実家貧乏勢の東大進学を考察する

慶応とか青学と言うと何となくではあるが金持ちの印象がある。
金持ちでないと大学時代をエンジョイできなかったり、そもそも金銭的な問題で選択肢から外さざるを得ないといったことがよく言われる。
その一方で東大はどうだろうか?国立なので学費は私学ほど高くないし、貧乏人でも何とかやっていけそうなイメージがある。賛否両論あるとは思うし、あくまで筆者の意見に過ぎないのだが、実態としては東大は貧乏人にあまり向かない国立大学であると思う。今回の記事では、貧乏人の東大進学が厳しい道のりになってしまう理由と貧乏人に向いている進路はどこなのかに関して考察してみたい。

1.学生時代が金銭的に苦しい
東大は大学一二年は駒場、三年生以降は本郷キャンパスに通うことになる。
読者の多くは知っていると思うが、駒場は目黒区、本郷キャンパスは文京区に所在する。駒場は渋谷に歩いて行ける距離で、京王井の頭線で多くの学生は通学する(殆ど100%井の頭線の駒場東大前駅を使用しているのではないか)。まず駒場の近くに住むことはかなり難しい。というのも駒場を囲むのは都内でも屈指の高級住宅街(松濤、富ヶ谷、北沢等)であり、そもそも一人暮らし向けのアパートは少ない。当然、これらのエリアに下宿している者は少なく、平均的な家庭の東大生は井の頭沿線沿い(東松原、永福町、久我山等)に住んでいる。
井の頭は世田谷区、杉並区を通っており、日本の他の地域と比較するとどこに住んでもかなり高い。筆者が住んでいた狭小1Rでも月に8万くらいは要した。自転車通学も不可能ではないが、事実上不可能な遠さであった。筆者の高校においては、大多数は京大に進学していたが、多くが実家もしくは大学のすぐ近くの下宿先から自転車で通学していたので、今思えばかなり損した気がする。
実は月に8万出ていた筆者はマシな方で、貧乏家庭の場合は、当時は三鷹寮と言う牢獄のような寮に住んでいた。こちらの住環境は本当に厳しく、筆者の友人は入学早々ここが辛すぎるという事でメンタルを崩していた。
筆者も訪れたことがあるが、牢屋の方がましなのではないかという環境だった(今はどうなっているのか分からない)。駅からも遠く、吉祥寺駅までバスで行かないといけないといった環境であった。
当然だが多くが非首都圏出身の学生で、何とか公立高校から東大に這い上がってきたといった学生が太宗を占めた。

更にこの住環境の厳しさは本郷キャンパスに進学してからも続く。本郷の場合は、立地自体は文京区で、こちらは都内でも屈指の高級エリアであるが、駒場よりましだと思えるのは、本郷から東部に進むと荒川区、北区、台東区になるため、貧乏学生の多くはこのエリアに住んでいた点である。知り合いで多かったのは、北区と荒川区だ。北区の場合は、南北線が、荒川区の場合は、千代田線が使用できるので、東大にも通学しやすい。
特に駒込、巣鴨、田端、西ヶ原、町屋辺りはよく聞いた。
ただ当然だが、本郷周辺に住んでいる学生もおり、本駒込、白山、本郷三丁目、後楽園辺りが多かった記憶だ。これらは文京区なので、当然だが家賃はかなり高い。筆者は引き続き狭小1Rに住んでいたが、家賃は9万ほどかかった。これに生活費がかかってくるので、学生であっても月に15万くらいは必要になるだろう。
このように東大の近くに住んで一人暮らしをしようと思ったら、いきなり月に15万程度の出費を強いられる。このため、貧乏学生はバイトを強いられることになるが、これがまた学生時代におけるネックになってくる。

2.お金が無いので時間貧乏を強いられる
端的に言うと、どうしても親の仕送りだけでは足りなくなってくるので、バイトをする必要が出てくるのであるが、これが時間貧乏のもとになる。
当然東大生の場合は、家庭教師の選択肢があるので、比較的高単価で稼ぐことが出来るのだが、それでも時間貧乏であることに変わりはない。
またこれは地方出身かつ高校受験組の身として、声を大にして言いたいのだが、単価の高い(=中学受験組の)家庭教師先は、基本的に都内の中学受験組を望むため、筆者のように非首都圏出身で高校受験組は単価の安い高校受験組の家庭教師先にしかありつけなかった。また鉄縁会やサピックスの教師なども全く縁がなかった。中学受験組と高校受験組では、やはり家庭の羽振りの良さの違いは明確にあったと思う。中学受験組と高校受験組では、親の熱心度合いもかなり違うという事情もある。
家庭教師はまだ時間貧乏になりにくいが、塾講師の場合は準備などで時間が取られるので、かなり時間貧乏になりやすい。

筆者のクラスの桜蔭や開成卒等の実家暮らし勢が高級な鉄縁会のバイトや人脈作りにも役立つ東進のバイトが出来る一方で、一人暮らしの筆者が時給2000円程度の塾講師をしていたのは本当に世の不条理としか言いようがなかった。
現に筆者も、週に10時間程度はバイトに取られていたと思う。貧乏家庭出身であれば尚更時間を取られるであろう。ここでも富める者はますます富む一方で、貧乏人はますます貧乏になるという構図が存在すると思う。
またこの時間貧乏は、進学振り分けに明確に不利に働く。これは言い訳にもなってしまい見苦しい限りであるが、進学振り分けの点数が低いのは軒並み地方出身の学生であった。
受験勉強ほどの強度は必要ないものの、一定の勉強量が要求される中で地方出身の学生が首都圏に実家がある学生と対等に戦うこと自体が無理ゲーであった。開成卒は大量に文二に送り込むがその中で、経済学部に進学できない学生は殆どいない一方で、地方出身の学生の多くはかなり苦労していた印象だ。大学に入学して一年目で医学部再受験を考えたが、その背景にはやはり厳しすぎる学生生活があった。
大学一年の時には、ここまで言語化出来ていなかったが、当時から何か違和感を覚えており、社会人を経験することで世の中の構造がより鮮明になってくる中で、ようやく当時感じていた違和感を言語化出来た次第である。
あの時、一年目で東大に見切りをつけて、医学部再受験に舵を切っていれば今頃また違う人生だったのではないかと悔やまれる部分は多分にある。

3.同級生との経済格差
筆者は文一・文二クラスに所属していた。文一には一定程度地方出身の学生がいる一方で、文二の場合は太宗は首都圏の私立出身者で、実家も都内にあるといった構造であった。開成卒は複数人いたが、把握しているだけでも半分は親も東大で、実家は世田谷区にあるといった感じであった。
入学してすぐの五月祭では、出し物の試し焼のためにクラスメイトのタワマンの貸し切り場みたいな部屋に行ったが、実はそこは港区のタワマンであった。当時は「港区」「タワマン」という概念が無かったので、なんか杉並区から遠くてしかもやたら高層ビルに住んでんなーと言った印象しかなかったが今考えてみれば、恐ろしい話だ。(ただ補足しておくと、当時の港区のタワマンは今ほどその価値を認識されていなかったであろうし、実際に資産価値もそこまでなかったと思う)
思い返してみても、そもそも高校受験組自体が少なく、クラスの3分の1程度しかいなかった。またその少ない3分の1のうち、半分強が帰国子女であったので、本当に非帰国子女かつ高校受験組は絶滅危惧種並みに少なかった。(逆に言うと帰国子女での滞在経験があれば、中学受験組と対等に戦えるということでもあろう)
こうやって思い出してみると東大生の親の世帯年収は1000万を優に超えてきてもおかしくないような気がする。どこかが足を引っ張っているような気がしなくもない。あと、開業医の息子はそこまで多くないので上がそこまでいないというのはあるのかもしれない。
このようなバックグラウンドの格差があるので、当然であるが、金持ち組と貧乏組では大学時代の経験にも差が出てしまう。実家貧乏勢は留学することも、何か資格試験勉強に打ち込むことも厳しい。
下宿代月15万*12=180万*4∔学費50万*4=1000万弱を出費してまで東大に地方から来る価値があるのかは真剣に検討した方が良いのかもしれない。(今は物価が上がっているので、これよりも高い可能性が高い)

クラスメイトとは別の話になってしまうが、サークルも結構お金を取られた。夏に行った合宿は4万とかそれくらい取られた記憶がある。今となっては大した金額ではないが、学生にとっては高いのは間違いない。ただそれでも多くの東大生は難なく支払えていたので、東大はやはりブルジョア大学なのだ。

4.苦戦を強いられる就活
時間貧乏を強いられ、大学時代にさして就活でアピールできるような経験がない場合、一番厳しいのは就活であろう。
現代の就活においては、早慶以上の大学であれば、そこからは大学時代の経験(体育会、留学、長期インターンシップ、難関資格合格等)によって差がつくと考えて良い。勿論データサイエンスや情報系等の実利的な学部で、その内容が就職後の職種に直結するのであれば、それは大学時代のその他の「経験」に勝ると思われる。(補足しておくと、理系院卒はそれ自体が「経験」にカウントされるケースも多い)
実利的な学部以外では、大学時代の成績が就職活動に影響することは少ないと思われる。
多くの東大卒はジョブ型の職種に就くわけではないので、やはり大学時代に学業以外でどのような体験をしたかはかなり重要な要素となる。

この点で考えた際に、時間貧乏を強いられ、更に金銭的にも苦しい東大生はかなり劣勢に立たされることになる。
大学時代に留学を済ませ、長期インターンシップを経験した慶応生と学業以外で特に何も経験できなかった東大生であれば前者の方が就活強者となる可能性は高いだろう。

東大の中で実利的な学部に進学すれば問題ないのでは?という疑問が出てくると思うが、残念ながらこれらの実利的な学部はいずれも進学振り分けで人気が高いので時間貧乏を強いられる東大生とは相性が悪いという何とも言えない皮肉が存在する。
ここでも富が富を生むという構造がどうしても存在してしまっている。

5.卒業後も苦しい
ここでようやく苦しい学生時代が終わるのであるが、ここからも苦難の道は続く。
卒業後に関しては以前執筆した以下の記事やイブリースさんの記事を確認してほしい。
ポイントは以下の点である。
・東大を出ると基本的に首都圏で働くことになる
・だが都内の不動産価格は右肩上がりで、地方勢と首都圏出身者で大きな差が最初からついてしまっている
・貧乏勢は英語が出来ないことが多いので、転勤前提のJTCで働くことになるが、これは共働きの支障になりやすい
・結果として地方勢は社会人になっても時間貧乏と金銭的な貧乏が続く
・副次的な悪影響として家庭形成の困難さを抱える可能性もある

このように考えた際に、一体貧乏家庭の秀才はどこに行くべきであったのだろうか。筆者なりに用意した答えは以下の2つだ。

①医学部医学科
これはわざわざ説明する必要は無いだろう。
地方出身者であれば、地元の医学部に行けば良い。以上だ。これ以外にベストな選択肢は考えられない。
また最悪地元でなくとも、地方の医学部が次善の策として考えられる。これらの地方国立医学部ではそもそも学費が安いし、生活コストも高くない。
また「経験」が要求されるような厳しい就職活動は無い。
全国どこの医学部医学科を出ても医者にはなれるので、場所に拘らなくてよいというのは大きなメリットだ。

②最初から学部が確定している大学の実利的な学部
時間貧乏に陥りやすい大学生にとって進学振り分けは脅威でしかない。

そう考えると、進学振り分けがあり、高い家賃を要求される東大は真っ先に選択肢から外した方が良い。
筆者のおススメトップ3は以下の大学・学科である。(いずれもかなりの難関ではあるが)

【一橋大学データサイエンス学部・商学部】
なぜ一橋の経済学部を除いたかと言うと、経済学部は実は商学部と比較して実利的でないからだ。経済学部で学ぶのは、普段の業務では用いないマクロ経済やミクロ経済の数理的なモデルである。
商学部で会計やファイナンスを学んだ方がよっぽど業務に直結しやすい。
ただ、注意点はJTCに総合職で入ってしまうとその後の扱いは他の大学とあまり変わりないものになってしまう点だ。
また言うまでもなく一番おススメはデータサイエンス系の学部である。
データサイエンス関連は人手不足の分野であるだけでなく、色んな分野に応用も効くので、ここを出ていれば、多少「経験」が弱くともカバーできるのはないかと考えられるためだ。多くの企業は新卒でデータサイエンス関連の職種を募集しているが、恐らく現段階では需要に供給が追い付いていない段階である。
また一橋の東大と比較した際の良いところは、
①国立という比較的都内でも辺鄙な場所にある点
②それゆえに家賃の負担が低く、学業に専念できる点
③公立出身者が多く、東大ほど格差を感じにくい点

筆者は学生時代に金融機関のインターンに参加したが、一橋の学生は東大の経済学部よりも三年生の段階では、よっぽど実務的な知識があった。やはり一橋は総合大学ではないだけあって、東大よりも実利的な側面が強いのだ。
参照するソースによっては、卒業後の平均年収は日本で一番のこともある。
正直、貧乏人には下手に東大の文系に行くよりも一橋に行くことをおススメする。

【東工大の工学系(特に情報系や電気系】
東工大も一橋に似た側面がある。こちらも職業訓練校的な側面がある。
注意したいのは、生物系や化学系の学部もあるので、出来るだけ情報系や電気系の学部に進学することである。東工大も一橋と似た側面がある。場所は大岡山にあるため、一橋ほど辺鄙な場所にある訳ではない。むしろ家賃は全国で見れば高い方だろう。ただ大岡山の場合は、東大ほどは都心にある訳ではないので、少し外せば家賃はそこまで高くない。また公立出身者が東大と比べて多く、そこまで華やかな大学生活を送っているわけではないので、学業に専念でき、そこで身に着けた実利的な知識を活かして卒業後も職にありつけるだろう。
筆者も卒業後に感じたことであるが、東工大の学生は学生時代にかなり勉強してきているので、卒業後の社会での評価はなかなか高い。
少し家賃が高く大学近くに住みにくいというデメリットはあるものの、「経験」が要求される就活を回避出来る点において優位性が高い。

【京大工学部】
こちらも東工大と同じだ。
①京都にあるので、東京ほどは家賃が高くない。多くの学生が京大近くに下宿している。
②最初から学部が確定している
③公立出身者も多く、貧乏でも大学生活を一定程度エンジョイすることも可能。
頑張って情報系に行ければベストだ。そうでなくとも、一定程度実利的な学部を出ていれば問題ない。ネックは首都圏にはないので、就職活動がしにくい点だろうか。

ただそうは言っても、ベストは地方国立の医学部医学科だ。
東大はある意味、金持ちの道楽だ。
地方国立の医学部医学科は貧乏家庭に日本国家が残してくれた最後の救済策なのかもしれない。