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小説|腐った祝祭 第ニ章 11

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 朝食の席にカレンは時間通りに現れたが、サトルは十分ほど遅れて食卓についた。
 カレンは嬉しそうに笑って言った。
「遅刻よ。罰として朝食抜きじゃないの?」
 サトルは無視して、昨夜の行動を問いただした。
 カレンはつまらなそうな顔になり「知らないわ」と言った。
「ペーパーナイフで私を襲ったんだぞ」
「まさか」
 と、肩をすくめる。
「でも、あなたがそう言うのならきっとそうなのね。ごめんなさい。偶にそういう事あるみたい。ベラも言ってたわ。夜中に私が寝惚けてベッドに潜り込んできたって。でも、襲うなんて物騒ね。そんなに酷かったの?本当は大したことないんでしょう?覚えてないのよ。何か言ってた?私」
「別に」
 サトルは食事を始め、カレンも食べ始める。
 クラウルは傍にいなかった。
 カレンがいる間は、スケジュールは執務室で聞くことにしたからだ。
 女中も呼んでいない。
 ジョエルだけが傍についていた。
 カレンはグリーンサラダを食べて、ジョエルを見上げて言った。
「美味しいわ。このドレッシングも、やっぱりあなたが自分で作っているの?」
「はい」
「そう」
 カレンは満足そうに、薄いルバーブにフォークを刺した。
「本当、あなたの料理はいつも美味しいわね、ジョエル」
「ありがとうございます」
 言ってしまってから、ジョエルは驚いてサトルを見た。
 サトルはスプーンをテーブルに置く。
「カレン」
 カレンは聞こえないかのようにサラダを食べ続けた。
「カレン」
 強く言うと、カレンが手を止め、ゆっくりと顔を上げる。
 今気付いたというように。
「え、なに?」
「君に彼の名を教えていなかったね」
 カレンは不思議そうに、再びジョエルを見上げた。
 ジョエルは複雑な表情でカレンを見た。
 カレンはサトルに向き直って言う。
「そう言えばそうね。私、何か言った?」
「彼の名を呼んだ」
「そう?でも、誰かが呼んでるのを耳にしたんじゃないかしら?あなたはそう思うでしょう」
「まあね。それで、今は彼の名が言えるのかい?」
 カレンは少し考える。
「ええ。覚えてるわ。私は確か、ジョエルって言ったのよね。初めまして、ジョエル」
 カレンはジョエルに手を差し出す。
 ジョエルは他に仕様がないので握手をした。
 カレンはにこりと笑った。
 そして、手を戻すと言う。
「ねえ、サトル。お願いだから一々私に突っかかるのはよしてくれないかしら?自分でも判らないことってあるでしょう?」
「そうかもしれないね。しかし、見え透いた芝居はうんざりだよ」
「何の芝居をしたの?」
「前からジョエルを知ってるような言い方だったじゃないか」
「そうね。そうだったみたいね。でも、知らない。なんとなく口から出てきたのよ。きっとこれからもこんな事はあると思うわ。でも判ってちょうだい。私だってここを追い出されたくないのよ。あなたの言うことは聞くわ。あなたは少しいじめたくなるタイプだけど、もう意地悪もしない。昨日のリックたちのことは私が悪かったわ。あなたがツンツンしてるから、つい仕返しをしたくなったの。でも、もうしない。ちゃんと居候らしくしているから。ねえ、もう少しルルを満喫したいの。だから気にしないで」
「気になるように言っているんだろう」
「誓って言うわ。今のはわざとじゃないのよ」
「信じないよ」
「じゃあ、あなたは何が気になったの?」
 サトルが返事をしないでいると、カレンは目を細めてサトルをじっと見据えた。
 しばらくして言った。
「誰かの口癖みたいだったの?」
 サトルはナプキンで口を拭き、それをテーブルに投げ捨てて部屋を出て行った。


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