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コンクリートってなに?

大人が読んでも面白い、ためになる児童書を紹介する不定期掲載「土木技術者も読みたい児童書 #土木の本 」シリーズ、半年ぶりの投稿になる今回、紹介する児童書は書籍ではなく雑誌になります。2021年12月発売「月刊たくさんのふしぎ 2022年1月号 コンクリートってなに?」です。

月刊たくさんのふしぎ 2022年1月号 コンクリートってなに?

月刊たくさんのふしぎ」は、福音館書店さんが小学生向けにお届けする科学雑誌です。1985年に創刊され、さまざまな不思議について、第一線で活躍する研究者や専門家が紹介する雑誌です。

バックナンバーを見ると自然科学や生活文化に関係するものが多いという印象ですが、そんな雑誌の2022年1月号に取りあげられたのが、土木とはきっても切り離せない「コンクリート」。

土木学会には「コンクリート委員会」という調査研究委員会がありますが、発足は昭和3年(1928年)と、土木学会の中でも古く長い歴史がある委員会です。この「たくさんのふしぎ2022年1月号」で、文を書かれた細田暁先生は、コンクリート委員会も含め土木学会でもさまざまな活動をされています。

コンクリートってなに?

私たちの身近にあるコンクリート。でも、コンクリートがなにからできていて、どうやってつくられているか知っていますか。実は、コンクリートは古代ローマから使われていました。そして現代のコンクリートは一種類ではありません。使われる建設物に合わせていろいろな種類があり、今もなお進化を続けているのです。コンクリートの知られざる世界をご紹介します。

福音館書店HPより

内容は、とあるところのお父さんと娘さんが、ダムを見学に行こうというところからスタート。まちなかで使われているコンクリートや橋やトンネルのお話をしながら、打設の現場の脇を通ったりセメント工場を見学して、目的地のダムを目指します。

「たくさんのふしぎ」は通常40ページのところ、今号は大増48ページ

材料としてのコンクリートから、コンクリートの製法、施工だけでなく、話はコンクリートの歴史からインフラのあり方、インフラメンテナンスの話まで。数字や数式は一切ありませんが、文章だけ抜き出せば「コンクリート学」の教科書と言ってもいい内容です。

それが、旅する親子を通じて、小輪瀬護安さんのイラストで描かれることによって、面白くも解りやすく伝わってきます。

福音館書店の土木の絵本というと、かこさとしさんの名作「かわ」を思い浮かべます。

この「コンクリートってなに?」は、それとならぶ「土木技術者も読みたい」というより、「土木技術者は読んでおいた方がいい」児童書になっているのではないかと思います。

コンクリートの教科書」のような内容が「あの」福音館書店さんの『たくさんのふしぎ』になっていて、しかも土木学会で活躍する土木工学の研究者が書かれた!というのでいてもたってもいられず、横浜国立大学まで出掛け、細田先生の研究室にお邪魔していろいろお話を伺ってきました。

細田先生が在籍する横浜国立大学都市科学部都市基盤学科のホームページ

細田先生にお話を伺ってきました!

インタビュー日:2021年12月13日
場所:横浜国立大学

-この「たくさんのふしぎ」は、コンクリートの教科書のような充実した内容になっていますが、製作の経緯はどのようなものだったのでしょう?

細田先生:福音館書店の担当の方から直接連絡をもらったのがきっかけです。「たくさんのふしぎ」というのは人気シリーズでさまざまな分野のふしぎを扱うことから、そこの編集の方々は、あらゆるテーマを扱う物知りの集団なんですね。その方々をしてもコンクリートのことを知っている人はいなかったそうです。なんで街中を走っているアジテータ車のドラムが回転しているのかとか、なぜそもそもコンクリートは固まるのかということもわからない。ということで取りあげたいとなって、いろいろリサーチされて、私に白羽の矢が立ったそうです。

-最初にお話を聞いてどう思われましたか?

細田先生:福音館書店のお名前は聞いたことはありましたが、正直そんなにレベルの高いということは知りませんでした。最初は話を聞くだけ聞いてと思ったのですが、いろいろ盛り上がって、作りましょうという話になりました。それが2017年の3月31日、約3年8ヶ月前。そこから構想を始めました。

-土木を題材にする絵本というと、重機の話だったり、過去の偉人のお話だったりすることが多い印象で、一般の方、特にお母さん方が手に取るカテゴリーで、土木材料という観点は珍しいと思います。

細田先生:編集サイドとしては、コンクリートに特化した話をつくりたいというお話でした。でも私としては広く「土木」というテーマにしたくて、私が大学で行っている土木史の講義、これは結構はっちゃけた講義になっていて、これに編集の方も学生と一緒に受講していただき勉強していただいて、コンクリートをテーマとしつつ、歴史やインフラそのものの話を含めた構成ということになりました。

-身近な構造物から、その材料であるコンクリート、そこからインフラや土木の意義、歴史や現在から未来の話、それらに携わる人の姿が、写実的な表現で無く、でも絵にもなりすぎない表現で描かれるという、あまり見たことのない構成と感じました。

細田先生:原文は私が書いて、編集サイドと構成を進めるなかで、親子が旅をしながら話をするという物語のアイデアを、担当の方から出していただきました。ストーリーができ上がっていくなかで、今回のストーリーであればと担当者がお願いして、絵は小輪瀬さんにご担当いただくことになりました。担当者と小輪瀬さんと私と、東北の復興道路とか一緒にあちこちを取材して回りました。

-絵本の反響はいかがですか?

細田先生:土木の世界では、結構縦割りなところもあって、隣の分野でもコンクリートのことをよく知らなかったりするので、ゼネコンの方からは若手社員に読ませたいというお話は伺っています。

-この本をこれからどう展開していこうと考えていますか?

細田先生:私は広島の鞆の浦というところで、小学校の防災授業を長くやっています。授業では、インフラで「自助・共助・公助」の「公助」のところをちゃんとしようという話をしています。鞆の浦というところは、海と山に囲まれた狭い地域です。土砂災害も発生するので砂防堰堤も山の方にちょっと行けば見える。海に行けば防潮堤が、また山の中ではトンネルの建設が進んでいます。それらにはすべてコンクリートが使われています。今回の本も、4年生の子どもたちにプレゼントしました。彼ら彼女らは、授業や地域のインフラを見て、学んで、「公助」の大切さをものすごくわかっているので、それを地域の人たちにしゃべりたくてしかたない。

-インフラによる公助の重要性を絵本という切り口からしっかりしたテーマとして伝える工夫というのはあるのでしょうか

細田先生:小さいまちだとインフラが見えやすいので、こどもたちに授業で地域のインフラの見方を教えると、授業の一環でまちあるきをするときに自分たちで視察して、自分たちで写真を撮って、それを地域の人に自分たちで伝えています。大都会ではこれがやりにくいということはあります。海にも川にも山にも行くのに距離があるのでやりにくい。こういう都会でどのようにやるかは別途考える必要があると思っています。

自分の地域をよくよく見たら、公助=インフラはいっぱいある。そういうところを教材化して、学校の先生方にお伝えするということは必要だと思います。わたしたちのようなインフラを作る側の人間が、ちょっと知恵を絞ればできるだろうと思っています。

例えば鞆の浦だと、地域や近所で作られているトンネルは、リニア新幹線という日本の国家的最先端プロジェクトと同じ工法でつくられているといったような、子どもたちの気持ちがワクワクするような、教え方・伝え方の工夫が必要だと思います。

社会や理科だけでなく、家庭科や歴史、国語といった学校の教科と土木をうまくつなぐ必要があると思っています。社会科で学ぶ歴史と、土木をちょっと絡めるだけで、クリアできると思います。

-土木の人が総合学習で土木のことをとりあげると、土木を教えようという意識が強くなってしまうという気がしています。科目や教科に絡めるという視点が重要なのですね。

細田先生:私は鞆の浦で土木を教えるのではなく、もちろん土木の話もするけれど、彼らが生まれ育ったところが災害に強くなってほしい、魅力的になってほしい、そしてそういう地域になるように、彼ら自身が最前線のプレイヤーとして育ってほしいと考えています。土木はあくまでも「手段」として、もっと大きいことを授業で伝えています。

-土木の人の多くは、土木の真面目さの部分か、使命感か、ちゃんと細かくやらないといけないという感覚が強すぎる気もします

細田先生:この絵本は、数式も配合比も出てきませんがコンクリートのことはしっかりと伝えられる。たくさんの文字を詰め込んだり数字やデータで示したりということはなくても、メッセージは伝えられるというのが解りました。編集のプロの力量は凄い。

-土木には面白い、興味深いものがたくさんありますが、土木学会の情報も含め、調べてもでてこないような示し方になっているものが多いような気がします。

細田先生:土木は多くの人にとって身近でありながらまだまだ知られていない世界で、魅力的なコンテンツが土木の分野の中にあるということをもっと出していかないと行けないと思っています。土木の世界に限らず、技術や工学の世界から、子どもたちの興味関心を惹くようなものを出す必要があると思います。技術とか工学をもう一回建て直さないと、この国は持たないのではないでしょうか。

-そういう意味では「たくさんのふしぎ」は、土木の分野の内容でいろいろな企画もできそうな気がします

細田先生:川とか土とか。地盤工学とか土質工学とか、土の分野はぜひ取りあげて欲しいですね。

-子どもたちは砂場で山を作ったりトンネル掘ったり水を流して川を作ったりしますから、それを工学として説明できる絵本があるとよさそうですね

細田先生:「たくさんのふしぎ」で土木工学シリーズ、できなくはないですね。

-その代表として「コンクリートってなに?」は、ぜひとも福音館書店さんの「たくさんのふしぎ傑作選」になって書籍として読み継がれるようになったらいいなと思いました。本日は長時間にわたりありがとうございました。

細田先生:ありがとうございました。


横浜国大での熱い、土木史の授業

インタビューの中では、細田先生が担当する土木史の講義の話でも盛り上がりました。

横浜国大での土木史の授業は2020年のコロナ禍で、授業中にレポートを提出するスタイルから、時間をじっくりかけて調べて提出できるよう翌朝締切に変更されたそうです。すると素晴らしいレベルのレポートがたくさんでてくるようになったことから、授業の中だけではもったいないと、細田先生のブログで学生さん達のレポートが公開されています。

細田先生はこれについて、「授業の中で学生が覚醒して、学生自身が土木とか社会や政治、経済すべて含め繋がっているということを伝えたいという強いモチベーションが生まれているのだと思います。土木は、誰もが当事者であり、自分に関係ない話では無いということがわかってくると、自分自身の問題意識とあわせて土木を語れるようになってくるのだと思います。」と語られました。

今回さまざまお話を伺って、土木の世界をまだまだ「伝えられていない」と感じました。学校教育の現場との関わりについても「ここに材料はあります、使ってください」というスタンスから一歩踏み込んで、忙しい地域の学校の先生方の手助けになるようなものを、土木の側で作っていく必要性も感じました。「事業」や「工事」だけでなく「なぜそれが必要になったのか」という背景や、土木の「技術」の見せ方、技術が社会でどのように使われ、どう役立っているのかなど、土木の分野の中から見せられる人をどう育てるか、やる側の立場ではなく、見る側聞く側参加する側の立場に立ち「なにをどう伝えるか」を、改めて考えなければならないと感じました。

お求めは

たくさんのふしぎ編集部さんのツイートを追記しました。(12/21 14時)

できれば、こどもたちが自分で本を買える書店が地域に残るよう、地域の書店さんを通じて購入いただければと思います。

土木技術者も読みたい児童書

引き続き「土木」に関連するこども向けの本を大人向けに紹介していきたいと思いますので、絵本クラスタ・児童書クラスタのかた、絵本・児童書の出版社の中の人のみなさま、土木・建機・防災など、弊会の方々が興味をもちそうなオススメの絵本・図鑑・児童書があったら「#土木の本」のタグをつけて、noteやtwitterでご紹介ください!twitterDMで情報をお送りいただいても結構です。

またこれまで投稿していた「土木技術者も読みたい児童書」シリーズと、「#土木の本」で投稿された記事をまとめたマガジンを作成しました。不定期掲載ですが、マガジンフォローもお願いいたします。

noteの記事は「土木技術者も読みたい児童書」マガジンに掲載させていただきます!ぜひぜひ、さまざまな児童書をご紹介ください。


中の人より:
本記事、200本目のnote記事ということでバッジをいただきました。
引き続き、よろしくお願いいたします。

国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/