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ESGってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点

(第一回)ESGってサステナブルですか?

それってサステナブル(持続可能)ですか?
目の前にある様々な事柄について、この視点を入れて考えてみると見え方に広がりや深みが増してくるのではないでしょうか。

私なりにこの視点を踏まえて、これから様々な話題やテーマを解きほぐしていきます。読んでいただいている皆様からご意見もいただき、建設的な議論ができれば、とも考えています。よろしくお願いします。
サブタイトルについては追々わかっていただけると思います。

「ESG」って、言いたいことは良くわかるんですが…

第一回です。まず手始めに、「ESG」という言葉を考えてみましょう。

私は先日まで野村證券のエクイティ・リサーチ部でESGチームヘッドという立場にいました。証券会社の企業調査部門でのESG調査をするアナリストというお仕事です。簡単に言えば上場企業を中心に企業のESGの取り組み、それを後押し(?)する政策や制度などについての調査を行っていました。(野村を離れてから、いろんな人に職歴を話しましたが、「ESG」って一般には知られていない言葉なのかもしれないと軽くショックを受けたりもしました)

ESGは、Environment (環境)、Social(社会)そしてGovernance(企業統治)の頭文字を並べたものですが、私はこのESGという言葉、担当者でありながらどうも好きになれませんでした。言いたいことはわかります。米国を中心に企業による利益追求が行き過ぎていたため、様々な環境問題や社会問題を二の次にしているような企業に地球温暖化や人権問題などへの対応を求めよう、ということです。企業が社会とともに存在する限りは社会に対するそれなりの責任を果たす必要があるわけですから、この考え方自体は否定するべきものではありません。

レッテル貼りすると視点が固定化


ただ、こうやって一つの言葉として独立させてしまう(あるいはレッテルを貼ってしまう)と、むしろ企業行動や企業を見る視点をパターン化(固定化)してしまったり、E→S→Gの順番で企業が優先して対応すべきであるといった見方につながったりして、企業や物事の本質を見誤る危険性も出てきます。

例えば、アナリストとして企業の環境対応を調べよう、ということになると、まずは温暖化ガス(Greenhouse Gas(GHG)、二酸化炭素やメタンガスなど地球温暖化を促進するとされるガス)排出量の情報開示とその削減計画が策定されているかを拾い出し、続けて水資源や森林破壊などへの対応状況の情報開示を見て行ったりします。で、それを並べて「フムフム」とするわけです。

地球温暖化対策に問題なのは排出量の絶対水準?


で、排出量だけを見て、「なるほど、電力会社や鉄鋼メーカーは無茶苦茶二酸化炭素出しとるやんけ。怪しからん。」となったりして、環境運動に走ったりする人もいるわけです。ある種視点の固定化ですね。今の排出量を見ることは非常に重要なことですが、業種によって本業との関わりが違いますから、「GHGの排出量が多い=悪」とは言い切れないはずですし、こうした業種がきちんと排出量を減らすことが最終的には地球温暖化の緩和につながることになります。このあたりのお話は改めていろいろな機会をとらえて広げたいと思います。

また、企業の社会的責任ということになると、さらにいろいろ考えなければいけないことが出てきます。労働者に関して言えば、最近の日本での流行は社員に能力を発揮してもらうための「人的資本経営」ってやつなのかもしれませんが、グローバルには製品が作られてから廃棄されるまで(特に上流と言われる原材料調達→製造→流通)にかかわる労働者の人権をどうとらえるか、ということが議論されることが多いようです。例えば東南アジアのパーム油のプランテーションで働く人たちが低賃金で過重労働させられ、それを原料にした植物油脂が様々な製品に使われています。
ケシカラン話だ‼というのは簡単。

環境問題と人権問題は切り離せない面も


実はこの問題は、プランテーションの開発(≒乱開発による環境破壊)ともかかわるため、E(環境問題)でもあったりします。その場合、低賃金による労働搾取の修正と乱開発による環境破壊の修正、って簡単に優先順位をつけられる話でしょうか?人によってはEだ、いや違うS(労働搾取などの人権問題)のほうが重要だ、ってことになるかもしれません。

さらに言うと、プランテーションで働く人たちの賃金を上げたら、最終製品の価格が上がるかもしれませんが、それって一般消費者は受け入れてくれますか?受け入れてもらうためにどうしましょう?意識高いインフルエンサーに頑張ってもらいますか?でもそれじゃ広がりが十分じゃないかもしれません。ここも深みにはまるといろんな派生問題が出てきますので、手を変え品を変えて議論できればと思います。

いずれにしても、環境対応、人権(労働者)対応などなどの問題をきちんと把握して、情報開示したうえで対応を進めていくためには、それぞれの企業の経営者の意識、言い換えれば肚の座り方が非常に大切です。なぜなら、環境や人権への対応って、短期的にはコストがかかってカネにならない場合が多そうですよね。例えば、短絡的には省エネ設備を導入したり人権研修を実施したり、などがイメージしやすいでしょう(実際はそんな単純じゃない、ってのはまた議論します)。

企業経営者の肚の座りが重要


そういった状況の中で対応を進めるためにこそ、G(企業統治)が必要になります。最近の日本の株式市場では、東京証券取引所が打ち出した「資本コストや株価を意識した経営」が錦の御旗になってG=株主還元(あるいは株価押上げ)に置き換えられてしまっているようにも見受けられます。「ESG投資=株主還元を相場材料にした投資」に曲解しているとしか思えない動きもあります(この辺りも、議論のテーマとしては面白いです)。ただ、本質は企業の経営陣に対して中長期的に企業価値を上げていくためにはどうすれば良いのかキチンと考えて体制を整えるように、という要請です。

と整理すると、企業の対応はE→S→Gの順番でやるべきということではなく、何はなくともG、つまり企業の経営者の意識や対応、体制が重要だということです。

企業の経営者にとっての最優先課題は?


では、企業の経営者が環境問題や社会問題への対応を何が何でも優先するという立場でよいのでしょうか?

企業の目的として、利益は追求せず、事業から得た収益はすべて従業員や社会に還元するということであれば、それはそれで非常に立派な企業であると思います。実際、そういった企業もありますが、ここでもまた問題が発生します。上場企業であれば、出資者である株主に報いることが要請されているはずです。利益を出して、配当や株価上昇で株主(投資家)の利益に貢献することが分かりやすい話になります。

環境・人権対応を優先した経営者の末路は?


ダノンという世界的な食品企業があります。以前のCEOだったエマヌエル・ファベール氏は、食品メーカーのトップとして、製品調達における環境対応などに注力し、ESGを実践する経営者としてESG界隈では非常に高く評価されていました。

ところが、ダノンの業績や結果としての株価が同業のネスレなどに見劣りしてしまう状況が続きました。それに満足しない(=投資機会を見出した?)アクティビスト投資家などが反発、2021年3月にファベール氏は解任されてしまいました。いくら環境にやさしい経営をしていても、業績や株価面で評価されないといけません、という話になります。日本でも某家庭用品メーカーが一時同じ状況になるかも、という見え方をしていました。

ちなみに、ファベール氏はESGの世界では非常に評価が高く、解任された後ISSBというESGの概念を含むサステナビリティ開示基準を設定する国際的な委員会の議長に就任しています。(このパラグラフ、派生ポイント満載ですね(笑))

行きつくところが「それってサステナブルですか?」


じゃあ、どうすればいいか、という話をまとめる考え方が、「それってサステナブル(持続可能)ですか?」ってことだと思います。やっとたどり着きました。環境対応をするのにも、人権問題などへの責任を果たすのにもカネと時間と経営者のやる気が必須です。そのためには継続して利益を出しながら、しかも継続して社会貢献ができるような事業を努力して運営していくことが必要だ、ってことです。

ウチは中小企業で非上場だしそんな余裕ないよ、という声も聞こえてきそうですが、そうした事業環境に適応しながら企業経営をしていくことが十分に持続可能な経営だということですよね。この辺りについても追々議論をしていきたいです。

ESGなんていうから本質が分からなくなるのかも


なーんだ、当たり前じゃん、と思われた方、その通りです。
本質はESGじゃないんです。企業が環境対応や社会的な責任を果たしながら持続的(サステナブル)に成長を続けていけるように、しなやかな対応をしながら経営努力を続けて業績を上げていけますか、ということなのです。いろんな概念をまとめてキャッチーな言葉にするのは人目にもつくし、浸透しやすいのですが、往々にして本質が見えにくくなってしまうんですよね。

と、こんなお話をいろいろな観点でしていきたいと思っています。今回は概論で少し長くなりましたが、もう少しコンパクトにしていきます。

Noteの投稿は今回が初めてなので、まだ使い方に慣れていなくて、見づらいとかあるかもしれません。そこは徐々に改善します。

また、いろいろな方に読んでいただきたくて、書きぶりをできるだけ平易にしていますので、個々のポイントでやや詰めの甘い議論をしているように見えるかもしれません。その場合は、是非若生までご連絡をください。ご了解をいただいたうえで、今後Note上で議論させていただきたいと思います。また、最初は無料公開で始めますが、そのうち皆様の浄財をお願いさせていただきたいので、そちらもよろしくお願いします。

ワインの話題も飲みつくせないほどあります


ワイン片手にお話しするはずでしたが、今回はワインが出てくる余裕がありませんでした。大丈夫です。次回以降出てきます。こっちも話題は飲みつくせないほどあります。

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