夜市のにおい
先月、仕事で人生で初めて台北に行った。
街は私の思ったよりずっと清潔で、スパイスの効いたお肉の芳ばしい匂いでいっぱいだった。
仕事終わりに、知人と夜市を歩いた。夜市の賑やかさ、街の活気。
しばらく歩くと、突然反射的に鼻を覆い、表情が歪む程の、強烈な獣臭がした。鼻が曲がるような異臭。
尋常でない匂いに、何か死んだ生き物が腐敗しているのでは、と恐怖さえ感じた。
一緒に歩いていた現地の知人は私を見て笑いながら言った。「これは台湾のみんなが大好きな臭豆腐の匂いだ」と。
「誰がこんなものを好んで買うんだろう。気が知れない。」
そう思うと、買わずにはいられないのがわたし。
早速屋台で揚げた臭豆腐を購入した。
屋台の前で待っている間も、意識が飛びそうなほど強烈な匂いがしている。
上に乗っているキムチと一緒に食べる。
思ったより臭く無いね!と知人に報告している途中で、異臭がしてむせ返りそうだった。
それでも、1回目にして、臭豆腐のおいしさが少しわかった。
3つ4つ摘んで他は全て、臭豆腐が好きの知人に食べてもらった。
不慣れな私の様子に笑い転げる同僚と、
臭豆腐を嬉しそうに頬張る同僚を見て笑い転げるわたし。
日本の納豆のようなものだ。みんなそう言うけど、慣れないものの匂いって、こんなにも刺激が強いもの?
鼻は匂いに慣れ鈍化するというけれど、
自分が何気なく身につけているお気に入りの香りは
どこかの誰かにとってとても辛い臭いなのかもしれない。
もっと大きな話題に展開していきそうなところだけれど、今回言いたいことは具体的な香りの話ではない。
たった1週間の滞在時間で、たくさんの人に出逢った。一緒に働いたメンバーはみんな一生懸命で、誠実で、心の温かな人だった。友人もできた。
台湾という国が、人が、大好きになった。
まだ好きになれない臭豆腐の匂いもひっくるめて、宝石の粒のように、思い出が心の中でキラキラと輝く。
生涯忘れられない時間を過ごしたと思う。
近いうちに、みんなに会いにまた行く予定。
今度はあの匂いが大好きだと言えるようになって帰ってきたい。
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