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11,魔女と君とを天秤にかけて

何かに、迷った。
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シリーズもの11曲目です。
エンディングになります。明るすぎず、シリアスすぎず…曖昧な曲になった気がします。テーマは旅の終わりと迷いです。煮え切らないはっきりしない中終わってしまった旅ってきっとこんな感じ。
以下この曲の物語。
「声に従い、魔女を求めて水面に触れた。おもちゃの浮かぶ湖面は静かに揺れている。…触れただけでは何も起こらないようだ。声のいう通り、湖の中まで入らなければいけないのだろう。肩に乗るテディベアが落ちないように支えながらゆっくり湖の中へ足を進める。
腰まで沈んだ頃、足が何かに掴まれた。水中に視線を向けると、何かが僕の足首に絡みついている。よく目を凝らして観察すると、それが白い人の腕であることに気が付いた。
僕が反応するよりも早く、その腕は僕を湖の中へ力強く引きずり込んだ。
…意識が混濁する、視界が滲む、体の感覚が失われていく。
僕の直感が語る。これは魔女へ至る道。沈んでいく意識の向こう側に微かな光が見えてきた。


気が付くと、目の前には椅子に座らされた僕がいた。
辺りを見渡すと、そこは僕の研究者たちの研究所。この旅の始まりの場所。意識へ潜る旅が終わり、僕は帰ってきてしまったのだろうか。
…違う。だって、目の前に僕自身がいる。その顔も服も全て僕そのものだ。いくら僕とはいえど、僕自身を複製したことなんてない。
理解できない状況に混乱していると、椅子に座る僕の腕が淡く光り出した。よく見るとその手にはあの懐かしい杖が握られている。…世界を瓶に閉じ込めたその日から行方が分からなくなっていた魔女の杖。それが今目の前にある。
思わず椅子に座る僕の手から杖を奪おうと近づくと、僕の伸ばした手を遮るように杖を握る手の甲から黒い羽が生えてきた。羽は徐々に手を覆い、あっという間に両手が黒い羽に覆われる。すっかり黒くなったその手から羽が数枚抜け落ちた。落ちた羽を拾い上げると、溶けるように羽が僕の手に吸い込まれて消えた。
そして僕は理解する。"それ"が思い出しなさいと、素直になりなさいと語り掛けてくるから理解する。"それ"は僕自身からの声、目の前に座る僕からの声。

…本当はすべて気が付いてた。魔女なんて存在はしない。強いて言うならば、僕自身が魔女なのだ。あの杖は僕の妄想の具現。現実に落ちてきた僕の思いの塊。世界を壊したもの、瓶に閉じ込めたのも全部僕の願いが形を成したもの。僕は最初から普通ではなかったんだ。研究者たちも、きっとそれに気が付いていたんだろう。杖を魔女に返す。つまりは妄想を僕に受け入れさせることでしか、前に進めないという事なのだろう。
でも、僕には、まだその事実を受け入れる準備はできていない。彼の死を受け入れる準備なんて、できていない。
僕の意識は現実を受け止めることなく、自身の中から抜け出すことも出来ないまま、抜け殻のような僕の体は瓶の世界を彷徨い続けることになる。
現実を受け止められるその日まで。」

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