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天風の剣

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右目が金色、左目が黒色という不思議な瞳を持つ青年キアランは、自身の出生の秘密と進むべき道を知るために旅に出た。幼かった自分と一緒に預けられたという「天風の剣」のみを携えて――。 …
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2024年7月の記事一覧

【創作長編小説】天風の剣 第135話

【創作長編小説】天風の剣 第135話

第九章 海の王
― 第135話 明日を願う、祈りの朝 ―

 いよいよ、今晩だ――。

 ルーイは、きゅっと唇を結んだ。
 四聖であるルーイ、フレヤ、ニイロ、ユリアナは、純白の羽織に袖を通す。絹で織られたその特別な羽織には、金色の糸で護符のような模様があしらわれていた。

「わあ。すごいや。着てるのがわからないほど薄くて軽いけど、すごく守られてる感じ――」

 強い力で守られている、そんな確かな感

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【創作長編小説】天風の剣 第134話

【創作長編小説】天風の剣 第134話

第九章 海の王
― 第134話 二体の四天王 ―

 四天王パール……!

 アマリアは、息をのむ。
 まさか、パールが自分の目の前に現れるとは思わなかったのだ。
 人間の姿をしたパールは、右足だけ足首から先がなかった。左足も傷だらけで、削られてから他の魔の者の皮膚や肉を付け足したと思われる、不自然な箇所があちこちにあった。
 激しい戦いのあとだということが、一目でわかる。
 アマリアは、無意識に

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【創作長編小説】天風の剣 第133話

【創作長編小説】天風の剣 第133話

第九章 海の王
― 第133話 思いの扉 ―

 アマリアは、自分の意識の中を歩き続ける。
 目覚めの鍵となる、オニキスの獅子を探して。
 道なき道の途中、いくつもの扉があった。建物ではなく、ただ扉だけが唐突にある。それは、見た目もばらばらで、不規則に点在していた。ある場所では空中に浮かぶ乳白色の階段の上で金色に輝いており、ある場所では暗く薄気味悪い沼の前に、亡霊のように建っている。
 不思議なこ

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【創作長編小説】天風の剣 第132話

【創作長編小説】天風の剣 第132話

第九章 海の王
― 第132話 満月前夜 ―

 エリアール国から遠く離れた、ある異国の地。
 雪も降らない冷たい深夜、小望月が空に浮かぶ。

 明日の晩、ついに空の窓が開く――!

 赤子を胸に抱いた、長い黒髪の女が、月を見上げて笑みを浮かべた。
 赤子は、異形の姿をしていた。
 赤子の頭部は、成長途中の胎児のようだったが、体は黄褐色の虫のさなぎのような形状をしていた。成長すれば、古い皮膚を突き

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【創作長編小説】天風の剣 第131話

【創作長編小説】天風の剣 第131話

第九章 海の王
― 第131話 ささやかな望み ―

「ダン。申し訳なかった――。アマリアさんを、探せなかった――」

 ノースストルム峡谷には、すでにオリヴィアやダンたちも無事戻っていた。キアランは、ダンに詫び、アマリアが無事であること、しかし所在はわからない旨を告げた。
 ダンは、首を振り、キアランの肩に手を置く。

「キアラン。私のほうこそ、謝らなければ――。妹のために辛い思い、大変な思いを

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