人生初の「クリスマス女子会」にて
大学一年生になった年の「クリスマス」。
わたしは、友人5人とともに、夜の街に繰り出していた。
ど田舎の大学から電車を乗り継ぎ、イルミネーションのまぶしい都会にやってきた私たちは、「クリスマスムード」一色の街並みにきゃっきゃと喜び、急ぎ足で予約したレストランに向かった。
今日は、「クリスマス女子会」。
彼氏のいない5人の女子大生が、ちょっとリッチでおしゃれなレストランにて、「クリスマス」を謳歌しようと集まった。
わたしは、その日、とてもそわそわしていた。
いや、文字どおり、足元がそわそわしていた。
毎日パンツスタイルの私も、その日ばかりは黒のシックなミニスカートを履いていた。
というのも、友人の一人が、「その日は、うんとおしゃれしよ!」なんて言うもんだから、急いでデパートに行って、私でも履けそうな黒いスカートを買ってきたのだ。
高校卒業以来のスカートは、なんだか心もとない。
股下を寒い風がぴゅうぴゅう吹いて、私をますます不安にさせた。
こんな格好で大丈夫かしら。
ひさしぶりのスカート、変じゃないかしら。
頭の中は、自分の格好がおかしくないかということでいっぱいだった。
電車に乗るために駅でみんなが合流する。
みんな、めちゃくちゃかわいくておしゃれ!
ロングヘアの友人は、髪をアップにして、キラキラ輝く飾りをつけている。
こっちの子は、ピアスにネックレス。
もうひとりは、驚くほど鮮やかなワンピース。
地味な私は、少し引け目を感じた。
でも、その中でもとびきり美人でおしゃれな女の子が、私に近づいてきた。うんとおしゃれをしようと提案した、例の友人である。
その子は私の肩をたたき、ひとこと。
「かわいい!めっちゃ似合ってる!スカートいいじゃん!」
もう、それだけで、ぱああっと目の前が明るくなった。
鬱々とした、不安な気持ちが吹き飛んでいく。
ほんと!?変じゃない!?
全然変じゃないよ!いい感じ。さあ、行こう!
そんな会話を交わして、私たちは電車に乗った。
たぶん彼女は、私が不安そうにしていることに気づいていた。
わたしが自分の容姿や格好に自信がないことを知っていた。
だから、進んで声をかけてくれたのだろう。
彼女のたったのひとことのおかげで、私は一気に「女子会」を楽しむモードに突入できた。
今日はみんな、海外ドラマに出てくるとびきり可愛い女子なのだ!
さあ、いよいよ「女子会」のはじまりだ!
レストランは、ビルの一角にひっそり佇むお洒落な雰囲気で、当時大学一年生の私は、到底入ったことのない様相の場所だった。
予約していた個室に案内され、コース料理をスタートさせる。
これまで何度も居酒屋には行っていたけど、コース料理なんて初めて。
名前も分からないお洒落なプレートがどんどん出てきて、そのたび「かわいい~~~」と声をあげながら、写真を撮った。
浮かれていた。間違いない。
普段、ぜんぜん女子じゃない私も、この時ばかりは「クリスマス女子会」を楽しむ女子を演じて、楽しんでいた。
だってスカート履いてきたんだし!
今日くらい、女子になってもいいよね!
そうしていくつかの料理を楽しんでいると、次の料理が運ばれてきた。
「ホタテのカルパッチョ」である。
今でも覚えている。
色とりどりの野菜に囲まれ、淡い白のホタテがころころと並んでいた大皿。
わたしはそれを見て、「なにこれ?」と思ったのだ。
「ホタテって、こんなんなんや。」
「・・・え?食べたことないの!?」
友人たちは、私が「ホタテ」を食べたことがないことに驚き声をあげた。
そう。当時18歳の私は、「ホタテ」を食べたことがないどころか、「ホタテ」を判別もできなかった。
実はこの頃まで、私はとんでもない「食わず嫌い」だった。
小さい頃から嫌いなものは数知れず。
怪しそうと感じたものは、絶対口にしなかった。
それどころか、食に興味がまったくなく、料理はおろか、食材が何かとか、味がどうとか、料理や食に関する常識が欠如していたのである。
(なぜそうなったのかは、また別の記事に書くとしよう。)
そんなわけで、「ホタテ」を初体験だった私。
友人たちも、私の偏食少食はよく知っていたので、「これ、絶対おいしいって!」「食べてみ!」「今日くらい!」と強く勧めた。
そうだよね。
今日は特別な女子会、クリスマスだもの。
こんなおしゃれなカルパッチョ、食べなきゃもったいないわよね。
お酒の力も借りて、「クリスマス浮かれ女」になっていた私は、「食べてみるわ!」と言って、ホタテをはじめて口にした。
人生初の「ホタテ」を噛みしめる。
おわあ・・・!
おいし~~~!!^^
想像していた歯ごたえと全く違い、柔らかく、つるりとした感覚。
硬くてぐにぐにしたイメージを勝手に抱いていた「ホタテ」の、なめらかで甘くやわらかい食感に、私はひとしきり感動した。
「ほら~、食べてみてよかったでしょ!」
友人たちも、してやったり。
これ以降、わたしは「ホタテ」が食べられるようになったどころか、「食わず嫌い」が少しずつ緩和していくようになった。
この「ホタテ」のおかげだ。
いや、「ホタテ」をすすめてくれた友人たちのおかげか。
こうして、私たちは素敵なレストランの女子会フルコースをしっかりと堪能した。
私はというと、この「クリスマス女子会」で、「黒いスカートを履く」と「ホタテを食べる」という二つの初体験を楽しむことができた。
どちらも、一人では絶対に手を出さなかった。
こういうとき、「女友達」のパワーは、やはり強い。
会計を済ませ、レストランを出ると、電車の時間が迫っていた。
最後に、駅前の大きなクリスマスツリーをみんなで見に行った。
大きく、色鮮やかに輝くクリスマスツリー。
今思えば、そこに集まっていた私含め友人5人は全員地方の出身で、夜の都会で、こんなに大きなクリスマスツリーを見上げるなんて、全員初めての経験だったとおもう。
しばらくみんなで、「めっちゃ綺麗やなあ」と立ち止まり、最後に写真を撮った。
当時、自撮り棒なんてない。
5人とツリーを枠内におさめるのに苦労し、笑いあった。
「また来年も来よう!」と誰かが言った。
だが翌年からは、彼氏が出来たり、バイトが入ったりして、「クリスマス女子会」は開催されなくなった。
たったいちどの、「クリスマス女子会」。
私にとっては、スカートを履いて、素敵なレストランで、ホタテを食べたクリスマスだ。
わたしたちはあの日、あの街で、どのカップルにも負けないくらい、楽しそうに見えただろう。
今日の記事を飾ってくださったのは、「nouchi」さん。
今回のクリスマス女子会っぽいイラストをなかなか見つけられなかったので、いつもお世話になっている「nouchi」さんのイラストにさせていただいた。
本当に使いやすく、私の言いたいことにそっと寄り添ってくれるような絵。ポップなものもあれば、シンプルでしなやかな線と色が特徴的なものもあり、絵柄も塗り方もさまざま。
今後も何度も使わせていただくことになりそうです。
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