優秀な慶応文系卒と平凡な東大文系卒の違いとは何か?

最近、学力調査に関する面白い記事を読んだ。
筆者が愛読している統計分析家「よはし」さんのブログである。

内容の趣旨としては、「慶応文系の中で東大文三に合格出来るのはどの程度か」を統計的手法で分析したものである。
結果としては、ブログの方も参照して欲しいが、凡そ7人に1人は合格出来るとのことだ。
慶応文系と言っても慶応法・経済~商学部・文学部・SFCでは偏差値が結構異なるので、法や経済であればもっと割合は高くなるだろう。

筆者が受験した時も、文一や文二には落ちてしまったが、文三に出していれば合格した点数で結局慶応法や経済に進学した学生は結構いたので、慶応法や経済の上位層と文三のボーダー層はそこまで変わりないと思う。
勿論上位層が厚いのは文三の方だと思うが。(ただここに慶応内部生の上位層を考慮しだすと話はややこしくなる)

ただ逆に言うとこの「7分の1」という数字からは、以下のような主張も導かれるはずだ。
「東大文系生は8割の慶應文系生より高い学力を有する」ということだ。内部生を入れても結果は同じはずで、あくまで学力の平均値に限っていえば内部生と外部生の平均は殆ど変わらないはずだからだ。
慶應経済や慶應法に限定であれば、この数値は6割とかに低下するはずである。
恐らく東大生と慶応生を学力順で上から並べてみても、結構きれいに東大生の学力カーブの方が慶応生のそれよりも右側に来るはずだ。また東大生は、上は突き抜けて成績が良い学生も存在するので、グラフの右側は分厚い分布となっているのではないかと思う。
例えば文二の中で平均的な学力を有する学生であれば、あくまで学力面に限って言えば、慶応文系の中で上位1~2割には確実に入ってくるはずである。
それくらいあくまで受験生の段階では、東大と慶応の学力差は顕著だと思う。つまり平凡な東大生であっても、殆どの慶応生よりは学力面では上回っているはずなのである。

では、社会人になって周囲を見渡してみたときに受験生時代の学力順位がきれいに引き継がれているだろうか?
答えは間違いなく「No」である。
ビジネスマン優秀度ランキングみたいな指標が仮にあったとして、東大卒の寡占状況になるとは到底思えない。
平凡な東大文系生と優秀な慶応文系生を比較すると、明確に後者の方が社会的に「格上」と見なされる職種に就いているケースが多いはずである。またこれは優秀な東大卒と優秀な慶應卒でも同じだ。優秀な東大卒であっても、慶優秀な慶応卒の前ではそこまで実力差はないと考えられる。彼ら(慶応卒)のビジネスマンとしての完成度には、殆ど違いがないと言える。
実際にLinkedln等のプラットフォームを見ても外資系金融やIT等は結構な割合が慶応が占めている。東大の院卒!と思っても学部は慶応だったりする。
勿論慶応の方が一学年の人数が東大の倍は存在するので、単純比較は出来ないのだけれども、それでも明らかに受験生の頃のような差は存在しない。
金融業界で働いていても、所謂フロントの花形部署(特に投資銀行部門)のマジョリティーは慶応文系卒が占めていると感じることが多い。
東大卒はむしろ、リスク管理や経理、経営企画等のコーポレート系の部署にいる印象がある。

勿論社会に出てからの活躍度は学力だけでは決まるものではないので、そんなん当たり前だろうと言われたらそれまでなのだが、今回のnoteではその辺りをもう少し解像度高く考えてみたいと思う。

以下が筆者の独断と偏見で考える、優秀な慶應卒にあって平凡な東大卒にはないものであり、これらのいくつかが揃えば、受験生時代の学力差なんてすぐに吹き飛んでしまう。

1.情報感度が高い
これはかなり重要な能力である。
金融でもコンサルでもそうだが、優秀な学生が目指す業界はいずれも情報産業である。競合他社と比較した際に提供できるサービスの内容自体には殆ど差はない。例えばM&Aアドバイザリー業務であれば、どこの投資銀行を使っても殆ど同じサービスを享受できるし、何ならM&A単体のサービスであればブティック系のファームやFASでも問題ない。ではどこで差がつくのかという点を考えると、案件遂行時に顧客に対して提供できる情報の質と量とスピードであると考える。公開はされているが、顧客が気づいていない情報をどれだけタイムリーに提供できるかという点は顧客からの信用を獲得する上でかなり重要なポイントである。
その点、優秀な慶応卒は平凡な東大卒より情報感度が高く、あらゆるところから情報を取ってくるのが上手いと思う。アンテナを高く持つというのはビジネスにおいては非常に重要だ。そしてこの慶応卒の情報感度の高さは何からもたらされているかという点で考えるとそれはやはり後述する人脈形成の上手さであったり、変なプライドが無く人をうまく頼ることが出来る点があると筆者は考えている。
勿論SNSを有効に活用したり、情報端末を適切に使いこなすことも情報感度を高める上で有効である。
一点補足すると、やはりこの情報感度と言う観点で一番優れているのは慶応の内部生である。首都圏出身ゆえに豊富な人脈を有し、自分自身の両親等、幼少期から色んなエリサラを見てきていることもあってか、処世術に優れていることが多い。

2.就活への力の入れ具合
良いキャリアを形成していく上では、実は新卒で入社した一社目はかなり重要である。本当の最終学歴は、卒業した大学ではなく、実は一社目で入社した企業そして職種である。社格が高く、自分が進みたい方向性に合致した職種に新卒時点で就けるか否かはかなり重要である。
そしてこの「新卒でどこの企業に、どのような職種に就けるか」は就職活動の力の入れ具合によってかなり変わってくる。
筆者が就職活動を行っていた時でさえ、早慶の優秀な学生は早期からインターンシップに参加しており、その分インターンシップでの立ち振る舞いもそつがなく、面接での受け答えも上手であった。また学生時代の前半でも就職活動で活きるような内容を確りと経験している者が多かった。少し功利的だと感じる部分もあるが、ここで失敗したらその後の40年近い職業人生に響くので、賢い選択ではある。
またこれは優秀な東大生も積極的に参加してはいるが、優秀な慶応生は積極的に就活コミュニティのような団体にも所属している。ここでは就活につながるような有益な情報やノウハウをゲットできるようだ。
その一方で、平凡な東大生の多くは、受験勉強の反動からかサークル活動にのめり込み過ぎてしまったり、進学振り分け終了後に一度単位取得がリセットされるなどの関係で、あまり就職活動に身が入っていないものも多い。
特に可哀そうだと感じたのは法学部で、彼らは普段のテストがかなり重く、また単位取得に追われる時期が就職活動ともろに被ってしまっていたため、民間希望の東大法学部生はあまり就職活動に時間を割くことが出来ず、結果的に東大法学部の名にふさわしくない企業に進んでいる者が多かった印象である。
その点、まだ東大経済の方が遥かに就職活動に注力しやすいであろう。
こうしたこともあってか、就活の時点で既に逆転されてしまっている東大生も多い。

3.人脈構築と人を頼る力
またまた就職活動をしていた時の話になってしまうが、慶応生の優秀層を見ていて凄いなと感じたのは、彼らの人脈構築能力と人を頼る力である。
慶応の優秀な学生同士で就職活動の情報を交換し合っていたし、OB訪問も臆せずガンガン行っていた。その点東大生の就職活動は少し異質であり、情報交換はあまり積極的に行わず、基本的に個人プレーで行うものが多かった。OB訪問もあまり行っていなかった。少しこういった活動を小ばかにしていたのかもしれない。
ある意味、公開情報のみで行う受験と、そうではない就職活動ではプレースタイルを少し変える必要があるのだが、東大生は過去の成功体験や無駄なプライドに引っ張られて、「人をうまく頼る」ことが出来ないのではないかと感じた。
そしてこの人脈構築能力や人を頼る能力は社会人になってからもかなり重要な要素である。巷では、英語やプログラミング等のハードスキルばかりが喧伝されるが、実際にはこういった見えないソフトスキルの方が組織で成り上がっていく上では重要である。便利屋として若手~中堅の年次で社内で活躍したり、ジョブホップする上ではハードスキルの方が重要であるが、そこから更に上に行くにはソフトスキルの方が重要である。
慶応には三田会なども存在する。東大にもそういった同窓での集まりもあるとは思うが、そこに積極的に参加しているという話は周りでは聞いたことが無い。東大ほど人間関係が希薄な集団もなかなか存在しないだろ。
会社でも東大卒の先輩が同じく東大卒の後輩を可愛がるところは見たことが無い。

4.社会人としての基本動作の徹底
これは書いている筆者自身が耳の痛い話ではあるが、身だしなみや言葉遣いなどの基本的な動作である。特に身だしなみはとても重要な要素であり、身だしなみが良く、清潔感に溢れているだけで優秀そうに見えるし、その逆もまた然りである。髪をセットするだけでもかなり印象は違ってくる。

慶応卒の場合は、これらの基本動作も徹底している方が多い。変に斜に構えていないので、素直にこれらの動作を身に着けることが出来るのであろう。
その点、東大卒の場合はこれらの基本動作を少し小馬鹿にして行わないものが多い。(筆者も含む。面倒くさいという気持ちが強いが)

5.実務的なスキルの早期獲得と積極的な転職によるキャリア構築
これは先ほども述べた通りでサラリーマンがキャリアの浅い段階で良いルートに乗るには総合力や教養よりも実務的なスキルや一点突破のスキルが重要になる。(但し先ほども述べたようにマネジメントになるには、それだけでは足りなくなる)。受験の頃のイメージで言えば、5教科9科目が満遍なく出来るよりも、例えば英語が抜群に出来るといったイメージだ。

実務的なスキルとは何か?と考えた際に真っ先に上がるのは、英語力やITスキル、会計、法律の知識であろう。
この点、英語に関しては慶応の学生は帰国子女や留学組の多さから得意なものが多く、会計・法律に関しても内部組は高校時点から準備出来るので幾分有利である。高校時代から会計の勉強を始め、在学中に会計士試験に合格した慶応生にキャリアで勝てる東大卒はそう多くは無いのではないか。
ITだけは、数学的な頭の使い方が必要なので、東大生・卒に有利かもしれないが、そのような分野においては東大理系を採用すれば事足りるので、東大文系生はここでも慶応生に優位に立てる訳ではない。

また転職を下手に重ねるのはまだまだ日本社会ではかなりの悪手なので、おススメ出来ないが、慶応卒の方がリスクを取りながらもキャリアアップの転職を東大卒よりも成功させている気がする。
というか東大卒でJTCに入社した者は驚くほど転職しない。イブリースさんが提唱した「東大卒JTC余生論」からも分かる通り、JTCはそもそも東大卒にとっては余生なので、そこまでキャリアに興味がないのかもしれないし、東大卒はその肩書から配属で優属されて、現部署に不満が無いのかもしれない。(ただ結果的には、転職しない方が正解かもしれないが、それは数十年後にしか答えは分からない)
Linkedln等の媒体を積極的に活用しているのも慶応卒が多い印象だ。
彼らは若い段階で実務に直結するハードスキルを身に着け、それらのスキルを持って積極的に転職し、キャリアを構築している。

6.変なプライド拘りのなさと斜に構えていない
これが東大卒の一番の弱点であろう。まず一定程度拘りを持っていないと東大に合格出来るレベルの学力を身に着けることは難しい。中には、一部単に周囲に勝ちたかった、モテたかったといった俗な理由で東大に合格してしまう学生もいるが、それだけではなかなか難しい。やはりどれだけ学問に興味が無くても一定の拘りは必要である。
ただこのような拘りは、サラリーマンとして生きていくには邪魔でしかない。特に部署を自分で選択できないJTCにおいては、このような拘りのため部署配属がうまくいかないと、東大卒はやる気を失ってしまうことが多い。また東大に合格した過去の成功体験に引きずられてプライドも変に肥大化してしまっている者も多いが、このようなプライドもサラリーマンとして成功するには邪魔でしかない。
これは何度も当該ブログで指摘しているが、サラリーマンとして成功する上で一番重要なのは、当たり障りのない対人関係構築スキルである。
その点、(少し失礼と捉えられてしまうかもしれないが)慶応卒の方で変な拘りはプライドを有している者は少ない。
良好な対人関係構築スキルと仕事を下手に選り好みしないことによって慶応卒は組織の中で順調に出世していくのである。

また東大卒の中でJTCに来るものは、大学時代の挫折経験や不本意就活の結果、中には(筆者のように)少し歪んでしまったものが一部存在する。
これこそがまさに「東大卒JTC余生論」なのだが、彼らは従順に目の前の与えられた業務に集中出来ない上、更にはなぜか転職もしない。そうこうしている内に気が付いたら30代になってしまったという人が結構な人数いると思う。
その点、慶応卒の中には、一部東大に落ちて慶応に進学した者等は挫折感を抱えているケースもあるが、基本的にはそこまで人生で大きな挫折を味わうことなく、つまり割と綺麗なレールに乗ってそのままJTCに入ってくるものが多い。当然だが、浪人も留年もせず、学生時代は様々な経験をして、そのまま就活にも注力して順当に社会人になるケースが多い。実際、筆者が新卒で入社した会社にも慶応卒は大量にいたが、内部生も含めて彼らの多くは綺麗なレールに乗った人生を歩んできたものばかりで、最初は同期に対して結構な劣等感を感じたものだ。
このような若手の方が従順で目の前の業務にも確りと取り組む傾向があるので、どうしても後者の方が社会人として活躍する可能性が高い。(性格診断には疎いのであまり断定的なことは言えないが、慶応卒はS型多い一方で、東大卒はN型が多いのも影響しているのかもしれない)

7.体力やルックス等の先天的な能力
体力に関しては、働き方改革が一定程度浸透したことで昔ほどは必要なくなってきたかもしれない。
それでも依然として優秀な学生が殺到するような業界では長時間労働が要求される。コンサル、投資銀行、総合商社いずれをとっても激務な業界であることは間違いない。
これは筆者の私見、偏見に過ぎないが東大卒はあまり長時間労働を好まない傾向がある。勿論筆者が見てきた東大卒がJTCに属する者が多いので、サンプルに偏りがあるのかもしれないが、それでも東大卒は明らかに他の大学の出身者と比較して早く帰宅している。恐らく単に体力が無いのだろう。(筆者自身がまさにこの一味である)
体力と言うとこれまた小馬鹿にされるかもしれないが、社会人として活躍するには、かなり重要な要素である。この点、慶応卒の方が長時間をこなせる傾向にある。先天的な能力と言うよりも、学生時代に運動系の部活に所属していて、確り体力を身に着けてこともあるのかもしれない。
また最近では、東大生・卒のルックスも幾分改善されたので、慶応卒とそん色ないかもしれないが、それでも平均を取ると慶応生の方がここはやはり優れている印象である。ルックスは就活においても重要であるし、普通に普段の業務を行う上でも重要な要素である。
この点でも優秀な慶応卒は平凡な東大卒よりも明らかに優れている。


結局東大卒と慶應卒の間に存在した学力差は上記の要因によって消失してしまうし、何なら余裕で逆転される。
結果、いくら受験生時代に学力面で大きなリードを取っていたとしても、それは大学受験を機に一旦清算され、そこからまた一から勝負である点は、東大入学者そして東大卒が肝に銘じるべき点であると思う。
時間があれば、東大卒が慶応卒に対して優位に立てる職業は何かという点も考えてみたい。