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#4 「はじめまして」

*注釈:『(二重カッコ)』は心の声

前日の準備が終わって帰ったものの、なんのために自宅に帰ったのかわからないくらい早くに自宅を出発をした。
多分自宅滞在時間…2時間くらい?
そもそも、自宅に帰って来たのが日をまたぎ2:30ごろだったと思う。
寝たら起きれないと判断して、大好きなルパンのカリオストロの城をソファーに横たわって寝ないように見ていた。
そうこうして銭形警部のエンディング前の名ゼリフを聞いてシャワーを浴びにいった。
さっと着替え余裕を持って5時に横浜の会場に向けて出発。
4月の早朝と言ったら…3℃の極寒…
からの出発。体感温度は0度以下なのは言うまでもなく否が応でも目は覚める。

会社の車(バン)は、俺の好きな「Nack5」(FMラジオ)が入らない。かといって、HDDなどという高性能オーディオもない。iPhoneのMUSICからボリュームガンガンにして寝ないように運転をした。
お馴染みの「Jonny's selection」をかける。
レゲェとLove MUSICを中心に、車内はカラオケボックス状態。
対向車線を走るドライバーは、気づくと微笑んでいるかのような表情を見せていたのに気づく。それも御構い無しに歌いながら、空いている首都高からの湾岸線を突っ走っていた。
そう、
十八番は、
ET-KING 「ギフト」
RAKE 「100万回のI Love you」
歌詞を覚えるのは苦手だが、この二曲は覚えてしまうくらいハマっていた。

7:00着の予定が、渋滞もなく6:30に着いてしまった。

会場担当者もおらず近くのコンビニで、朝食を買って済ませようと立ち寄った。

サンドイッチを頬張りながら、彼女に[今日も良い日にしよう]とメッセージを送ろうとした時…

[おはようございます!私も今から出発で、9時ごろ到着予定です!今日もよろしくお願いしますね^_^]

送るタイミングで、彼女からメッセージが。
よくある安いドラマみたいな小さな奇跡があった。

天気もいいし若干浮かれ気味の32歳と350日の男がそこにいた。

そう、これは最近のルーティンだ。
といっても、たった3日ほどだが朝のやりとりは、なんか良い心地。
ただの自己満だと思いつつも返信が来るのをリクライニングを倒して、アラームをかけて寝てもいいようにしながら待っていた。もちろん会場が開くのも(笑)

7:00になり会場入りして、せっせと大会の最終準備やら、チームの受け入れ、役員の受け入れ、イレギュラー対応など…
事前に確認していたことだったので、特に慌てることなくうまく解決して試合に臨もうとしていた。
しかし、ボランティアスタッフのお局女性役員の一人が、ひっかきまわす。

「これじゃわからないから!」とか、「このやり方でいいわけ!?」とか、いろいろ言ってきたわけで。
『文句があるならあんたがディレクターやればいいじゃん!』と心の中でストレートパンチをお見舞いしていた。
3ヶ月もかけて準備していたのに、この役員に振り回されるほど野暮じゃない。

朝からフラストレーションが溜まりつつ、その人に仕事を任せないように、その人に目を合わせないように、せっせとやらせていただいた。

試合が始まり3試合目くらいまで、一歩も本部テントから出られる状況にはならなかった。もちろん試合など見ている暇もなく、せっせとチーム登録をまとめて、記録のしやすいようにデータを打ち込んでいた。

7人制ラグビーについて、以前電話で彼女に説明したことは以下の通りだ。
・試合時間 7分ハーフの2分インターバル
・試合登録人数 13名登録のそのうちスタメンを7名、控えを5名、出ないメンバー1名を毎試合選出すること。
*このルールはこのストーリーでの特別ルールになります。通常は12名登録。
・コートの広さ 15人制と同じ100m✖️70m
と、ルールに関しては特に変わらないことくらいを説明した。理解してくれたであろうとは思うが…

大会の雰囲気は、『お祭り!』をイメージの演出をした。
クラブハウスにいるような。うすーく競技の邪魔にならない程度のボリュームで、ノリのいい洋楽を流してもらいながら大会を進めていた。
本当はDJとかMCを入れてガンガンにやりたい。
それができるようになるのはもう少し後。
お局女性役員が何か言いたげだったが、言わせなかった。
それくらい、自分が「テキパキ」と運営の采配を振るっているのに、自分自身が驚いた。
興行大会でもなければ、そこまで注目をされているわけでもない大会だったが伝統のある大会。きっちりやりたいという責任を感じていた。

少し長めのインターバル(試合間)の時に会場のチェックのために散策した。

オーストラリアに留学した時のようなムードがこの大会、会場にはあった。選手、お客さん、運営スタッフがフラットに全て交わっていた。そして、心地よい音楽が流れている。いつもは、選手の声とホイッスルしか響かないありきたりな大会を脱却したかった。
硬いラグビー観戦をぶち壊したかった。
ノリノリの曲で、選手もお客さんもテンション上がる上がる!と、勝手に思ってはいるが…
つまらなそうにしている人はひとまずはない。
いーなーこういう雰囲気。
自分が作り上げている理想の雰囲気だが、こんなにもハマるなんて思っていなかったから嬉しかった。

チームのウォームアップエリアに行くと、彼女がマネージメントしているレッドカーズが体を当てたり、パスを回して体を温めていた。その後方にトレーナーと話している女性を見つけた。サンバイザーを被ってチームを見つめていた。
『この人が早坂さんかなー』と、思いつつも声もかけず視察をするふりして素通り。本部に戻る。
人がたくさんいる中だったり、その人が仕事をしている時に声をかけれるほど厚かましくなく、落ち着いた時にでも話ができればいいと思って諦めた(?)よくわからない表現だけど、
本当は本人ではなかったら嫌だなと思っていたのはシャイな自分の言い訳。

レッドカーズは昨年15人制エリートリーグに昇格したばかりの勢いのあるチーム。とは、いうものの7人制に関しては全くの未経験だということを彼女から聞いていた。
大会推薦チームということで快く参加してくれはしたが、勝ち上がるのは容易ではないのが7人制の醍醐味。時にジャイアントキリングが起きるのが7人制ラグビー。
リオオリンピックの時に、日本男子チームが、
世界ランキング1位のニュージーランドになんと勝ってしまう快挙を為し得てしまう。それが7人制なのだ。
今大会はトーナメント方式だが、負けても勝っても二回は試合をするフォーマットを作り、
レッドカーズは無事に一回勝ってチャンピオンシップの準々決勝へ。
※1回戦を負けてしまうと敗者同士のコンソレーションという負け同士のトーナメントに回る。

長めのインターバルが終わり、2クール目に入った。
2クール目の4試合目が彼女のいるレッドカーズ。
相手は大学の伝統校だった。レッドカーズにも7人制経験者が何人かいた。
フィジカルとスキルと経験では大人のチームの方が有利である。しかしそれは、15人制のことであり、7人制は全く別モノになる。
15人制と7人制の違いは、フィジカルとスキル。
そして、個々の能力(パワー、スピードとフィットネス)だ。
大学生はフィットネスがある。若いから。
なるべくレッドカーズにボールを持たせる時間を少なくして、自分たちの展開に持って行こうとするが、そこは大人の強みである、ミスを見逃さず相手が自滅したところをボールを拾いトライに結びつけていた。しかし、明らかにシーズンオフからの7人制はしんどいようで、若さあふれる強豪大学チームはレッドカーズの走れていない部分に襲いかかる。

レッドカーズは前半こそタイに持ち込んだが、後半フィットネスが追いつかず負けてしまった。

残念。

と、ラインで送ろうとしたら、
お局女性役員がまた、騒ぎ出した。
『おいおいおいおい』
と心で呆れていたのは言うまでもなく、うちの事務所の人間もそれにイラついたのか応戦してしまい、ディレクターの私が仲裁に入る。
そうこうしていたら、LINEの短い着信音が…
[負けちゃったので、帰りますねー]
えっ…挨拶に来る約束は…と、思いつつ連続してメッセージが。
[塚越さん、どちらにいますか?]
会いに来てくれるの?と期待。
[中央の赤いテントの真ん中で待ってましたが?For Allキャップを被ってるよー]
[わかりました!今から伺いますねー!]
と、そんなやりとりをした矢先にまた、お局女性役員がイライラを吐き出す…
もう、勘弁して!

なんとか競技運営に集中できる状態になり、
椅子に座って次の試合の準備をしていると、
同僚の田中さんが、
「塚越さん!レッドカーズのマネージャーの方が…」
俺の目の前に立っていた。
あ、えっと…
何を思ったのか、サングラスと帽子を外し、
「改めまして。はじめまして。いつもありがとう。」
俺は何を言ってるんだ?
「いえ、こちらこそありがとうございました!忙しいのにすみません。」
そして、次に俺がとった行動は…
無意識に手を差し伸べて握手を求めていた。

彼女は躊躇していなかったが、恥ずかしそうに手を伸ばしてくれた。
女性の手を握ったのはどれくらいぶりだろ。
思ったより強く握ってしまった。

「終わったら飲み行こ!」
と俺が言ったら、
「是非!」
「ゆっくり休んでね。」
「ありがとうございます!」

たったこれだけの会話だった。
顔もちゃんと見れなかったが、
彼女自称の「テルマ」ではなかったのは言うまでもなく、
むしろ健康的で可愛らしい人だった。

その後のことは浮かれていたものの、
何も考えずとも大会の全日程を終えることができてしまっていた。

彼女との対面は
目の悪い自分がメガネをせずよく見えず、
勢いで握手をして、
簡単な言葉で済ませてしまって、
ただただ後悔ばかり…
でも、可愛かったな。
ひさびさに聞いた声が優しく耳に響いていた。

大会を終え、
運営備品をみんなでバンに乗せ、
また、事務所に走らせていた。
時間は17:30頃。
日曜の行楽帰りで渋滞が発生していた。
38時間くらい寝ていない状態で、
居眠り運転しかけながら途中途中コンビニに寄って安くて美味いコーヒーを入れながら帰っていた。

行きは90分。
帰りは2時間半をかけて帰った。
20:30事務所に到着。

せっせと運営で使ったテント3張りと
運営備品を下ろす。
一人でテント運びは冬終わりの春だと言うのに汗だくの泥まみれになりながら下ろしていた。
一息ついて彼女に、連絡をする。
[のんびり休めてる?俺は今着いて荷物を下ろしてるよー]
返信はすぐには来なかった。
念のためこの膨大な備品の量を写真を撮って送る。
特に意味はないが、
話のネタになればと。

LINEの短い着信音が鳴る。
[みんなと解散して、今着きましたー!これ一人で…大丈夫ですか?]
励ましの嬉しいメッセージが。
[一人で帰ってきたらね。それとこのバン、明日別の人が使うらしいから空にしないとねー。みんなと打ち上げ?]
[はい!食事してましたー]
[ゆっくり休んでね。落ち着いてさ、よかったら連絡してもいい?]
[もちろん!]

ということで、せっせと搬入を終わらせる。

to be next story…

(あとがき)
7人制ラグビーの大会で、あまり馴染みのないことだと思います。
2019年は15人制ラグビーのワールドカップがありました。
非常に盛り上がりましたね!
実は文中にもありました、2016年のリオ五輪での7人制男子日本代表は参加12か国の中で世界ランキング11位ほどで、臨んだ大会でした。
その中で初戦15人制でも7人制でも世界ランク1位のニュージーランドとの試合。下馬評ではもちろんやる前から敗北濃厚でした。
しかし…
ぜひ下記のURLよりご覧いただければと思います!

男子7人制ハイライト JPN vs NZ
https://www.youtube.com/watch?v=_mxsKKt0G54

女子7人制もぜひ観てみてください!(応援PV)
https://www.youtube.com/watch?v=ZlR3yvhk9hI

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