荻野進介

ものかき。主にビジネス系だが、小説もものす。『水を光に変えた男 動く経営者 福沢桃介』…

荻野進介

ものかき。主にビジネス系だが、小説もものす。『水を光に変えた男 動く経営者 福沢桃介』(日本経済新聞出版)、『史上最大の決断 ノルマンディー上陸作戦を成功に導いた賢慮のリーダーシップ』(共著、ダイヤモンド社)、『人事の成り立ち』(共著、白桃書房)など。ポメラニアンが愛犬。

最近の記事

「空気を絞って水を滴らすほどのエネルギー」で書かれた司馬遼太郎の短編

文藝春秋から『司馬遼太郎短編全集』というシリーズが全12冊で出ている。その第一巻、二巻、四巻、六巻という4冊がなぜか部屋の本棚にあった。第一巻(2005年4月第一刷)、二巻はともかく、なぜ四巻、六巻なのか、よくわからないが、この約1カ月ですべて読破してみた。 『竜馬がゆく』『坂の上の雲』『花神』『菜の花の沖』ほか、彼の長編作品はあらかた読んでいる。この年初には、最後の長編小説『韃靼疾風録』にも目を通し、楽しませてもらったところだ(ああ忘れていた。長尺の歴史ルポ『街道をゆく』

    • 書店Titleで買ったサリンジャー『ナイン・ストーリーズ』

      自宅から十数分のお気に入りの本屋私の馴染みの本屋は何軒もあるが、そのうちの現時点でのマイベストを挙げると、東京・荻窪のTittle(タイトル)になるだろう。独立系の新刊書店で、書店としての完成度と、品揃えに新旧がうまくない混ざったオリジナル性があるのはもちろんのことだが、店主の辻山義雄さんが何冊もの著作を持つ文筆家、という貌(かお)を持っていることもあいまって、知名度は全国区だ。   店の奥にあるカフェもいい。基本的に1人客優先のつくり(カウンター4席、1人がけのテーブルが2

      • 無所得無所悟の坐禅を続けていく

        ようやく結跏趺座ができるようになった  坐禅を始めて5カ月になる。家から徒歩数分の場所に禅道場があり、そこに毎週1回通い、それ以外の日は自宅の部屋で、毎夜30分ほど坐っている。  これまでは足の骨組みが固く、結跏趺座(けっかふざ)、つまり、右足を左ももの上に、左足を右ももの上に乗せることができず、左足を右ももの上(あるいはその逆)に乗せる半跏趺座(はんかふざ)で対応していたが、足首が柔らかくなったか、今年に入って、結跏趺座が、プロから見たら不完全だと思うが、できるようになっ

        • パンタよ、永遠に

          頭脳警察からソロ活動へ この7月7日、PANTAが亡くなった。バンド、頭脳警察のメインボーカルにして、ほとんどの曲を書いた。いわば主柱である。享年73。まだ若い。肺がんを患っていたらしい。 デビューは1970年。初期の頃は、「銃をとれ」「赤軍兵士の詩」「世界革命思想宣言」など、その歌詞の過激さと、赤軍派のアジ演説が行われるなどの、こちらも過激なライブパフォーマンスが受けたが、その頃の作品より、バンドが一時解散し、ソロ活動時代の作品のほうが私は好きだ。 水晶の夜がテーマの

        「空気を絞って水を滴らすほどのエネルギー」で書かれた司馬遼太郎の短編

          英雄の栄光と悲哀を描いた澤田謙『プリュターク英雄伝』を推す

          ある個人が成した一生の事績を記した文学、それが伝記文学である。古今東西を通し、その伝記文学の傑作と評されるのが、プルタークによる『対比列伝』とされている。プルタークは紀元46年、ギリシア中部の町、カイロネイアにある名家に生まれた、優れた著述家にして文化人だ。60歳を超えた年齢で、10年をかけ、歴史的な英雄を対比的に描いた同作を完成させた。 シェイクスピアの『ジュリアス・シーザー』もこの作品にヒントを得て執筆されたものだ。 対比列伝からプリュターク英雄伝へ  この『対比列伝

          英雄の栄光と悲哀を描いた澤田謙『プリュターク英雄伝』を推す

          誰でもいつかはライ麦畑を出ていかなければならない

           J.D.サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』、この名高い世界文学、未読だったので、目を通してみた。この手の名作には必ずある、巻末の訳者解説が、野崎孝訳の白水社のこの本にはない。そうした、いわゆるアンチョコがないので、読んだ感想を素直に綴れることができる。 インチキ野郎と俗物だらけの世間 舞台はアメリカのニューヨーク。17歳の高校生の主人公が単位を落とし、寄宿制の名門高校を退学させられてしまう。それを学校から告げられ、実家に戻るまでの数日間の独白物語である。  放校の事実を

          誰でもいつかはライ麦畑を出ていかなければならない

          これを読むともう一杯飲みたくなる、片岡義男『僕は珈琲』

           珈琲好きには垂涎の一冊である。珈琲に関する書き下ろしのエッセイと、これまた珈琲に関する短編小説一篇が収録されている。    珈琲(を飲む場面)は映画に出てくるし、歌謡曲でもそうだ。本にだってある。それは洋の東西を問わない。さらにいえば、喫茶店と珈琲は切っても切れない関係にあるし、マグカップや、珈琲豆を入れる缶のことなど、話題は尽きない。  アメリカの珈琲がアメリカンと言われ、薄いのは、第二次大戦時に、軍が多くの珈琲豆を戦地に送ってしまい、本国で豆が不足したためだという。珈

          これを読むともう一杯飲みたくなる、片岡義男『僕は珈琲』

          日本を覆う『自民党という絶望』と、そこからの起死回生策

          ある一つのテーマについて、複数の識者に取材した原稿や、執筆原稿を掲載する。よくある(最近ではその地位がかなり落ちている)総合雑誌の特集のつくり方だが、最近ではこの手法を新書で行うケースも多い。 雑誌のつくりで、自民党政治の宿疴に迫る新書 『自民党という絶望』(宝島社新書)もそうだ。自民党によって続く現下の長期政権、そのマイナス面を、防衛政策、旧統一教会問題、対米姿勢、右翼、経済政策、行政のデジタル化、食の安全保障、派閥、新自由主義、といった9つのテーマに分け、それぞれ識者

          日本を覆う『自民党という絶望』と、そこからの起死回生策

          おいしいミカンを求めて

          最近、ミカンには当たり外れが大きいと感じている。味が甘くて、中(房)の皮が薄く、種が入っていないもの。それがおいしいミカンだ。逆に、すっぱくて、皮が厚く、種が、多い時には一つの房に2個以上入っているもの。これがおいしくないミカンだ。 最近、おいしくないミカンばかり食べている。いずれもスーパーか、青果店を名乗る個人商店で贖ったものだ。もう盛りの季節は過ぎたか、ミカンそのものを置いていない店もある(むしろ、ポンカンの季節らしい)。でもミカンが食べたい。それもおいしいミカンが。

          おいしいミカンを求めて

          千里の行も足元に始まる。コンピュータはいったいどんな機械なのか。

          コンピュータの歴史と原理を学ぶべく、最近、時にうんうん言いながらも、読み通したのが、『プログラムはなぜ動くのか』、『コンピュータはなぜ動くのか』(ともに矢沢久雄著、日経BP)の2冊である。 前者のほうが先に出版されていたので、そちらを先にした。前者は第三版、後者は第二版と、それぞれ、改々訂、改訂版が出されており、それらを読んだ。特に前者は20万部突破となかなかの人気のようである。 うーん、読み通しはしたが、どちらも十全に理解できたとは言い難い。 まず前者についてだが、C

          千里の行も足元に始まる。コンピュータはいったいどんな機械なのか。

          タイトル『おどろきのウクライナ』より「おどろきの中国&ロシア」のほうがふさわしい?

          タイトルに偽りあり?橋爪大三郎と大澤真幸という、日本を代表する社会学者2人による新書の対談本である。最初に感想を書くと、この内容でこのタイトルはないよ。ただし、羊頭狗肉で内容空疎、というわけではない。つまり、内容に問題があるわけではなく、その肝心のウクライナに関する記述が全体の3割くらいしかないのである。 あのロシアと戦っているウクライナとはどんな国で、どんな歴史を持ち、ゼレンスキーとはどんな人で、なぜロシアに攻められる事態に陥ったのか、そこにはどんな「おどろき」があるのか

          タイトル『おどろきのウクライナ』より「おどろきの中国&ロシア」のほうがふさわしい?

          いい意味でレベル低く、ここまで降りたらもう下がない『コンピュータ、どうやってつくったんですか?』(川添愛著)

          リスキリング?いやいや違う今年、取り組もうと思っていることのひとつに、コンピュータの原理と歴史についての勉強がある。本当なら、自作のコンピュータをつくるところまでできればかっこいいだろうが、それは数年かかってしまうだろう。 冷蔵庫やテレビ、洗濯機の原理と歴史について学ぼうとは思わないが、コンピュータは違う。スマホを含め、何しろ、日々何度も触れるものだし、PCという形で私の商売道具でもあり、これからますますその発達が予想されるAIのことまで視野に入れると、その原理や歴史を知っ

          いい意味でレベル低く、ここまで降りたらもう下がない『コンピュータ、どうやってつくったんですか?』(川添愛著)

          「水を光に変えた男」福沢桃介に学ぶ不屈の闘志と人間力 その3

          この1月、私が上梓したのが『水を光に変えた男 動く経営者、福沢桃介』(日本経済新聞出版)という単行本である。明治大正期に活躍し、木曽川流域に7つの水力発電所を開設、電力王と呼ばれた実業家、福沢桃介(1868~1938)の生涯を描いたビジネス小説だ。 現代のビジネスマンが桃介の生き方から何を学ぶべきか、3回にわたる連載の最終回をお届けしたい。 人間というミクロ、世界というマクロ、両方に通ず:処世術と大局観取次を虜にせよ、勉強をみせかけよ 福沢桃介は経営者としては健筆で、生涯に

          「水を光に変えた男」福沢桃介に学ぶ不屈の闘志と人間力 その3

          走ることで実感していることで私の実感していること

          ここ10数年だろうが、30分ほどかけて、毎日5キロ走っている。コロナ禍に突入したこの2年くらいはその頻度が増え、ほぼ日課となった。去年のペースでいうと、365日中、312日走っている。85%である。以前は夕方に走っていたが、最近は寒くなってきたので午前中に変え、朝日を浴びながら足を動かしている。これがすこぶる気持ちがいい。 ここでは、私が日々実感している走ることの効用を書いてみよう。 風邪をひかなくなったし、痩せた、目にもいいまずは風邪をひかなくなった。私は咽喉が弱く、よく

          走ることで実感していることで私の実感していること

          「水を光に変えた男」福沢桃介に学ぶ不屈の闘志と人間力 その2

          この1月、私が上梓したのが『水を光に変えた男 動く経営者、福沢桃介』(日本経済新聞出版)という単行本である。明治大正期に活躍し、木曽川流域に7つの水力発電所を開設、電力王と呼ばれた実業家、福沢桃介(1868~1938)の生涯を描いたビジネス小説だ。 現代のビジネスマンが桃介の生き方から何を学ぶべきか、3回にわたる連載の2回目をお届けしたい。 金は金を愛す者のところに集まる:投資および金銭哲学株価上昇はビールの泡が盛り上がるのと一緒福沢桃介は実業家となる以前、相場師として名を

          「水を光に変えた男」福沢桃介に学ぶ不屈の闘志と人間力 その2

          宮台真司×野田智義『経営リーダーのための社会システム論」

          謎の男から襲撃を受けた今話題の、東京都立大学教授にして社会学者、宮台真司の奉じる思想をわかりやすく講義&対話する形式で綴った本である。『終わりなき日常を生きろ』などで断片的に知っていた彼の思考の真髄に触れることができる良書である(もう一人の著者、野田智義は対話の相手、ファシリテーター、編集者という位置付け)。 「安全、快適、便利」なのになぜ生きづらいのか社会の底が抜けている。宮台はそう日本社会を見ている(正確にいえば日本以外の世界全体もだ)。以前と比べて、交通事故も殺人事件

          宮台真司×野田智義『経営リーダーのための社会システム論」