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まるで『特攻の拓』の世界!RIZINフェザー級戦線の「混沌」は、朝倉未来がつくった

 RIZINのフェザー級戦線が混沌としている。この混沌具合は、さながら『特攻の拓』ばりに、誰が一番強いのかが「決まらない」、相対的な世界である。

 ヒーロー漫画の定石は、週刊少年ジャンプであろう。絶対的なヒーローがいて、そのヒーローの目の前に強敵が現れては、順番に倒し、段階的に強くなっていく。いわば、「直線的」なストーリーというのが、少年漫画のお決まりである。

 しかし、私の記憶する限り、その少年漫画のお決まりを、ことごとく無視したのが、週刊少年マガジンで連載していた、ヤンキー漫画『特攻の拓』である。

『特攻の拓』は、主人公はいるのだが、別に喧嘩が強いという存在ではない。猛者は、その主人公の周囲にいて、その猛者共が、戦国時代さながらに、血と血で争う戦いを繰り広げているのだが、この『特攻の拓』の世界においては、「最強」という「絶対的」な存在がいないのである。

 同じ時代に、マガジンで連載されていた『カメレオン』は、『特攻の拓』同様のヤンキー漫画とはいえ、主人公の前に現れる敵が、段階的に(強さだったりやばさが)レベルアップしていき、前に出ていたキャラは、ヤムチャやクリリンのように、相対的にどんどん弱くなっていくという、ジャンプ式のシステムを採用していた。(ただし『カメレオン』においては、主人公が勝ち抜くのは、強さではなく運であるというのが、これまでのヒーロー漫画との違いはある)

 それに比べて、『特攻の拓』は、そんなお決まりはなく、なんなら、喧嘩はしても、いつも警察の介入などにより中断され、どちらが勝った負けたかという完全決着がつくということがない。いわば、終わりのない戦いの日常、出会ったら衝突の緊張関係が延々と続くという、きわめてリアリティを伴った、画期的な漫画であったのだ。

 いきなり、前置きが長くなってしまったが(笑)、何が言いたいかというと、現在の人気格闘技コンテンツ、RIZINの中でも、とりわけ注目されている階級のフェザー級が、まさに『特攻の拓』状態なのである。

 このRIZINフェザー級の「混沌」世界を作った張本人こそ、新たなカリスマとして君臨しつつある朝倉未来、その人であろう。

 朝倉未来のカリスマ性については、以前にも以下に書いた。

 これまでの、格闘技の世界においては、ジャンプのヒーロー同様に、絶対的な存在が不可欠であった。それが、お決まりであり、そのようなヒーローの存在が、格闘技というジャンルを支えていたといってよい。

 力動山、アントニオ猪木、前田日明、山本KID徳郁、魔裟斗、桜庭和志、五味隆典。ボクシングでいけば辰吉丈一郎、井上尚弥、相撲でいうと千代の富士、貴乃花と、いずれも時代時代を彩ってきた、スーパーヒーローである。このような「絶対的」エースの存在により、格闘技(プロスポーツも同様)の興行というものは成り立つのである。

 RIZINは、このジャンプ方式で、新たな時代の新たなヒーローの創出を必要としていた。そして朝倉未来が、まさに、そのようなヒーローになる「予定」であったのだ。

 実際に、朝倉未来は、華々しくRIZINにデビューし、そのようなストーリーロードを歩んできた。フェザー級の日本人で、活躍できる人間が朝倉未来しかいかなかったというのもあるが、これまでにない、元アウトロー、喧嘩ジャンキーというバックボーンも、「成り上がり」ストーリーとしてファンを魅了するのもあっという間であった。

 Youtubeも開始し、こちらも大成功をおさめ、かつ多くの事業を手掛けたり、『Breaking Down』という人気コンテンツも世に放った。格闘技新時代の寵児として、その名をほしいままにしていたのである。

 ところが、この朝倉未来の包囲網として、RIZINのフェザー級に、さまざまな団体、各国のトップファイターが集結することによって、事態は混沌をきわめたのである。

 まず、朝倉未来のエース君臨を阻止したのが、修斗からやってきた斎藤裕であり、斎藤裕が初代フェザー級王者になった。そうかと思ったら、斎藤裕は、防衛戦で牛久絢太郎に敗れ、チャンピオンがあっさりと入れ替わってしまった。

 その牛久新チャンピオンももた、クレベル・コイケに敗れ、これまた呆気なくチャンピオンの座から降りる。

 それと並行して朝倉未来は、敗れた斎藤裕と再戦しており、今度は勝ち、牛久との再戦でも勝つという、ジャンケン状態になる。

 朝倉未来他、次々と日本のトップファイタ―を打ち破り、絶対王者になりえるかもしれないと期待されていたのがクレベル・コイケであったが、クレベルは王座戦で、鈴木千裕戦で体重超過というミスをおかし、そこから、王座をはく奪される。

 その空位となったベルトをめぐって、再び順当に勝ち上がってきた朝倉未来と、海外の強豪、RIZINでも存在感を出していたケラモフとの試合が組まれた。今度こそ、朝倉未来が王座につくという期待がかかったのだが、なんとここではケラモフが勝利をおさめ、王座はケラモフの手に渡るのである。

 ことはスムーズに進まない。その王座ケラモフ、自国のアゼルバイジャンで開催された、最初の防衛戦で、鈴木千裕にあっさりと敗れてしまう。

 王座についたのは、キックボクシング出身の鈴木千裕であった。

 先の『超RIZIN2』という大舞台で、Bellator世界二階級制覇王者のパトリシオ・ピットブルを破るというアップセット=番狂わせを起こしており、勢いにのっていた。

 鈴木千尋は、ケラモフを破ったのち、日本のレジェンドである金原正徳を打ち破ることによって、防衛に成功している。

 この鈴木の首を狙って、クレベル・コイケ、ピットブル、朝倉未来、斎藤裕らが、順番待ちをしている、というのが現在のフェザー級の状況なのだ。

 現チャンピオンの鈴木千裕は、イナヅマボーイとして、数々のアップセットを実現したことで、不動のエースに王手のかかった状態にあるはずなのだが、朝倉未来ほどの人気がないため、まだまだ、絶対的エースといわれるには、何かピースが欠けている、というのが正直なところである。

 そんな中、7月の開催される『超RIZIN3』で、伝説級の世界的ボクサー、マニー・パッキャオとのドリームマッチが組まれていたのだが、その前に行った五味隆典とのボクシングマッチで拳を負傷し、パッキャオ戦が流れるなど、ツキに見放されてしまっている。

 このように、RIZINフェザー級は(フェザー級に限らずだが)、かつてのPRIDE時代にあったような、絶対的エースの不在によって、混沌をきわめている。

 その混沌自体が、コンテンツとして、ファンを魅了しているともいえるが、格闘技ファンがそのような状態をよしとしているかは、わからない。

 やはり、絶対的エースを待ち望んでいる感はあり、そのプレッシャーは、次のビッグマッチ、『超RIZIN3』の朝倉未来に向けられている、というのはチケットの売行きからも、明らかである。

 朝倉未来は、平本蓮に負けたら引退と公言している。しかし、勝てば、フェザー級トップ戦線に再び食い込むことになるため、ここからさらに、「絶対的存在」の位置をめぐっての戦い、競争が、激しさを増すことは間違いないであろう。

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