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06,縞蠅のレジスタンス

何かに、迷った。
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シリーズもの6曲目です。戦闘曲風です。
縞蠅はニクバエとも呼ばれる蠅の一種です。幼虫は水中で孵化して、大きくなると地上に出てきます。水中にいる幼虫が厄介で、哺乳類の体内に侵入する事があるらしいですね。…別シリーズのストーリーを匂わせつつ、今回の曲のイメージはそんな縞蠅です。
以下この曲の物語。
「僕はすっかりガラス瓶のテラリウム作りに夢中になっていた。街や森しかなかった瓶の中を広げ、谷を作り、川を作り、住んでいた生き物の姿形を変えた。目指すのは大好きな御伽噺の世界。根本から世界を大きく変えなければならないだろう。心躍る伝説を、倒すべき強敵を、惑わせる神域を…そしてそれら旅し、語り継ぐ存在を作ろう。語り継ぐ者は人の形で有る必要はない。むしろ人でない方が物語に多様性が生まれるのではないだろうか。
僕は心の赴くままに瓶の住人たちの姿形を作り替えていった。読んできた物語を思い出しながら…
頭を狼に変えて体の骨格をより野性的にして。
手足を引き抜いて首がつぶれるくらい頭を押し込んで。
細い手足を与えて背中に透明な輝く翼を与えて。
いくつもの種族を生み出した。瓶の中に解き離れた姿形を変えた人々は新たな世界になじめるだろうか。
眺めていると一際目立つ一団がいた。羽持の、僕のお気に入りの種族。不快さを覚えながらも、黒い帯状の模様を持つ体と大きな目が可愛らしい彼ら。瓶の外のから眺める僕に向けて羽を震わせ飛んでくる。さて、何か言いたい事でもあるのだろうか。
僕も瓶の中に入ってみよう。せっかく生み出した世界と住人達。ふれあいを楽しむとしようか。

…彼らの体はあまりにも脆くて、目に映る羽持達がすべて地に落ちるのは早かった。
地に落ち動かなくなった羽虫たちを見て少し悲しくなった。美しかった透明な羽は破けて散り散りになり、可愛らしかった大きな複眼は潰れて見る影もない。彼らの姿は母から貰った絵本の冒険譚を参考に作ったもので、特に思い入れが強い子達だった。
彼らの残骸をかき集めたら、両手で抱えられる程度の大きさに纏まった。このままにするのも忍びなくて、彼らを弔う術を考える。考えて考えて、思いついたのは一人一人を別けて瓶に詰め、塔と一緒に沈める事だった。…塔を地の底沈めたら街ごと沈んでしまったのは想定外だったが。この瓶の世界は塔を全て沈めるには深さが足りなかったようで塔の先端から空を眺めることが出来た。
塔の先端に腰をかけ、気が遠くなる程空を眺めていた気がする。彼らを手に掛けたのが心に来たらしい。
街が埃と蒸気に埋もれた頃…夕日に照らされた塔の扉が音をたてて開かれた。
塔を登る彼との夜闇の中の出会いが、やがて僕にとってかけがえのないものになる。」

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