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AV救出大作戦!!

工業高校に通っていた俺。

特に工業に興味があったわけではなく、学校というものが基本的に嫌いな俺はなんとなく漠然と高校を卒業したら就職するつもりでいて、とにかくなんとなく職業科に進むことにした。

工業高校といえば男ばかりのむさ苦しい環境が予想される。
しかしいっちょまえに思春期を迎え、中学で女子を意識し出した俺は女子と会話をすることも少なくなりあまり関わりが無くなっていたので、女子がほとんどいない環境であることは特に気にすることなく入学した。


しかし、入学初日。
後ろの席から見渡した電気科のクラスメイト達を見回して思った。

「やべぇ、これ地獄の始まりだわ」

その時、初めて女子という存在の重要さに気付く。


うちの高校は公立にも関わらず、スポーツが盛んで強かった。
特にバレー部は春高バレー3年連続優勝の偉業を達成。俺の代が3年生になった時に至っては、1年間公式戦負けナシという最強世代だった。

そんな強い部活が多く、強い部活といえば指導が厳しく、よって坊主が多いため、クラスの6割くらいが坊主頭。

その並んだ坊主頭の殺風景なこと。

登校すると、朝練を終えたラグビー部が上半身裸で汗だくで教室に入ってくる。
どことなく漂う汗臭さ。
彼らなりに気にしているのか、制汗スプレーを一斉に撒き始め、煙幕のように視界が曇り始める。
スポーツ男子のこびり付くような汗臭さは力強く、その制汗スプレーと混じった異様な湿気は、朝っぱらから俺をブルーにさせる。

ひしめき合う屈強な坊主達。
カードゲームをするオタク達。
辺りに無造作に散らばるジャージ。
後ろの棚に並んだ「ふたりエッチ」全巻。
汗臭さを通り越し、もはやイカ臭い。

ああ、女子がいたらこんなことには・・・・。
工業高校ではなく家の近くの女子比率が高い商業科にしていれば・・・・。

この男達だって、女子がいたら少しは清潔感に目覚めていただろうに。
異性を意識することの大切さが身に染みる。


そして俺はと言うと、中学で軟式テニスをやっていたこともあり、硬式テニス部に入部。
とはいえ硬式テニス部は弱小。他の強豪部とは違い、顧問も来たり来なかったりの比較的自由な環境。

強豪部のスポーツバカともあまり気が合わず、
かといってオタク達の気質にもついていけず、
かなり中途半端な立ち位置だった俺にとって、テニス部は唯一楽しく、学校に通う意味を成していた。


公私共に仲の良かったテニス部。
中学からの仲の良い友人も2人入部し、毎日放課後は楽しい時間を過ごしていた。

学校にあるテニスコートは軟式テニス部が代々使用しており、
我々硬式は学校から自転車で5分くらいの市営テニスコートを使用していた。

学校を出て川沿いの細く長い道を通り、諏訪湖沿いの何面もある大きく綺麗なテニスコートへ。

コートの端っこにある小さな物置のようなプレハブ小屋を部室として貸してもらっていた我が部。
そこで着替えたり、サボってくだらない話をしたり、何に使うのか分からない厚めのマットに寝転んだり、エロ本を回し読みしたりと、なかなか快適な部活ライフを送っていた。



そんなある日、部活メイトのオサム(仮名)と放課後に校門で合流。
いつものように川沿いの細い道を2人で自転車を漕ぎコートに向かって走っていた。

広い景色を見渡しながら走っていると、土手の下、川沿いの草むらに黒く四角いものが目に入る。

「止まれ!」 

これはもう本能と言う他ない。
一瞬目に入ったその黒く四角い物体、
この険しい土手の下に無造作に落ちているという状況、
どう考えてもあれは、

「AVに違いない」


いまの若い人たちはあまり馴染みがないと思うが、
俺が高校生の時に流通していたAVはほぼVHS。

田舎は、田んぼにはカピカピになったエロ本が、
土手の下にはAVが捨てられていると相場が決まっているのだ。


オサムにVHSが落ちていることを伝えると、
あれが何なのかを言うまでもなく拾いに行こうと気持ちが一致する。

田舎の高校生は、状況判断だけであれがエロいものかエロくないものか瞬時に見分けることができるのだ。


俺たちの、

AV(の可能性があるVHS)大救出作戦が始まった。


まずはこの土手。
高さは約5メートル。
コンクリートで舗装され所々なんとなく足がかけられそうな出っ張りがあるが、角度がかなり急なため、降りると言うよりはほぼ落下してしまう壁になっていた。

↓こんな感じ

は?絵心?何言ってるの??


この急な土手をどうやって降りるのか。
ちなみに辺りを見渡しても降りれるところがあるとすればここくらい。

一体どうすれば・・・・。
考える俺の目線の先に、黄色い何かが見える。

これ・・・・、ロープじゃね?

工事現場?などでよく使用されているあの黄色と黒が編み込まれたロープが落ちているではないか。

手に取ると長さは約5m。

これは・・・・・、いける!!


俺はロープを手にした。
下に降りることを志願したオサムは俺に命綱を預け、険しい土手をゆっくり降りていく。

絵が?なに?分かるでしょこれで 怒


無事土手を降りたオサム。難しい坂を攻略したオサムは、その達成感からか思わず右手を高々と上げ拳を握る。(ラオウ)

そしてVHSを手に取り、その状態を確認するオサム。
貼ってあるラベルを見たオサムはハッとした表情でこちらを見上げた。

当たりだ。
AVであることは確定した。その表情が何よりも物語っていた。


ロープで土手を登り帰ってきたオサムから受け取ったVHSのラベルに書かれていたのは 

「ザー○ンインターナショナル」


その大変に汁っぽいタイトルから予想されるパツ金感。

当時未成年だった我々にとってAVはなかなか簡単には手に入らない代物。
それがタダで手に入った高揚感と、急な土手を攻略した達成感で意気揚々と部活に向かう俺達。
慣れない外国人モノの内容を予想し合いながらペダルを漕ぎ、部活に遅刻した。



その日、ザーメ○インターナショナルを持ち帰ったのはカラダを張ったオサム。異論は無い。観終わったオサムから次の日にビデオを受けとった。

俺「どうだった!?」

オサム「・・・何も言わないからとりあえず観てみな」

楽しみだった俺は、俯いたオサムの様子を気にすることはなかった。


家に帰り、深夜家族が寝静まったのを確認。
いよいよである。

ビデオデッキにザーインをイン!


画面に現れたのは、切れ長の目の中国人女性。

なるほど、確かに誰もヨーロッパなど言っていない。


内容を簡単に説明すると、
中国人女性がザ○メンを色んな食べ物にかけて食べるという、今で言う食ザーもの。

そのあまりの生々しさに気分が悪くなった俺。
ビデオを停止し、そっとビデオデッキから取り出した。
そしてビデオを俺に渡す俯いたオサムの様子をその瞬間思い出し、気持ちを悟るのだった。



思春期のエロに対するエネルギーは凄まじい。
インターネットが充分に普及している昨今、きっとあの時の俺たちの様な泥臭いことをしなくても簡単にエロが手に入るはずだ。

しかし、あの時だからこそ、ありがたがれるエロがあり、そして不意に知ることになる新しい世界。

俺たちは、大人になるためにいつだって必死だったんだ。


ちなみにVHSのAVでよくあった、
フィニッシュしたところでテープが止まっていて、巻き戻さず再生するとフィニッシュ地点からスタートするというあるあるだが、
そのザーインの再生したスタート地点が、商店街で買ってきたせんべいに・・・・というシーンだったんだが、

オサム、お前、違うよな?


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