帰国子女vsSAPIX(ペーパーテスト至上主義)に関して考察してみた

今回は、帰国子女とSAPIXに通って中学受験をする場合で、どちらの方が総合的に有利なのかに関して考察してみたい。
ちなみにこれはSAPIXでなくても良い。日能研でも四谷大塚でも浜学園でもどこでも良いし、別に中学受験に限定せず、高校受験でも良い。
後者は要はペーパーテスト主義の中で学歴を獲得していく者を指す。

一方で前者は帰国子女と言う肩書を活かして、帰国子女枠で中学受験を乗り切ったり、大学受験でもAO入試などで「英語が話せる」を活かすような進路である。
勿論、両者には重複がある。つまり帰国子女ではあるが、普通に中学受験や高校受験をして、大学受験も一般入試で突破するようなパターンである。
かく言う、筆者もこの重複パターンである。筆者は幼少期を海外で過ごし、その後は普通に高校受験をして、大学受験も一般入試で合格した。

今回は、両者を条件、環境、受験、就活、社会人生活と言う観点で比較してみたい。
更に、最後に筆者からペーパーテスト至上主義に対する考え方を述べたいと思う。

【条件】
まずもって帰国子女と言うのは、誰でもがなれるものではない。両親のどちらか(多くの場合は父親)が海外赴任をする必要があり、それについていくという幸運に恵まれる必要がある。
筆者がこれまでに見てきた帰国子女の父親は、多くの場合、以下のような条件を満たしていた。
・学歴は最低でも、マーチ、関関同立
・一定程度の英語力を有する(ペラペラである必要は全くない)
・日系企業勤務(外資系は、海外駐在に行きにくい)
・業種としては重厚長大なメーカーや金融機関(銀行、証券、保険、政府系金融機関等)、総合商社
・専門職、技術職ではなく文系総合職(理系は少なく文系が多かった)

この条件を満たしており、かつ自身が小学生~中学生くらいの年齢で海外駐在をする必要があるので、割合で見ればかなりの幸運な存在であることが分かる。

一方のSAPIXを始めとした中学受験勢はどうだろうか。これはまず、首都圏や京阪神更には名古屋、福岡等の大都市圏に生まれる必要がある。
それより地方になると、中学受験をするものはかなり少数派になる。
但し、帰国子女と違ってあくまで一定程度の金額さえ積むことが出来れば、別に父親が大手企業に勤務している必要もないし、海外赴任する必要もない。(一定程度の幸運には恵まれる必要はあるが)中学受験は誰でも参入できるし、参入さえしてしまえば、そこから後はペーパーテストでの殴り合いになる。世帯年収が2000万を超えている家庭の子息に、世帯年収500万のものがペーパーテストで勝つなんてザラにあることだし、そこに金銭的なものは関係ない。

次に高校受験勢はどうだろうか。ここになると、基本的に中学受験をしなかった日本人は全員参戦することになるし、わざわざ高いお金を払って受験塾に行く必要もない。更に言うと、別に都会に生まれる必要もない。
内申点と言うネックはあるものの、中学受験よりも更に平等な世界である。

条件と言う観点で見ると、帰国子女は一番ハードルが高く、本人の能力ではなく、運に恵まれる必要がある。
中学受験も一定程度の条件を満たす必要はあるが、帰国子女よりははるかにハードルが低く、高校受験では更にハードルは低くなる。

【環境】
これは、帰国子女と言っても住んでいた国によるだろう。そもそも英語圏ではない国も存在するし、治安面や衛生面で恵まれない国も存在するからだ。
但し、海外駐在の場合は基本的には、会社がかなりの福利厚生を準備してくれるので、あまり劣悪な環境に置かれることはないだろう。
また通常の学校生活を送っているだけで英語を話せるようになるというのも大きい。これはどれだけ日本でインターなどに通ったとしても敵わない部分なのではないか。
学習面も実は厳しくない。日本人の多くは勘違いしているかもしれないが、実は日本人の学力レベルは世界トップクラスと言っても差し支えないだろう。筆者が通っていた現地校でもトップを独占していたのは日本人と中国人であった。アジア人は特に数学などの理数系の能力でかなり優れていると思う。東大の理系数学は、本当に世界で一番難しい数学の試験なのではないか。
また今はどうなっているか知らないが、日本人であるからと言って、馬鹿にされるみたいなことも一切なかった。(子供だったからかもしれない)

一方で、中学受験勢はこれはかなり勉強する必要があるので大変だろう。
筆者は中学受験をしていないのでその過酷さに関して語ることは出来ないが、経験者はおしなべてしんどかったと言うので、過酷であることは間違いない。
とは言え、ずっと日本にいることが出来るため、日本社会で生きていくには必要な協調性や社会性を身に着けることは出来るし、何より日本は物価も低水準で治安も良いのでこちらも環境は決して悪くない。
人脈と言う観点では、帰国子女は帰国後はバラバラになるのに対して、SAPIX勢であれば、少なくとも同じエリアにいる可能性が高く、維持できる可能性が高い。

【受験】
これは中学受験、高校受験、大学受験で分けて考える必要がある。

中学受験:中学受験の場合は、帰国子女はそもそも帰国のタイミングなどで参戦出来ないかもしれない。筆者は、地元が田舎であったので、そもそも中学受験をするという発想もなかったし、帰国したタイミング的にも厳しかった。更に中学受験では入試科目に英語が無く、国語、理科、社会は海外で学習する内容と日本でやる内容では全くもって異なるので、帰国子女はむしろ不利だと思われる。
帰国子女入試もあるみたいだが、これは首都圏の中学校でしか存在しないのではないか。少なくとも関西圏では、一部大学の付属校でしかなかった。

高校受験:高校受験では明確に帰国子女は有利だ。英語が入試科目に導入され、他の生徒の英語の学習歴が短く、帰国子女に追いつけないことが背景にある。首都圏でも開成高校に高校受験で入学する生徒の多くは帰国子女が占めると言う話は聞いたことがある。更に早慶の付属は、英語の配点が高く、かつ上位層が中学受験で抜けているので帰国子女が一番合格しやすいのは、高校受験とも聞く。
関西は相変わらずの理系科目重視なので、英語で1点突破できるところは殆ど存在しない。関西は、国公立の医学部が多く、とにもかくにも理系重視の風潮がある。筆者が通っていた高校でも帰国子女は学年で片手で数える程度しか存在しなかった。
医学部がペーパーテスト至上主義な所以であるとは思うが、関西の高校の方が首都圏よりもはるかにペーパーテスト至上主義の側面が強いと思う。
私立受験、推薦、AO、これらは全て邪道扱いされていた。とにもかくにも国公立至上主義が強かった記憶がある。
筆者も例に漏れず、高校在学中にペーパーテスト至上主義に染まってしまった。(これが後の大学生活更には就活、社会人生活にかなりの悪影響を与えるのだが。。。。)

大学受験:これは受験する大学によると思う。筆者が見てきた感じでだとい私立文系は明確に有利、東大、一橋は少し有利、京大、東工大、阪大などの上位国立になれば殆ど関係ないといった世界であると思う。
現に筆者の帰国子女仲間も大半は慶応や上智、更には関関同立のどこかにおさまっていた。
AO入試や推薦入試では、そもそも帰国子女を優遇しているところがあるし、帰国子女入試も存在する。
また早慶を筆頭に、私立文系ではどこでも英語の配点が高いし、首都圏の国立である東大と一橋でも英語が出来れば一定程度有利である。やはり、首都圏は全体的に英語がものを言う世界なのだ。

関西を含めた国立の上位大学への進学実績と言う観点ではSAPIX勢(中学受験勢)の方が明確に上だと思う。ただし、SAPIX生の進学先の中央値はマーチと言われているので、そこに最低でも殆どが進学することが出来ている帰国子女はある意味、物凄くお得なのかもしれない。
イメージとしては、以下のような序列になっていると思う。

帰国子女兼SAPIX≻SAPIX優秀層≻帰国子女≻SAPIX中間層≻SAPIX下位層

帰国子女兼SAPIXで中学受験をして首都圏の進学校に進学出来たものは、高確率で東大にまで辿り着いているイメージである。

【就活】
就活は高校受験と同じか、それ以上に帰国子女が有利になる局面である。
外資系企業や日系大企業は英語が出来る人材がものすごく欲しいらしい。仕事の他の実務的なところは、入社してからでもキャッチアップ可能なので、英語だけは出来ていてほしいという事なのだろう。
筆者の周りの帰国子女の友人も皆揃って大企業や外資系に進んでいる。

恐らく帰国子女の方がSAPIX生よりも就職先は良いはずだ。基礎学力は、後者の方が高いはずなのに、ビジネス社会の入り口では帰国子女の方が評価されてしまうのは何とも複雑な気持ちである。
ペーパーテスト至上主義はここで、早慶や上智の帰国子女に敗北してしまうのである。
これが、ペーパーテスト至上主義で生きてきたのであれば、そのまま東大ではなく医学部に行くべき理由の一つなのだと思う。
折角SAPIXや東大受験を頑張ったのに、その後の就活では、英語だけやってきた帰国子女に負けてしまうのは何とも勿体ないし、更に日本では新卒で入った企業で労働市場での格が一定程度決まってしまうので逆転も難しい。
大学受験と就活で一気にゲームチェンジが生じてしまうのである。
ペーパーテスト至上主義は、そのままそれを貫き通して医学部や司法試験、会計士などの試験一発の世界で生きるべきである。

筆者は就活を行った際に、帰国子女であることは殆どアピールすることはなかった。海外が別に好きではないので大学時代は一度も日本を出たことが無かったので、グローバル経験をアピールすることが出来なかったからである。
筆者が少しでも大学在学中に海外経験をして、グローバル経験をアピールできれば、就活の結果は違ったものになっていたかもしれない。

ちなみに帰国子女が一つ就活を行う上では罠がある。
それは筆者を見ていれば分かるのだが、帰国子女であっても発達障害や陰キャラではダメだという事である。
何故なら帰国子女を採用したい企業が期待しているのは、帰国子女の英語のスピーキング力や多様性、積極性であり、発達障害が抱える拘りやペーパーテスト至上主義、コミュニケーション能力の低さ、陰キャラ要素と言うのは、企業が求める帰国子女像の真逆を行くものだからだ。
帰国子女と発達障害(特にASD)は極めて相性が悪い。筆者はペーパーテスト至上主義を活かしてそのまま医学部に進学すべきであったのだ。もしくは会計士辺りが良かったかもしれない。

【社会人生活】
ここにきても帰国子女はやはり英語が話せるので有利ではある。
但し帰国子女の場合は、それまでの人生でそこまで勉強していない者も多いので、実務能力が怪しいものが一定程度存在する。また日本社会で必要な協調性や社会性に乏しいものも存在する。
但し、どこの企業でも帰国子女が集中的に集められるグローバルなんちゃら部みたいなのが存在するのであまり問題にならないかもしれない。
何より帰国子女というだけで泥水をすするようなどぶ板営業をしなくてもよいというのは大きなメリットかもしれない。
ちなみにこのようなグローバルなんちゃら部は、出世の本流ではないことが多いので、帰国子女の優位性はここで消失する。
やはり社会人生活で一番重要なのは、英語能力ではなく実務能力なのだ。
また帰国子女はあくまで企業組織で生きていく上では有利ではあるが、その外の世界、つまり起業家や医者を筆頭とした専門職の世界では全く関係ない。サラリーマンと専門職を比較すると、後者の方が職業寿命が長いことが多いので、やはり英語だけで生きていくことには限界があるのだ。
帰国子女が通用するのはあくまでエリサラ的な価値観の世界のみである。

ここまで述べてきて、やはり帰国子女は現在の日本社会では、様々な局面で有利であることが分かる。帰国子女になれるか否かは運の要素が大きいので、帰国子女がずるいと言われるのも仕方ないかもしれない。
それを踏まえると、やはりペーパーテストは(勿論生育環境の格差はあるが)、かなり平等な世界である。
出身も世帯年収も、これまでの教育歴も何も関係ない。
ただ数学の難しい問題がどれだけ解けたか、どれだけ確り勉強机に向かったかが評価される世界である。ペーパーテストは批判されることもあるが、これほど平等でクリアな世界はないと思う。
昨今は少子化に伴い、推薦やAO入試が幅を利かせているが、これらの選抜方式の方が人生経験がものを言い、それは結局のところ親の経済力に依存してしまう。
これでは、「持たざる者」が逆転することは難しい。
また社会に出てからも勉強する才能は一定程度重要である。特に今後ジョブ型が進む世界では、その重要性が高まるかもしれない。

やはり、ペーパーテスト一本で人生を逆転出来る世界線はこれからも存続するべきであるし、そうあって欲しいと願うばかりである。

(追記)
結局のところ、イブリースさんの以下の記事でも指摘されている通りで、地方出身(非首都圏出身)であれば、帰国子女であれどその優位性は首都圏出身の帰国子女ほど活かせないことが多いし、活かせたとして人生トータルで考えれば、大人しく医学部に行った方が人生の幸福度は間違いなく高い。
筆者の場合は、高校のペーパーテスト至上主義の乗っかって、そのまま医学部に進学しておくべきであったが、中途半端に帰国子女であったので、東大の方を選択した(してしまった)

地方の医者は言ってみれば地方の名士。
尊敬もステータスも安定も金銭的な報酬も家族も全てが手に入ると考えて問題ない。
就活で早慶の帰国子女にボコボコにされ、東京でラットレースに参加するよりも遥かに良い人生だと思うのは筆者だけだろうか?