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防衛産業へのESG投資ってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点

(第七回)「ESG投資って何だろう」を探す(終わりがないかもしれない)旅

今回は「大人の事情」がヨーロッパの投資資金を惑わせているお話

このNoteを始めるときに、経済や企業、投資にまつわるサステナビリティ関連の話題とワイン関連の話題をバランスよくブレンドしていこうと思っていました。ちょっとワインに寄りすぎた感じになったかもしれないので、今回はワインじゃない方に振ってみましょう。ただ、簡単に結論が出ない話ですし、ワイン片手にする話としては心が痛いかもしれません。
(前回は、シャンパーニュの労働力ってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点|わこさん (note.com)でした。)

本当は地球温暖化の話をしておきたい時期なのですが

アナリストとして「ESG」担当だったとき、9月になるとそろそろ11月のCOP(国連気候変動枠組み条約の締約国会議)を意識して、地球温暖化とそれに対応する各国の動きをウォッチしていく時期になります。今年は29回目、COP29というのがアゼルバイジャンで開かれます。温暖化の話も話題がいろいろあるので語りたいところではありますがそれはまた近々。

投資資金の力で環境問題や社会問題への対応を後押ししたい「ESG投資」

で、今回は「ESG投資」について書いてみます。環境や社会問題への対応、それに株主への利益還元などを含む企業経営や国の取り組みを投資資金の力で後押ししましょう、というのがESG投資のお題目になるといえます。ところが、これがややこしいのです。

投資資金の性格が変わってきた?防衛産業への投資に積極的に

9月18日付けの日経新聞に「ウクライナ戦争を受け、欧州系ファンドがESG(環境・社会・企業統治)投資を変貌させている。当初ほぼ想定外だった防衛株を投資対象に積極的に加える。」というリード文の記事が出ました。その中では、ロシアのウクライナ侵攻で欧州の安全保障環境が激変したため、民主主義や人権を守るための手段として、防衛産業への投資がESG投資の倫理観に合致するとの考え方が強まったことが背景として指摘されています。
波立つ欧州金融(上)ESG、防衛株も積極投資  ウクライナ戦争で一変、「倫理的」浸透 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

民主主義や人権のために投資資金を使いたい、ということですが

言いたいことは良―くわかります。
投資資金の力で防衛関連企業をサポートして人々が安心して暮らせる社会になることを後押しする、ということですよね。

民主主義は環境に優先するんでしょうか?

ただ、それってサステナブルですか?ご都合主義のように聞こえるのですが。
ウクライナやロシアでの戦闘地域って、世界でも有数の穀倉地帯です。そこで戦闘して、畑を荒らしながら弾薬や燃料を畑にぶちまけてます。環境破壊ですが、民主主義は環境に優先するんですか?世界の食料事情、今のところなんとかなりそうにも見えますが、将来も大丈夫なんですか?対人地雷などの非人道的兵器は投資対象外にしているとしていますが、人道的兵器ってなんですか?大活躍している自爆ドローンは民生技術の応用ですがこれは人道的兵器なのでしょうか?

Copilotに「ドローンの編隊が小麦畑の上を飛んで戦闘地域に向かっている画像」とお願いして作ってもらいました

仮に防衛関連企業に投資を続けるということになると、それは民主主義や人権へのリスクが継続する、あるいは悪化することが前提になりそうですが、状況が悪化した場合ってこれまでの投資の効果がないと判断されるのですか?

「大人の事情」で投資対象に入れざるを得なかった、ということでは?

青臭いこと書きましたけど、私も大人の世界で生きてきましたので、「大人の事情」はわかっているつもりです。記事の後半にも書いてありますが、短期的に投資のパフォーマンスを上げるために防衛関連企業を投資対象に入れざるを得ない、ということですよね。

収益がないと「投資」ではなく「寄付」です

投資(Investment)をするということは、単にお金を企業や国に譲渡するということではありません。当然、その見返り、つまり配当や利払い、値上がり益といった投資の収益がないと経済活動にはなりません。見返りを求めずお金を譲渡するのは寄付(Donation)です。

投資収益が見込めるからこそ、その企業や国に投資をする。さらに投資先の企業や国が成長してもっと投資収益が上がっていく。そしてその収益を再投資して…という形になるのが、投資がサステナブル(持続的)になるということですよね。

民主主義を守る投資の収益はどう正当化するのでしょう?

民主主義を守るというお題目で投資をして、果たして収益は?民主主義社会が継続することで広く薄く収益が戻ってくる、ってことで正当化されるのかもしれませんが、防衛企業に投資をして投資収益として見えるものは武器の売り上げからくる収益です。もしも戦争が停止すれば防衛企業の業績は悪化しますので投資収益は落ちるはずですが、その場合この投資って失敗ですか?

儲からなそうなところに投資資金は入ってきません

大人は、こんなことはわかってます。でも、投資の世界では、儲からなさそうな(=投資収益の上がらなそうな)ところにはお金は入ってきません。お金が入ってこなければ投資はできません。もう少し言うとお金が入ってきて、投資して、収益が上げられなければ、運用担当者のお給料は出ません。

ESG投資が儲かるというプロモーションのため?

「ESG」という看板を掲げてしまった以上、そこにお金を惹きつけるためには「ESGが儲かりまっせ(=投資収益が上がりそう)」というプロモーションをしていくことが「大人の事情」として必要なのです。そのためにロシアのウクライナ侵攻が(結果的とはいえ)使われてしまっていると考えると、ワイン片手のお話はしづらいです。

日本でも看板と実態の違いが問題になったことが

日本でも、数年前ですが投資信託の販売でESGがバズワードになったことがあります。投資信託の名前に「ESG」と付けておいて、実はアメリカのテクノロジー株に投資してパフォーマンスを上げ、「儲かってまっせ」とプロモーションしてさらに資金を集めていました。

実はテクノロジー株に投資することはESG投資であるという面もあります。だってソフトウェア開発やITサービスは直接的には二酸化炭素を排出しないし、その技術が社会問題の解決に役立つかもしれないわけですから。

ただ、投資対象としている企業の二酸化炭素排出削減などのESGの取り組み状況を調査するような体制も整っていない中で投資をしていたこともあって、「言ってることとやってることが違うんじゃない?」と最後はお上からチェックされて萎みました。

そのおかげもあって、そのあと日本ではESG投資の盛り上がりが今一つなのかもしれませんが、その話題はまた改めて。私自身が「ESG」についてどう考えているかの概論は、第一回で書いた通りです。
ESGってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点|わこさん (note.com)

改めて、収益が期待できるかが投資には重要ですが

「ESG投資」ってなんだろう、というところに話を戻します。環境問題や社会問題を改善していくために投資資金を活用します、という点には異論はおそらくないでしょう。ただし、それが寄付ではなく投資活動としてサステナブルになるためには目に見える投資収益が必要です。環境問題・社会問題の改善を後押しするとともに収益がきちんと上げられますか、という点について説明ができるかどうか、がポイントになると思っています。

脱炭素に取り組む企業への投資資金の収益が上がらない形も

今回挙げた「大人の事情」に限らず、ESG投資の先駆けとなっている欧州では、脱炭素の取り組みを進めた企業に対する投資が地球環境のために良いことなのだという考え方が根付いているようではあるのですが、「頑張って温暖化ガス排出を減らせば投資してもらえる」と先行して取り組んだ企業の株価が上がらず、そうした企業に対する投資に注力する投資ファンドなどのパフォーマンス(運用成績)は必ずしも良くない、結果としてそうしたファンドに資金が集まらず…という形になってしまっていたりします。

(投資関連の話題に詳しい読み手の方には、欧州のSFDR(サステナブルファイナンス開示規則)の8条・9条ファンドをめぐるドタバタを思い起こしていただければ幸いです。いずれ話題に上げるのかな???)

キーフレーズはやっぱり「それって、サステナブルですか?」

「大人の事情」、ややこしい話になりますね。ただ、そうした事例は枚挙に暇がありません。今後、経済や金融市場にまつわるこの手の話題を取り上げていきますが、キーフレーズはやっぱり「それって、サステナブルですか?」だと思ってます。

今回のトップ画像は、Copilotに「地球とユーロ紙幣の画像を組み合わせて画像を作ってください」と頼んだだけなのですが、なんだか良い感じですね。お話としては、投資関係の話を聞きなれている人には物足りなかったかもしれません。
また次回です。

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