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袖丈の謎!《男物AS▷▷女物ASへ仕立て替え》足し布編


ASとは?…アンサンブルの略。着物と羽織のセットの意。
※着物は長着とも呼びますが、ここでは統一するために全体表現の『着物』と呼んでいます。

こんにちは、ものぐさ和裁師です^^

男性の着物姿と言えばASと定番ですが、実は以前に女性用も流通していたことをご存知でしょうか?

私がこの世界に入る頃には仕立て依頼が舞い込んできておりましたが、近年では残念ながらその姿は殆ど見られなくなりました。

最近では男性は同色のASに仕立てるのではなく、別々の素材を用いて羽織・着物のセットに仕上げるのが粋なようですね。

ASを解いて反物の状態にしたもの
赤紫は肩裏

ものぐさは世に余りつつあるアンティークを横目に見ながらいつか自分用に仕立てたい!と考えていたのであります。

別々の素材も良し◎
アンサンブルとして楽しむのも良し◎

折角日本に産まれたのだから、種類豊富な着物を楽しむのも有りですよね♩

…という流れからこの度の運びとなったわけです。早速取り掛かります(*^^*)

◯ASを仕立てます

用意していた素材・アンティークの結城男物AS

男物から女物へと仕立て替えるのであれば、必ず女性らしく品良く着こなせる寸法にしたい。

◎そこで譲れないのが袖丈です

完成したお袖

元が男物なので、袖丈は長いはずがありません。裁ち切りを確認しても1尺4寸(53㎝)までしか取れない。
ものぐさの希望は最低でも1尺6寸(60.5㎝)です。

アンサンブルの裁ち図
※拡大してご覧ください

そこで袖丈・身丈が希望寸法に足りるかどうか?仕立て前に確認をします。

◯着物・袖丈1尺6寸はどこから来たのか?

元の裁ち切りのままだと希望寸法は取れないので【 裁ち合わせ 】をする事に。

※裁ち合わせとは?…解いて反物の状態になった着物を、希望寸法が可能なようにそれぞれのパーツを切ったり等して並べ替えること。

先ほどのAS裁ち図に裁ち合わせ方を書き込みました(見え難くて申し訳ないです💦)


袖丈1尺6寸(60.5㎝)を可能にしたのは写真赤文字の部分をご覧ください。

●希望のお袖分1尺6寸×2(121㎝+縫い代=123㎝)を着物の前身頃の裾から取ってハサミを入れる。この作業が2回。

●無くなった前身頃へは、元のお袖をつぎ足して着物にする。

ものぐさは身長155㎝、身丈は4尺1寸(155㎝)なので上記の方法で進める事ができます。
シンデレラフィットです!

◯羽織・袖丈1尺6寸はどこから来たのか?

着物と同様に羽織も裁ち合わせをしていきます。

●元羽織の衿を2等分にすると1尺6寸袖が2枚分(123㎝分)取れる。

●元羽織の袖をつぎ足して、新しい羽織の衿とする。それでも足りない分は羽織の前身頃の裾から左右同寸法になる様に取る。(今回は3寸(11.5㎝)のみ取りました)

羽織も着物と同様に1尺6寸袖が取れるだけの布が見積もれましたので、仕立てを実行に移す事にしました。

◯着用時に足し布箇所は着姿に影響を与えるか?


仕立て上がり後に足し布箇所は確認できます。

つぎ目は縫い目ですから、仕立て上がった際に確認することは出来ます。

“ これがもしもお客様の着物ならば。
折角誂えた着物に余計な縫い目があると、お客様の着姿を台無ししてしまうかもしれない ”

実際に仕立てると、つぎ目はどんな風に見えるのか。この後の写真でご確認いただき、何らかの参考になれば幸いです^^

◯実際に縫ってみた。足し布位置の確認

寸法が決定し裁ちが完了してしまえば後は縫うだけですから早いものです。

●着物の足し布箇所▷▷前身頃のあげ下一箇所のみ

うっすら線が入っているのが足し布縫い目位置

この状態を着付けしたのがこちらです↓

指差しの位置が、先ほどの縫い目位置

この状態から帯を着けると↓

こんな状態に見えます。
ただし、こちらのトルソーさんはものぐさよりも身長が3㎝(約1㎝)程高いので実際には着た時には見えません⭕️

もしも見えるならこんな具合なわけです。

引きで見ると…↓

1mほど離れて撮ったものですが、直接見ても縫い目がある事に全く気がつきません。

続きまして、羽織の確認です。

●羽織の足し布箇所▷▷衿に2箇所。

衿に足し布が入っている

さぁどこでしょうか?
正直言って全く分かりません(^_^;)
意地悪く縫い目の分かるように写真の露出を上げると…↓

露出を上げた写真

拡大してようやく確認できる縫い目。

もう一方の足し布位置はと言うと↓

これは隣に立つと、顔に近いので分かります。
と言っても、その見栄えについての可否は人それぞれなのではないでしょうか。ものぐさ個人的には目立たない程度と感じています。

以上、ASとして着用すれば3箇所のつぎ目が出た状態の仕立てですが、如何でしたでしょうか?

実際に足し布を施した着物を間近で見ると
『この程度の縫い目なら直して着たいわ』
『目立たないとは言え、こんな所に縫い目が出るなんてもっての外よ』
と、様々な意見が考えられますが和裁士としてはお客様の小さな意見も拾い集めて、希望に添えられる仕立てを行いたいと考えています。

◯選択肢があるということ

アンティークやご家族から譲り受けた着物類を仕立て直すとしたら?

何を1番に優先するのかはお客様次第で十人十色。選択肢は無限にある。無限にあるからこそ悩んでしまいますよね(^_^;)

今回はAS▷▷ASで比較的簡単な仕立てでしたが、呉服屋さんに持ち込んだり、和裁士さんに直接届く形で見積もり依頼(簡単な見積もりなら多くの場合は無料だと思います)をすれば何らかの提案をもらえるはずです。

着物は再利用可能なサスティナブル性の高い代物だと思います。

タンスの肥やしになりただ劣化していくだけの着物になるよりも、生かし続けていてもらいたい。
世の中が便利になって忙しなく感じる事が多く、タンスに目を向ける余裕なんて持てないのが現実だと思いますが、どうかこのnoteを読んだ事をきっかけに思い立ってくだされば幸いです。

簡単ではありましたがこの辺りで失礼します
以上、ものぐさ和裁師でした🪡

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