母と離れて暮らして8年。 今でもよく電話をする。 先日の電話で、母が言った。 「この間は母の日だったし、明日はママの命日だから、お供えにカーネーションを買ってきたんだ。ちょっと量が多かったから、残りを部屋にも生けてみた。どう?」 ビデオ通話に切り替えて画面に映ったカーネーションは、華やかなピンク色。 「、、、でも、亡くなった人には白いカーネーションじゃないと。」 咄嗟に言葉が出た。 すると、母から優しい口調で返事があった。 「白は嫌なの。ママには白じゃないの。私
今、バンコクにいる。 ようやく行動の制限が無くなって自由になった今年の年越しは、バンコクで過ごすと決めた。 念願叶って、出逢って5年が経つタイの友人を訪れている。 平均気温は27℃と聞いて覚悟をしたけど、乾季のこの時期はカラッとした空気と風のおかげで過ごしやすいと感じた。 朝、友人たちが目覚める前に近くの公園を散歩した。 彩豊かなブーゲンビリアが咲き誇る道を抜けて、 日本では聞いたことのない、色とりどりな鳥たちのさえずりを聴く。見たことのない果実がなる木を触ってみる。
旅先でお土産を買う時、 「この人にはこれをあげよう。 素敵なお店があったんだよ!って話しながら渡そう。」 そんな事を考えて、 わくわくしながらお土産を選ぶ。 でも、家に着くと、 なんだかお土産を手放す事が 惜しく思える事がある。 その理由は 相手にはそのときの空気感が伝わらないから。 目で見た景色、街の匂い、音、感動が 100%は伝わらない。 だから、人からお土産をもらったときには、 お土産話を聞きながら、 その空気感を感じてみる。 その人が歩いた景色、手にとった気
師走。繁忙期。 普段の仕事に加えてやってみたい仕事も重なり、バタバタと連勤が続いた。 更に今年は資格の試験も重なった。 ぴりぴり、きりきり。 緊張感のある職場に、痛む心。 好きな仕事をしているはずなのに、 気がついたら身も心もボロボロだった。 パソコンに向かっていると涙が溢れた。 危険信号。 連勤最終日、仕事を終えてほとんど頭も働かない状態で、家に帰った。 「ピンポーン」。 実家の母からの贈り物が届いた。手紙付き。 贈り物を開けると、母が昔住んでいた 遠く離れた土地
先月、仕事で人生で初めて台北に行った。 街は私の思ったよりずっと清潔で、スパイスの効いたお肉の芳ばしい匂いでいっぱいだった。 仕事終わりに、知人と夜市を歩いた。夜市の賑やかさ、街の活気。 しばらく歩くと、突然反射的に鼻を覆い、表情が歪む程の、強烈な獣臭がした。鼻が曲がるような異臭。 尋常でない匂いに、何か死んだ生き物が腐敗しているのでは、と恐怖さえ感じた。 一緒に歩いていた現地の知人は私を見て笑いながら言った。「これは台湾のみんなが大好きな臭豆腐の匂いだ」と。 「
週末の土曜日。 検定が11月に迫っている。勉強しなきゃ。 そう思いながらも中弛みの時期。 昨日から集中できない。 思い切って今日を衣替えと部屋の掃除、断捨離の日にした。 ひと段落したらもう夕方になっていて、 ベランダで紅茶を飲んだ。 ひんやりと寒い、秋の心地よさの中で 温かいバニラとシトラスのフレーバーティーが香る。 調香されているのでは、と思うくらいに心が満たされて、ときめく香り。 飲む前にゆっくり、何度か深呼吸してしまう。 外から聞こえる小さな子供の笑い声に癒され
白露を迎えた頃。 ある香料の記事で、百日紅(サルスベリ)に香りがあることを知った。 その香りはパウダリーなオーランチオール系でほんのり甘く、おしろいを感じさせるらしい。 お花から香りの抽出が難しいチュベローズの香りを再現するときに使用される香りだとか。 そして9月の百日紅は、盛夏に比べて青みが強い香りだそう。 今年は香りの旬を逃した。 おしろいの香りは、鬢付け油の香りとセットで芸舞妓さんを彷彿とさせる。 先日、上七軒で20歳の舞妓さんとお話する機会があった。 「日本
昔から、部屋のなかでガラス越しに見る土砂降りが好きだ。 潔い。心の憂いを洗い流してくれるようで、すっきりとした気分になる。 ペトリコールと、ゲオスミン。 雨の降る前と雨上がりにも、香りがあるらしい。 ペトリコールの意味は、ギリシャ語で石のエッセンス。 その匂いの要素は埃やコンクリート、カビや微生物だと聞いたことがある。 大雨が好きだ。 このまましばらく降り続いて欲しいと願ってしまう。
秋の気配にときめく季節がやってきた。 朝晩の涼しさや落ち着いた空気。 憂いを抱えた日の朝や夕刻でさえ、 秋を感じることで少し心が晴れる。 4つの季節が巡るこの国で いつのまにか秋が1番好きな季節になっていた。 暑さが和らいでくるこの頃になると、実家の玄関のドアから入ってきた心地よい涼風の記憶が蘇る。 同時に、小学生の頃母親が焼いてくれた アップルパイ、一緒に作ったチャイのスパイスに入ったシナモンやクローブの混ざった幸せの香りが蘇り、胸いっぱいに吸い込みたくなる。 帰宅