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GUTTIの小説

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が執筆した小説を集めています。短編、中編、長編、過去の作品から書き下ろしまで。私
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#お仕事小説部門

赤坂見附ブルーマンデー 第12話:ぜんぜんなってない!

 大手ハードメーカーのブースでは、総勢百名近くのコンパニオンが稼働する。ザ・ゲームショーのような一般客向けのイベントにおいて、コンパニオンはそのブースの「顔」であり、華やかさと女性ならではの魅力も含めて、いかに客を集められるかが重要になる。  ここで重要視されるコンパニオンの能力とは、はっきり言ってしまえば「容姿」である。そのため、女性であれば誰でもよい、というわけにはいかない。  ザ・ゲームショーのような華やかさが求められる現場であればあるほど、コンパニオンの採用ハード

赤坂見附ブルーマンデー 第10話:幕張メッセ、大混乱

 ステージを進行するチームと、会場外で誘導するチームが交わすトランシーバーのやり取りも騒がしくなってくる。 「田村です。スペシャルステージ開始四十分前。各自、状況報告ください」 「恵です。現在、三〇〇名程度の来場者が待機中です。どうぞ」 「高山です。ステージリハは完了しています。あとはゲストを待つのみ。オープンはいつでも大丈夫です」 「桜庭です。シークレットゲストの二階堂彩夢さんですが、あと十分ほどで会場入りするそうです。現在、アパホテルを車で出たようです。どうぞ」

赤坂見附ブルーマンデー 第9話:アニメファン熱狂の祭典

 田村の異動は年明けからということだった。  その田村にとっての、宮戸チーム最後の仕事が、年末に行われるビッグイベント、『アニメ・ファンタジーフェスタ』だった。  アニメ・ファンタジーフェスタ、略称「アニファン」が開催されるのは、イベントの聖地幕張メッセだ。    アニファンは国内人気アニメの人気声優が、ファンサービスとしてステージに登場したり、その場でしか手に入らないアニメグッズなどが販売されたりなど、全国のアニメファンが一堂に会する祭典である。    田村はずっとこの

赤坂見附ブルーマンデー 第8話:すれ違いまくりの純情

   清治とは、過去に一度だけ、互いに口もきかなくなってしまうほどの大ゲンカをしたことがある。   「鳥やす」を出たあと、オレたちはそのまま駅で別れた。清治は歓楽街へと一人繰り出し、オレは東西線に乗ってそのまま帰宅することになった。  日曜の夜ということもあってか、乗客は少なかった。少し酒に酔っていて気が大きくなっていたオレは、座席にどかっと座り、ぼけっとしながら車窓の外を見つめていた。  オレは「鳥やす」で清治に言われた言葉を反芻しながら、そのままなぜか、清治と大ゲンカ

赤坂見附ブルーマンデー 第7話:お前、協調性皆無だったもんな

   週末の日曜日、妻が娘をつれて近所のママ友とランチに出かけるとのことだったので、一人の時間ができた。平日の疲れが抜け切れていなかったので、一日中寝て過ごすのでもよかったのだが、大学時代からの旧友である清治から一年ぶりくらいに連絡があり、飯を食おうよ、と誘われたので、清治と高田馬場方面で会うことになった。  清治とは大学時代に知り合い、ともに映画を志向し、シネマ研究会というサークルにも一緒に入った「シネフィル」仲間である。  清治=「せいじ」と読むのが本名だが、オレは『

赤坂見附ブルーマンデー 第6話:弱小会社の、出世レース

   週の後半戦である、木曜日。オレは朝から、電話をかけ続けている。    都内にあるイベントホール、展示会場、ホテルの宴会場。一日に三〇件近くの施設に連絡をすることもある。これもイベント制作会社の主要な仕事の一つである。    イベントは、会場こそがすべてであるといっても過言ではない。そのためイベントマンは、あらゆる会場のスペックと形態について、熟知していなければならない。その訓練として、会場確認という、ひたすら電話で確認をとるやり取りがある。    全国のイベント会場一

赤坂見附ブルーマンデー 第5話:「自己実現」という可能性の阿片

  「7日間戦争」というのは、決して比喩ではない。少なくとも今のオレの境遇、オレの仕事においては。  一週間のうち、まともに家に帰れるのは二日あるかないかだ。  家に帰ってもシャワーを浴びて眠るだけ。  生活と身体のリズムが崩れているせいか、どんなに疲れ果てていても、身体だけが寝ていて、脳はまどろみの中を起きているという、金縛りの状態がよくある。心地よい眠りは無縁だ。一日一日を過ごすたびに、命が摩耗されていくような感覚である。  そんな毎日を繰り返している。  オ

赤坂見附ブルーマンデー 第4話:人生は、可能性に満ち溢れている?

   人生は、可能性に満ち溢れている。  家庭でも、学校でも、塾でもそう教えられてきた。  トレンディドラマ、ドキュメンタリー番組、凡庸な小説に、通俗な映画。物語の最後の最後に唱えられるのはそんな謳い文句ばかりだ。    可能性という名の、目的に向かった世界。    そう、オレたちは「最高の人生を送ろう」という暗黙の了解である、目的の王国に向かって生きている。    最高の未来、最高の選択、その可能性をめぐって、この社会のお金はまわる。  いい男。いい女。いい夫婦。い

赤坂見附ブルーマンデー 第3話:幸福と憎悪のマリアージュ

   まだ月曜日である。  これからむかえる一週間の、しょっぱなから徹夜作業に入るとは想像もしていなかった。今日は普通に家に帰れるだろうと想定していた時ほど、そこから絶望へと叩き落される、気持ちの変化の落差は激しかった。    早く終わらせればよいではないか? そんなボリュームではない。    通常、何日もかけて作成する企画資料である。それを翌日の朝一までに仕上げるということは、ハードコアな徹夜業務が確定の死刑宣告のようなものなのだ。  妻に、連絡を入れる。 「すまん

赤坂見附ブルーマンデー 第2話:徹夜確定演出

 ランチタイムが過ぎると、幕張メッセ会場外の人の往来もだいぶ落ち着いてくるころで、誘導現場の見回りに来た恵君が声をかけてくる。 「コウヘイさん、今日はありがとう。助かりました」 「ああ、間に合ってよかったよ」 「うちのADが、コウヘイさんのことバイトと勘違いしていたみたいで、ふざけた接し方しちゃったみたいでしたが大丈夫でしたか」    やはりそうか。恵君が気を遣って報告してくれたのは救いである。 「最近の奴は舐め切ってるのが多いので、ちゃんと教育しておくんで」 「あ

赤坂見附ブルーマンデー 第1話:安息日明け

あらすじ    ホイッスルを鳴らすサザエの先導によって、次いで妹のワカメ、弟のカツオ、父波平、母フネ、息子タラオを肩車する夫マスオといった順で列になり、磯野家とフグ田家の面々は、その無謬な笑顔と共に青天下の野原を軽快に行進していく。  ハイキングをしていると思われる彼らの向かう先は、煙突のある一軒の山小屋だ。テレビなど一切見ないという若い世代の人間ならともかく、幼い子を持ち、会社で働く中堅どころのサラリーマンにしてみれば、週末の夕食時ともなれば否応なしに目にする光景である

『ポストマン・ウォー』最終話:赤い棕櫚

『ポストマン・ウォー』最終話:赤い棕櫚  指先で一枚ずつ、百枚束のお札をめくりながら、頭の中で数える。数えながら、頭は別の考えで、いっぱいになっている。   G町の中国マフィアはきっと、ざわついている。  イエロードラゴンという自分たちのボスを失い、誰の犯行かと躍起になっているのだろう。日本のヤクザが出頭したが、そんなことを彼らは信じない。  モンゴルの仕業だ、もっといえばそれを裏で操っている、ロシアンマフィア「レッドウイング」の仕業だ。    彼らの本拠地、K町は間

『ポストマン・ウォー』第41話:職業はポストマン

『ポストマン・ウォー』第41話:職業はポストマン  中谷幸平のすぐ傍で、さっきから一人で、ホール中央で踊り続けている女がいた。  その女は長身で、薄暗いクラブの中でも、日焼けした褐色の素肌が目立っていた。キャミソールとローライズのショートパンツからはみ出した腕と脚、二の腕と太腿の筋肉は健康的でさえあった。    女は、ホールの曲の終わりと、新しい曲への切り替わりの度に、両腕をあげて「フォー」と声をあげ、周囲の客と同様に盛り上がる。しばらく、女から目が離せないでいた。  

『ポストマン・ウォー』第40話:漲る自信

『ポストマン・ウォー』第40話:漲る自信  ドルジさんの片目の負傷をきっかけに、小説の題材になるかもと、勝手気ままに想像(妄想?)を巡らせていたことと、実際に今、目の前で起きてしまっていることの符号に、中谷幸平は恐ろしくなっていた。    モンゴルマフィアと中国マフィアの争い。    その確信を強めたマリの手紙。    そして、マリたちが出した大量の小包の開封により、自分は謹慎処分を受けたが、その推測は間違いではなかった。    マリたちに拉致され、彼女たちは中国マフィアを