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読書感想文 『狼煙を見よ』(松下竜一著)

「名著」の定義が「読んだ人の人生を変えた本」だとすると、間違いなくこの本は名著である。この本を読んで人生が変わった人間は私の周りにもたくさんいる。かくいう私もその一人である。

この作品は、歌人である松下竜一が、1974年から75年にかけて連続企業爆破事件を起こした東アジア反日武装戦線の軌跡を描いたものである。1986年11月、『文芸』に一挙掲載され、1987年1月、単行本として発売された(上は1993年発行の文庫版)。

当時、法政大学の学生だった私は神妙な気持ちで、というか、恐る恐るこの本を読んだ。そんな気持ちになったのは、この本に登場する「テロリスト」「爆弾魔」「人殺し」が法政大学の先輩だったからである。
松下竜一は何をどう書いているのか、彼ら、彼女らの戦いをどう評価しているのか、私には見当がつかなかった。だから、恐る恐る読み始めたのだが、読み終わった時には、救われたような気持ちになっていた。彼ら、彼女らの死を賭した戦いも、松下竜一がこの本を書いたことで報われたと思ったのである。

文庫版の「あとがき」に、東アジア反日武装戦線・狼のリーダー、大道寺将司が著者に当てた手紙の一部が引用してある。
「松下さんのおっしゃった通り、(『狼煙を見よ』が出版されたことによる)反響は予想以上のものがありました。いまもって未知の読者からのお便りをもらいます。そして特徴的なことは、ぼくらと同世代か、20代前半の若い人が圧倒的に多いということです。同世代からの反応も嬉しいのですが、若い人たちからの好反応は更に嬉しいです。当時小学生でなにもわからなかった人たちが、『狼煙を見よ』を読んで感激したといってお便りをくれるのですから、まだまだ将来に希望がもてる(!)という思いになりました。」
大道寺さんのこの手紙にあるように、私と同じように思った人間はたくさんいたのだ。

友人の一人は「こんな風に書いてくれる人がいるなら、爆弾闘争をやってもいいかな」などと言っていたが、そんな気になった者も少なくなかっただろう(私の友人は思いとどまったようだが)。

こんな風にいうと、「テロを推奨する本」と思われそうだか、全く違う。この本には「無差別テロはいけない」などとは一言も書いてない。が、この本を読むと誰もが「無差別テロはいけない」と思うようになる。この本にはそういう力があるのだ。

それにしても、東アジア反日武装戦線はいい理解者をえたものだが、松下竜一が現れる前にも、いい理解者はいた。新右翼の鈴木邦男である。下記の『腹腹時計と<狼>』も、多くの人間の人生を変えた名著である。

今年は、東アジア反日武装戦線のその後を描いた映画『狼をさがして』も上映された。
これも、心に何かが染み込んでくるような映画だった。


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