連載/長編小説【新入社員・山崎の配属先は八丈島!?】⑰
厨房へも川崎のシティー・ホテルからヘルプ要員が多数きていた。
洋食は和食に比べて、厨房内の雰囲気に緊迫感が常にあった。藤木チーフはその巨体からは想像できないような繊細な料理をつくり、部下に対しても厳しかった。
「えっ!!フカミー(深見)がいないって?!」
ある日、洋食の一番下のポジションのフカミーがいなくなった。
突然、消えてしまい部屋にもいないという。
警察に届ける前に、ホテル従業員で探そうということになった。
「まあ、島内にはいるだろう」とチーフがぼそっと言った。
いなくなる前の日に、どうやら仕事の段取りが悪く、こっぴどく叱られたとのこと。
「運転も出来ないから、そう遠くへはいっていないだろう」と金川さんとわたしは社用車でゆっくりと永郷方面の道周辺を見てまわった。
一時間ほどしてホテルへ戻ると、堀さんが「裏山にいたよ」と連れて帰ってきたという。
なんと、暗闇の中で一晩過ごしたらしい。
戻ってきたフカミーは、見るとTシャツ姿で大きめな目をクルクルさせながら厨房の隅でガタガタと震えていた。
チーフが「お前はもう帰れ」と一言いった。
普段なら、優しい金川さんや星野さんに助けられてやってこられたのだと思うが、今来ている川崎からの厨房メンバーはさながら「愚連隊」――口よりも先に手が出るようなシェフ達だった。パワハラという語句もまだない時代でのことだ。
それから数日後に、フカミーは皆に挨拶をすることもなく、ひっそりと出て行ったらしい。
その後のターゲットは、優しい人柄の星野さんへと変わった。
殴られて鼻血を出しているのを見かけた――それでも、星野さんは持ち前のファイトで「すみません」と元気に言って仕事に就いていた。厨房とはこんなに厳しいものなのかと、自分のことのように心が苦しくなった。
to be continued……