Weird Medieval Guys: へんてこな中世の世界を愛する人
きっかけは、Twitter(X)で見かけたへんてこな投稿であった。
何…………?
暇な中学生のノート?
あ、これは砂漠(荒野)の40日のイラストかな。ぜんぜんその辺に食い物ありそうな背景ですが…。
こんな具合で、中世の欧州において描かれたヘンテコなイラストレーションを集めて投稿しているのがOlivia M. Swarhoutさん(X: @WeirdMedieval)によるweird medieval guysなるアカウント。日々の隙間に流れてくるなんとも言えない年代物のヘンテコたち。フォローすれば、あなたの毎日にも素敵なweird guysが溢れることでしょう。
そんなweird medieval guysが書籍になります!!それも紙媒体、VINTAGE
から出版!!!という情報を耳にしたのが去年の夏。なんと世界中から注文できる(もちろん日本からも!)。気がつくと注文手続きを済ませており、11月には手元に書籍がやってきた。
著者のOliviaさんは歴史の研究者ではないけれど、歴史好きが高じてアカウントの運営に至った人。なのでこの本もイラストにまつわる歴史を解説するものではなく、中世の世界と、それを表したイラストたちを愛する現代人の著者による、中世の世界への探究をまとめたものになる。読者は、テーマごとにまとめられたちょっとかなり変なイラストたちから、1000年前の人々の暮らしを夢想することができる。著者による解説も、イラストそのものに対する解説というよりは、イラストを介して中世欧州の世界に入り込むことを助ける情報、という感じ。この本のコンセプトについては、前書きでも以下のように書かれている。
weird medieval guysのアカウントをフォローしていると納得なのだけれど、とにかくイラストの間にちょっと差し込まれるキャプションがユーモアたっぷりで、クスッと笑いながら眺めることができる一冊。
全てのイラストは巻末に出典が明記されているので、いったいどういう経緯でなんのために描かれたイラストなんだ…と気になった人は調べることもできる。
この本は歴史書ではない、ということは明記されているけど、それでも多様なテーマに沿って集められたイラストたちからは、当時の世界観を十分に感じ取ることができる内容になっている。優れた移動手段も、写真も、映像技術もない時代。誰も世界の果てを知らなかった時代。当然、身近にないものたちの描写は曖昧になり、想像の領分が広がり、そこにはドラゴンもユニコーンもケンタウロスも住む場所があった。死は現代よりずっと身近にあり、現代のイラストレーションよりもずっと生々しく、恐ろしく、流れ出る血の温かさが伝わってくる。
そしてこの時代に形作られたモチーフは、現代の創作物にとてつもなく大きな影響を与え続けている。この本を手に取って思い出したのが、Harry Potter シリーズやFantastic Beastsで知られるJ. K. Rowlingさんの世界観のフィーチャーした、大英博物館の展示。Amazon prime videoでBBCによる特集を見つけて観た。
Harry Potter: a History of Magic (BBC)
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B083TBW296/ref=atv_dp_share_cu_r
J. K. RowlingさんはHarry Potterシリーズの世界に出てくるモチーフの多くを、中世の歴史書や当時の資料から得たという。この特集番組では、大英博物館に納められた資料を見ながら「このマンドラゴラは私のとはだいぶ違うね」「原本の資料は初めて見た」なんて嬉しそうに話すJ. K. Rowlingさんの様子が収められている。面白かったのは、代々続くWand makerの家族(現在でも魔法の杖を作っている)が紹介されていたところ。「彼らの魔法の杖とは異なり、J. K. Rowlingの世界の魔法はすぐに、劇的に効きます」なんていうナレーションも最高。魔法ってあるんですけど、フィクションの世界とはちょっと勝手が違うんですよね、という前提が素晴らしい。ありがとうBBC。
ファンタジー作品は世界中で大人気。特に、最近の米英のYAに当たる小説はファンタジー・ラブロマンスがすんごい売れているみたい。weird medieval guysは、私たちは夢想の世界に憧れるけど、でもファンタジーのエッセンスはかつての時代に本当にあったんだよ…ということを思い出させてくれる。日本でも、漫画やライトノベルを中心に中世欧州の世界観を取り入れたファンタジーが大人気の今。ぜひ、モチーフとなった人々の、生の声(絵)を感じてみませんか。
weird medieval guys (書籍)は以下のリンクから注文できます。国と地域によっては書店でも購入できるみたいですが、日本からは通販が早そう。
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