬鹿らしい。たった一人の意見なのに。そう自分で釘を刺しておかないと、浮かれてしまいそうで怖かった。本当は、あの朱色の方が自分に似合っていたかもしれないのに。
 それでも、全ては動き始めた。黒い衣装に身を包んだ瑠璃は写真を撮ると『衣装替えました! カラーも一新でニューばねるりです』という言葉と共にツイートする。
 すると、物珍しさからか、ぽつぽつと反応があった。
 一人は例のめるすけだった。
 めるすけは瑠璃のアカウントをフォローしてくれていた。恐る恐る反応を見に行く。
めるすけ『ばねるり、衣装替えて正解だな。すごく綺麗だ』
 小さな呻き声が漏れた。嬉しい。たった一人のそんな一言が、死ぬほど愛おしい。本当はめるすけの感性が間違っていて、瑠璃に黒は全然似合っていないのかもしれないのに。これで全部がよくなったような気分になる。
 見ててね、と心の中で呟く。
 新しい衣装に身を包んだ瑠璃は、いつもより身軽な気分で舞台に立った。
 最後列に暗い色の衣装を着て立つ瑠璃の姿は、悪目立ちするか埋もれるかの二択だった。こんな博打は、以前の瑠璃なら絶対に出来なかった。
 けれど、今回はめるすけが見ていてくれる。
 暗い客席の中に、知らないめるすけの姿を探した。この観客の中に、めるすけがいるのだと思うと、何故だか自由にパフォーマンス出来る気がした。
めるすけ『ばねるりはいつもダンスの振りが大きいところがいいんだよな。遠目から見てもわかるくらいだから、相当意識してると思う』
れーお『@めるすけ お前ばねるり推しなの?』
めるすけ『@れーお そうだと思う。ばねるり歌上手いし可愛いよ。頑張ってる感じがする』
 ライブが終わると、家に帰る電車の中ですぐさまめるすけのツイッターのホームを確認しに行った。そこにはめるすけによる衣装の感想やライブの詳細な感想があった。どの曲も、瑠璃を中心に書いてある。
 極めつけには、フォロワーらしき人物との会話だ。
 そうだと思う。──本当に? 逸る気持ちでめるすけのプロフィールをもう一度確認する。
 そこには「崖っぷち男子大学生。東グレばねるり推し。」というシンプルすぎる文章が載っていた。
 その日はめるすけ以外にも、数人の人間が瑠璃の衣装チェンジやパフォーマンスに触れて褒めてくれていた。けれど、めるすけの存在は瑠璃にとってあまりにも特別だった。
 男なんだ、と何故か強く思った。東グレのライブに来てくれるファンは男性が多いが、それでもめるすけの性別は不確定だった。男なんだな、と声にまで出してしまう。
 自分が何故その情報に強く執心するのかは分からなかった。いや、分からない振りをしていた。自分の中に滾っているものの正体に向き合うより先に、赤羽瑠璃はめるすけの監視を始めた。
めるすけ『就活終わったけど、社会で生きていける気がしない。東グレがなければ致命傷だったかもしれない』
めるすけ『院行ってよかったことはあるんだけどね、沢山』
めるすけ『誰か夜中にフォトナ潜れる人いない?』
めるすけ『ばねるり、最近よく笑うようになった。ばねるりの笑った顔はめちゃくちゃいい。あと、本気でツボに入った時は手で口元隠すのが可愛い』
めるすけ『「天涯のエリュシオン」のばねるりパート、字面はめちゃくちゃ寂しいのに物凄く明るいよな。燃え尽きてもそれが悪いことじゃないって言ってくれてるみたいで励みになる』
めるすけ『ばねるりかわいい』
 めるすけの呟きは、日常のことが半分と東京グレーテル──というより、赤羽瑠璃に関することが半分という割合で構成されていた。ごく平凡な呟きの合間に、瑠璃に関する言葉が差し挟まれていて、ライブに出た時は必ずその感想を呟いてくれる。
 これほどまでに赤羽瑠璃を見てくれている人間はいなかった。
 だが、それと同じくらい瑠璃もめるすけのことを見ていた。
 めるすけが瑠璃の癖や仕草を知るのと同じように、瑠璃もめるすけの欠片を拾い集めて、一人の人間の像を結んでいった。
 都内に住んでいる大学院生で、もう就職が決まっている。今はまだジョナサンでバイトをしているが、就職に伴って辞めるつもりである。それだけじゃない。好きな本やバンドも、めるすけは惜しげもなく公開していた。アイドルのプロフィールが精査された上で公開されているのを考えると、そのことが信じられないくらいだ。めるすけは見つめることに慣れすぎていて、見つめられることには驚くほど無頓着だった。
 下の名前が『渓介』であることも、大学の同期らしき人間のリプライから偶然知った。少し珍しい名前だ。渓谷の渓を名前に付けた両親は、めるすけにどんなことを期待していたのだろう? 『すけ』が渓介から来ているのなら『める』はどこから来たのだろう?
 一つを知れば、連鎖的に次が欲しくなる。普通に出会っていたら苦も無く聞ける名字を知る術が無いことがもどかしかった。
 あれからも瑠璃は、黒い衣装で東京グレーテルの舞台に立ち続けていた。劇場に黒いペンライトの発売は無いかと問い合わせが来て、マネージャーによる黒いペンライト作成講座の動画が出た。赤羽瑠璃を取り巻く状況は変わり始めていた。
めるすけ『高校時代からずっと遙川悠真の小説は好きなんだよな。切実って感じがして』
めるすけ『やっぱり原点はトリクウィッチズなのかもしれない。ちょっと古いかもだけど。古いと言えば、ばねるりって実はかなり阿賀沼沢子に似てる気がする。多分、本物のカリスマを持ってるアイドルだからっていうのが大きいんだろうけど』
めるすけ『ばねるりは多分、変なスキャンダルとかも起こさないだろうな。ファンと一線引いてる感じが好き』
 めるすけが好きだという小説を読んで、音楽を聴いた。
 好きかどうかは正直分からなかった。何しろフィルターが多すぎる。めるすけが好きだから好きなのか、めるすけのセンスがいいのかが判別出来ない。
 そんな有様である癖に、阿賀沼沢子のことも調べた。自分とどんなところが似ているのかは分からなかったが、少なくとも今の自分とは比べものにならないくらいスターであることは確かだった。阿賀沼沢子の曲を聴いて、MCの際に、目標にしている人物だと恥ずかしげもなく公言する。
 借り物の言葉のはずなのに、赤羽瑠璃の中身が継ぎ足されていくよう。本を読むのも映画を観るのも、先達のアイドルに学ぶのも、マイナスになることは何も無い。今まで無軌道に行っていた努力に、方向性が定められたようだった。めるすけが似ていると言うのなら、阿賀沼沢子はきっと、正しく成功した赤羽瑠璃の未来像になる。
「将来は、阿賀沼沢子さんのような素敵なアイドルになりたいです」
 それは多分、めるすけの理想のアイドルになることに等しかった。
 相変わらず、東京グレーテル自体が目立たない地下アイドルだったし、瑠璃はその第二期生、少し目立つだけの下っ端でしかない。
 だが、今の瑠璃には信仰にも似た指針があった。どんなことが起こっても、きっと揺るぎなく自分を導いてくれる確信の糸が。もう辞めようとは思わなかった。就職しためるすけは、きっと自分に会いに来てくれるだろう。これからも、飽くことなく。
 瑠璃が実際のめるすけに会ったのは、それから半年後のことだった。
 東京グレーテルの握手会は、選抜メンバーの七人しか参加しないのが常だった。しかし、その時は規模が拡大され、十二人が参加することになった。瑠璃は、栄えあるその十二人の中に入ったのだ。こんなことは初めてだった。少し前だったら、瑠璃はここにいないだろう。
 他のメンバーには全く及ばないものの、瑠璃の列にも数人のファンが並んでくれていた。誰とも握手出来ないような状況じゃなくてよかった、と心底ほっとする。
 その列の先頭に『めるすけ』がいた。
 めるすけは、握手会で赤羽瑠璃に会いに行くことを公言していた。それだけじゃない。同じグループの黒藤えいら推しの友人と向かうことや、何のプレゼントを持って行くか、そして──どんな服装で赤羽瑠璃に会いに行くかも事前に呟いていたのだ。
 瑠璃の黒い衣装に合わせているのだろう。黒いタートルに細身のスラックスを合わせたファッションは、どこにでもいそうな量産型大学生の格好だった。いや、今のめるすけは大学生でもないのだけど。
 特定するのは簡単だった。どこにでもいるような風体で、瑠璃に会いに来てくれるのはめるすけただ一人だった。深爪気味の手がすっと伸ばされる。
「いつも応援してます。ライブ楽しみです」
 ヒールを履いた瑠璃よりも、背は少しだけ大きい。垂れ目がちな目が印象的な、普通の男だった。握った手だけが妙に冷たく、緊張しているのが分かる。
 めるすけは爪を丁寧に手入れする方じゃない。多分今日は瑠璃の為に切ってきた。普段から、めるすけが上げる画像を見ていなければ、この気遣いにすら気づかないままだった。
「ありがとう。すごく嬉しい」
 それだけ言って、思い切り握手をする。時間にすれば数秒にも満たないそれで、どれだけ感謝の気持ちが伝わったかは分からない。
「えっと、差し入れ……よかったら使ってください」
「あは、プレゼントじゃなくて差し入れって言うんだ」
「いや、そう……プレゼント。一応、ちゃんと選んだんで」
 知ってる、ワイヤレスイヤホンだよね。黒の。
 そう言いそうになって、どうにか留まる。めるすけのことはちゃんと見ている。知っている。ばねるりの傍にいつもあるものがいいと言って、奮発して買ってくれたのだ。本当はそんな高いものは要らない、と言いたかったけれど、瑠璃は、その中身をまだ知らないままでいなければ。
「ありがとう。私、頑張るから。ずっと見ててね。一生推してて」
「うん。見てる。応援してる」
 もう一度そう言うと、めるすけはようやく離れていった。もし他の人の目がなければ、彼の名字を聞いてみたかった。下の名前はもう知っているのだ。渓介、に連なるものが欲しかった。
 気づけば、瑠璃の前には長い列が出来ていた。半年前には考えられなかった状況だ。それとも、観測出来なかっただけで、瑠璃のことを応援してくれている人はいたのだろうか?
 急に、立っている場所がしっかりとした舞台に感じられた。瑠璃は次の人を迎える為に、赤羽瑠璃の最高の笑顔を浮かべる。
めるすけ『ばねるり握手会終わった。最高だった。』
めるすけ『ばねるりの目が、まるでメテオライトブラックみたいだった。ばねるりは黒が似合う。あの大きな目にも星がある』
めるすけ『というか、ばねるりの握手列結構えげつなかったな。みんながばねるりの良さに気づいてくれたみたいで嬉しい』
めるすけ『ばねるりがみんなの一番になってほしい』
めるすけ『ばねるり一生推す』
 一生推してて、と瑠璃は復誦する。
 

この作品の続きは『愛じゃないならこれは何』にてお楽しみください。

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